*2003年05月12日:自業自得
*2003年05月13日:「重力の虹」
*2003年05月14日:「放浪者メルモス」
*2003年05月15日:「薔薇の名前」
*2003年05月16日:室内楽について
*2003年05月17日:「死霊」
*2003年05月18日:「天路歴程」/「痴愚神礼賛」
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*2003年05月12日:自業自得


 9時から、会議室で薬の説明があったが、途中で頭がクラクラしてきて辛かった。

 「重力の虹 I」読了。「重力の虹 II」を読み始める。

 ..午前中の頭クラクラは、どうやら麻酔の副作用なんかではなく..単なる寝不足じゃっ! タワケッ! [;^.^](同情の余地無しっ! [;^.^])(向かいのベッドに別の患者さんが入ったことでもあるし、夜更かしすべきではないので、22時には素直に寝る。(寝付けるかどうかは、別問題である。))

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*2003年05月13日:「重力の虹」


 「重力の虹 I,II」(Thomas Pynchon、越川芳明、植野達郎、佐伯泰樹、幡山秀明訳、国書刊行会)読了。

 これ、面白いんだか、面白くないんだか..[;^J^] お手本である(のだろう)「ユリシーズ」と比較すると、構成(設計)が緩いような気がするし、個々の(断片的)シーンの魅力に、密度差(温度差)がある。狂騒状態で読者を引っ張り回す、というタイプではないし..まぁ、いささかダルなエピソードでも「考えながら(観念的に)」楽しむことはできる。この要素とこの要素が対応しているな、とか。しかし正直なところ、こういう読み方には“お付き合い感”というか“義務感”が伴う。キャラの魅力は、まずまず。主人公が「ロケットマン」や「豚男」の扮装で動き回る、という後半のドタバタ趣向は良い。しかし例えば第4部の第2エピソードにおける、ロジャー・メキシコの暴れっぷりについていけない(浮いている)。これなど、作者の意図が空回りしていると思う。また、「ノアの箱船」とも「阿呆船」ともみなせる「亡命船アヌビス号」における、乗員ほぼ全員が「数珠繋ぎ」になる乱交パーティーに、どういう意味があるのか。サドの「ジュスティーヌ」(「ジュリエット」だっけ?)にある似たようなシーンを想起させるが、それほどのものではないし、“カオス”の象徴とも読めない。単なる読者サービスかも知れないが(そしてそれならその“意図”は全く悪くないが)、それにしては描写がヘタすぎてつまらないし..どうも、「とりあえず乱交でもさせとけ」、としか読めず、しらける。脚注が(敢えて)ひとつもないのだし、参考文献を片手に再読すれば、山のような発見があるのであろう。しかしそれをしている時間があったら、別の本を読んでいたい。

 18:10から、肛門の病気と大腸の病気のセミナー(スライドとビデオ)。勉強になる。痔(内痔核)の手術風景のビデオ、グロいですぅ [;^.^]。あんなことされてたのか。ひーーーん、ごめんなさい..(..と、理不尽に謝りたくなってしまう。[;^.^])

 「放浪者メルモス 上」(Charles Robert Maturin)を読み始める。

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*2003年05月14日:「放浪者メルモス」


 「放浪者メルモス 上・下」(Charles Robert Maturin、富山太佳夫訳、国書刊行会)読了。

 僕はやはり、「重力の虹」みたいなのよりは、こういう、ストーリーラインが明確な小説の方が好きだなぁ [;^J^]。(多重構造の枠物語ではありますが。)悪魔と契約したメルモスは、唯の一人も誘惑できない。落ちる直前のイシドーラとの対話における戦きと、天への叫び(p497)。イシドーラの運命は、ゲーテ版ファウストのグレートヒェンのそれと重なる。メルモスの地獄落ちの場は、ヨーハン・シュピース版ファウストを想起させる。ゴシック・ロマンの最高峰との評価が納得できる、素晴らしい傑作。

 「薔薇の名前 上」(Umberto Eco)を読み始める。「マンク」「メルモス」と、僧院つながりである [;^J^]。「病院」「入院」からの連想というわけではない。(← 縁起でもない。[;^J^](← それはそれで罰当たりな。[;^.^]))

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*2003年05月15日:「薔薇の名前」


 「薔薇の名前 上・下」(Umberto Eco、河島英昭訳、東京創元社)読了。

 これほどの名作も、未読なのでした。人口に膾炙しすぎたベストセラーは、つい後回しにしてしまうという、ありがちな性格なものでしてねぇ。[;^J^]

 「記号論」については詳しくはないのだが、主人公の名前が(呆れたことに)「バスカヴィルの」ウィリアムであり、いきなり(名刺代わりに)推理の披露(押し売り)をするあたり、なるほどこの主従は、そういう「記号」か、と、納得したが [;^J^]..(何か誤解してる? [;^J^])「書物の書物」と聞いていたので、メタ構造かと思っていたのだが、そうではなかった。ミステリとしては、トリック(殺害方法)は早くから見当がつくが、連続殺人事件の犯人(というか最初のきっかけ作りをした人物)の正体は、それほど平易ではない。

 この迷宮(図)は素晴らしい。私も、こんな書庫が欲しい。[;^.^]

 最後の大崩壊については、主人公たちに重大な責任があると思うけど..[;^J^]

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*2003年05月16日:室内楽について


 先日購入した MOVING WAVES や TARKUS を聴いて、改めて痛感した。ロックは、少なくとも「編成」と「書法」の視点から見る限り、「室内楽」なのである。(「迫力もパワーもノリも、全然比較にならないじゃん!」、と、思ったあなたは、バルトークやショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲を聴いていないのだ。)

 そこで問題になるのが、もちろん、イエスだ。分水嶺はアルバム「こわれもの(Fragile)」だ。A面1曲目の Roundabout は、疑いなく「室内楽」の傑作だが、B面ラストの Heart of the Sunrise は、室内楽と言えるだろうか? この曲は、明らかに交響楽を目指しているのである。(誤解しないでいただきたいが、メロトロンサウンドがどうのこうのという、響きの表層的な問題ではない。むしろ「構成」の問題なのである。)

 「交響楽たらんとするロックは邪道である」、という仮説を立ててみると面白い。以下、イエスにフォーカスするが、