*1997年08月11日:「人体の不思議展」「ターナー展」
*1997年08月12日:蝉の鳴き声について
*1997年08月13日:キャプテンKen/白いパイロット/勇者ダン/ユニコ(小学一年生版)、等調査
*1997年08月14日:ユニコ(小学一年生版)/銀河少年/おれは猿飛だ!/ネオ・ファウスト/伴俊作まかり通る、等調査
*1997年08月15日:手塚治虫調査、最終コーナーを回る
*1997年08月16日:「ちばてつやとすてきな仲間たち展」
*1997年08月17日:「吾妻ひでお 発表年代順全作品リスト(詳細版)」再改訂
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*1997年08月11日:「人体の不思議展」「ターナー展」


 まずは亡父の墓参り。京浜急行沿線の横浜霊園である。その帰りに、せっかく横浜まで出たのだからと、桜木町で降りて、みなとみらいへ。

 「人体の不思議展」(俗称、輪切り展。ほんとか? [;^J^])である。全国を巡業しており、数ヶ月(半年以上?)前には浜松にも来ていたのだが、気が付かずに行きそびれていたという次第。

 その図録は、(筋肉や骨格、咽頭の構造の教材として)ボイトレの先生宅で見せていただいており、レッスンに通う度に、順番待ちの間に読んで(見て)いたりするので、標本に対する予備知識は十分にあったわけだが、やはり“本物”の迫力は違う。病変した内蔵の標本も多数あったが、どこが異常なのかが解らない例も多く、やや残念。(つまり、正常な状態の標本と並べて展示されていないものが、少なくない。)ここで販売されていた図録は、浜松での展覧会で販売されていた(すなわち、先生宅で見せていただいている)ものとは違う。写真の角度やレイアウトが異なるし、巻末にまとめられていたキャプションが、各該当頁に配置され、読みやすくなっている。ちょっと迷ったが、購入は見送る。

 出口付近に、記念プリクラが2台置かれているのには、驚いた。[;^J^] 恐いので覗かなかったが、スライス写真とのツーショットなのであろうか? [;^J^] ま、プリクラと思うから、構えたり眉間に皺が寄ってしまったりするのだが、「記念写真」のこんにち的形態なのである、と、考えを改めるしかあるまい。

 その足で、すぐ隣の横浜美術館へ。「ターナー展」である。初期・中期・後期とバランス良く集められていて、満足。挿し絵の仕事が並べられており、これは多少珍しいので興味を惹かれたが、まぁターナーの仕事としては、マイナーと言うか、さほどのものとも思えず。

 常設展も、ついでに覗く。ほんの暇つぶしのつもりだったが、これが大当たり。マグリット、エルンスト、ダリ、ミロ、ドミンゲス、キリコ、ラム、ピカソらの、シュルレアリスムの逸品に、ドラクロワ、モローの小品まで加えた、私仕様の展示である。

 いささか(負の)ショックを受けた作品もあった。遠目に見て、「嫌だな、ダリのエピゴーネンだよ、そんな“贋物”は観たくないな」と思った作品。近寄って観てみたら、その、いかにもダリの作風を下手に真似した作品は..ダリの作品であった。[;^J^]

 1942年に制作された連作で、「暁」「英雄的昼」「夕暮」の3作。思い出してみれば、確かに画集で観た記憶があるが..こんなに凡庸な作品だとは思わなかった。内容やモチーフもそうだが、何よりも、必要以上の大画面なのである。これには呆れた。

 ご存知の方も多いと思うが、ダリの壮麗な幻想絵画の多くは、実は、驚くほど小さなカンヴァスに、精巧なミニアチュールとして描かれているのである。さもなくば、後期の超巨大作品群。「クリストファー・コロンブスのアメリカ発見」「まぐろ漁」「ティトゥアンの大会戦」「幻覚素の闘牛士」などには、巨大画面から溢れ出さんばかりの情報量と幻想が詰め込まれている。

 ここに陳列されている3作は、ただ大画面であるだけだ。そのあまりの内容の無さ、無意味にひろがる(地面や海面や空の)ベタは、観る者を戸惑わせる。大戦中ではあるが、この時期には、もっといい仕事もしていたはずだが..浜松に帰ってから、調べてみるか..

 それにしても暑い一日であったが、昨日と合わせて、二日で4つ、展覧会を片づけたわけだ。なかなか充実している休暇である。

 帰宅してから、昨夜から取り掛かっていた大仕事、「吾妻ひでお 発表年代順全作品リスト(詳細版)」のメンテを終わらせる。全作品のタイトル・サブタイトルを、初出誌(初出誌にサブタイトルが無い場合は、最初に収録された単行本)の表記に揃えたのである。タイトルはともかく、サブタイトルは、単行本に収録される際に変更されることが珍しくなく、また、単行本によって異なることも多い。従来は、初出誌での表記、最新の単行本での表記等、混在していたのである。

 迷うところではあった。単行本から逆算して調べる場合、単行本の表記でリストアップされている方が、使いやすい。しかし、「発表年代順全作品リスト」である以上、時系列を守るべきだと思うのだ。サブタイトル欄に、のちに改訂されたものを入れると、時間の流れが一様でなくなってしまう。

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*1997年08月12日:蝉の鳴き声について


 あまりの暑さに、実家から一歩も出ずに、読書など。

 体力を失い、地面に落ちてもがく蝉を見て、思うこと..蝉は一週間、生を謳歌しているのだろうか? あの鳴き声は、断末魔の叫びではないのか? 暗く暖かい地の底から地上に追いやられ、灼熱の陽光で体を焼かれ..

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*1997年08月13日:キャプテンKen/白いパイロット/勇者ダン/ユニコ(小学一年生版)、等調査


 国会図書館へ。今日のテーマは、少年サンデー連載作品のサルベージである。「キャプテンKen」「白いパイロット」「勇者ダン」。

 「勇者ダン」で、また不愉快なことに気が付いてしまった。この、北海道を舞台とする作品で、初出誌では登場人物のひとりが、アイヌを蔑視する東京人に対して、「わしもアイヌだ! アイヌのどこが劣等民族だ! 劣等民族というのは、おまえさんがた東京人の中にいるんじゃないのか!」(大意)と叫ぶシーンがあるのだが、全集では、アイヌという言葉は完全に削除され、あたりさわりの無い台詞に変更されている。

 これによって、手塚治虫による「アイヌ差別への糾弾」は無かったことにされ、即ち、アイヌ差別自体、無いことにされたわけだ。現実に差別が存在する以上、この出版社による措置は、差別する側に荷担するものでしかない。

 学年誌には、まだまだ残務が多い。今日は、その中でも最長の連載である「ユニコ(小学一年生版)」に手をつけるが、終わらず。これは明日に調査完了の見込み。

 現代マンガ図書館に寄って、ちょっと拾遺作業。

 それにしても不思議(異様)なのは、東急線横浜駅の改札。自動改札が2台ある他は、“人間”が3人いるのである。今どき。設備投資と人件費のバランスなのだろうが、この程度の設備投資が出来ないとは、不思議である。東急が儲かっていないわけないのに。(儲かっているから、こんな無駄使いが出来るのか?)

 コミケの用意。いや、私は参加はしないのだが、「あじましでお追跡委員会(ASTI)」から、「吾妻ひでお 著作リスト」のFD版を(実費程度で)販売する予定であり、そのためのデータの準備をする。テキスト版と、ブラウジング用に HTML ファイル群を、FDに入れておけばいいだろう、と、軽く考えていたのだが、実はちょっとした階層構造を前提としたリンクが張られており、このままでは著しくポータビリティに欠ける。FDの生産自体は、階層構造を保持したマスターを作ってベタコピーすればしまいなのだが、ユーザーが(アクセスの遅い)FDを直接、ブラウジングするとは思えず、必ずやHD等にコピーするであろう。その際に、階層構造を維持せよ、とは言いたくない。

 という訳で、フラットディレクトリ版を作る。そしてまた、あっさりとはまる。[;^J^](教訓:ディレクトリ階層が違うからといって、同じ名前のファイルを作ったりしないこと。)

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*1997年08月14日:ユニコ(小学一年生版)/銀河少年/おれは猿飛だ!/ネオ・ファウスト/伴俊作まかり通る、等調査


 今日は朝から雨もよい。たいした降りではなく、それも、シトシトというよりはサラサラという降り方で、実に涼しくて爽やか。もっともこれで、日中に日が射して、ついでに風でも止まった日には、蒸して地獄だろうが。

 今日も国会図書館。まず、昨日調べ残した「ユニコ(小学一年生版)」を終わらせる。計算上、全集未収録エピソードが6話あるはずだったが、そのうち3話は使いまわしだったので、新発見は3話。(それにしても、一年前の(掲載月も同じ)エピソードを使いまわせるとは、さすがは毎年読者が総替えになる学年誌である。[;^J^])

 「月刊プレイコミック」が、本当に国会図書館に無いのか、再確認する。これはどうやら見込み無し。諦めるしかない。しかし、古書店でも滅多に見かけない雑誌だしな〜。困った。

 全集未収録の連載「銀河少年」をチェック。惜しいことに、連載最終回のみ、欠号である。(「おもしろブック」1953/02号。)結末が不明なのだが、とにかく、コピーを取っておく。(単行本になっていただろうか?)

 「おれは猿飛だ!」は、例によって付録が読めないので、実質半分も読めなかったのだが、上下各巻が何月号に掲載された分かは、確定できた。(しかし、この作品は、描き直しが非常に多い..)

 「ネオ・ファウスト」も、一気に調査完。うち2ヶ月分は、他の利用者とバッティングしていて、いったんは出納に失敗したのだが、請求票提出締切り時刻(16:00)ギリギリまで引き付けて、再請求。これで出納・閲覧に成功。一般に、国会図書館では、返却→書庫→貸し出し可能状態にリセット、のパスが長く、いったん貸し出されたものは、その日のうちに再貸し出しすることは不可能と言われている(それほどまでに、能率が悪いとされている)のだが、運が良かったと言うべきか。(しかしやはり「ネオ・ファウスト」は、驚くべき傑作である。)

 珍しく時間に余裕が出来たので、全集未収録の「伴俊作まかり通る」をチェックしてコピーに回す。創刊僅か3号で廃刊となった雑誌と運命を共にした、未完の連載である。

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*1997年08月15日:手塚治虫調査、最終コーナーを回る


 昨日は、10月上旬の陽気だったらしい。今日も雨。今日も涼しい。夏も終わりか?

 手塚治虫の調査作業が最終コーナーを回ったので、残務のリストを清書して工数を見積もる。あと国会図書館に10数回通えば、一段落する見込み。

 無論、「調査完了」を意味するわけではない。国会図書館でも現代マンガ図書館でも閲覧できない初出誌については「棚上げ」する(している)し、また、閲覧可能な初出誌を、全て読んでいるわけでもない。データに曖昧な点があったり、なんらかの理由でデータが疑わしかったり、あるいはその他の、特に読んでおきたい事情があるなどの場合に限って、初出誌にあたっているのである。「ブラック・ジャック」を例に取ると、単行本未収録作品を現代マンガ図書館で閲覧しただけだ。これは「(ブラック・ジャックの初出誌・単行本の完全リストである)坂本リスト」に、全幅の信頼を寄せているからである。その他のリストや資料には、ここまでの信頼性は無いので、本当は(閲覧可能な)全初出誌を読むべきなのだ。いずれは読むつもりだが..

 というわけで、調査が「当面の」壁にぶつかるまでに、国会図書館詣でがあと10数回、というのが、より正確な表現である。国会図書館や現代マンガ図書館に初出誌の蔵書がなくても、古本屋で(大枚はたいて)探し求める、という手はある。(手塚治虫調査に遥かに先行して、既に最終段階に突入している吾妻ひでお調査は、とっくの昔にそのフェーズに入っているのである。)その意味では「壁」などなく、全く底無しの泥沼なのだ。

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*1997年08月16日:「ちばてつやとすてきな仲間たち展」


 三日連続で、とても涼しくすごしやすい(などと油断していると、ぶり返しの猛暑が来るに決まっているのだが)。

 午後2時半に、東京駅八重洲口で待ち合わせ。ASTIのメンバーと「ちばてつやとすてきな仲間たち展」襲撃である。会場は、西日暮里から千代田線でひと駅の町屋。驚いたことに、この区間の千代田線は、上りと下りで階層(深さ)が違うのだ。

 Aさん、G氏、H氏、O氏、B氏、T.T氏、T.M夫妻、そして私。頭文字なので判りにくいとは思うが、非常に濃いメンツである。

 大勢のマンガ家たちが、ちばてつやのマンガ家生活40周年を祝う色紙を寄せている。その中には、吾妻ひでおのものも含まれている。もちろん ASTI としては、第一義的には、これが目当てだったのだ。しかし率直に言って、吾妻ひでおによる色紙は、他のマンガ家連の色紙と比べて、さほど出来のいいものではない。ヒネリもアイデアも霊感も感じられない、凡庸な色紙であった。

 それよりも興味深かったのは、ちばてつやの一連の原画群である。彼がキャリアの極めて早い段階で安定した画風を確立し、それを実に40年間、本質的には変えることなく維持してきたのだ、ということを痛感した。プロ中のプロと言えるのはもちろんである一方、作家個人史の上では、波乱も変化も少なくて、つまらないとも言える。

 会場のビルの地下の店に席を移して、飲み会。G氏、H氏、B氏、T.M夫妻と私、計6人。ほとんどデフォルトのエヴァ話の他、アニメ、マンガ、コミケ、特撮、等など、こころゆくまでオタク話にふける。帰りの電車の中では、H氏とオタク話の続き。和製クトゥルーで読むに値する作品は何か、とか、「少年」誌末期(昭和42年)に連載された、泉ゆき雄の驚くべき傑作、「大マシン」について。(この作品については、以前に書いた、「大マシン」頌を参照のこと。)日本のオタクの雄たる博識なH氏も、「大マシン」を知らなかった。これはなんとしても復刻・再評価せねばならぬ作品なのだ。太田書店に働きかけるべきか。

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*1997年08月17日:「吾妻ひでお 発表年代順全作品リスト(詳細版)」再改訂


 帰省は今日まで。本当に今日もとても涼しくすごしやすい(などと油断していると、ぶり返しの猛暑が来るに決まっているのだが)。朝いちでH誌(Hな雑誌にあらず)から書評依頼のメールが届いていたが、検討の末、その任に耐えずと、辞退の返事を書く。

 どこにも寄り道せずに、新横浜から浜松へ。こだま車中で、昨晩思い付いた「吾妻ひでお 発表年代順全作品リスト(詳細版)」の再改訂作業に没頭する。

 全作品のタイトル・サブタイトルを、初出誌(初出誌にサブタイトルが無い場合は、最初に収録された単行本)の表記に揃えたのが今週の月曜日で、これは確かに筋が通っているのだが、現行の単行本から調査をする時、これではかえって使いにくい(初出時のサブタイトルが判らない場合、いったん、単行本リストで検索をかけて、注釈から初出時のサブタイトルをゲットし、これをキーとして検索をかける、という二度手間三度手間が発生する)のが問題だった。

 実に簡単な解決策があった。各レコードを1フィールド増やし、最終フィールドに初出誌以降の別タイトルを追記すれば、それでいいのだ。

 ..というわけで、ひたすら手作業で別タイトルを拾っては、貼り付ける。(例によって微妙な例外が多く、自動化出来なかったのだ。)これが271作品あった。無論、こだまが浜松に着くまでに終わるわけがなく、帰宅してから深夜まで作業が続く。

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*解説


MASK 倉田わたるのミクロコスモスへの扉
Last Updated: Aug 23 1997 
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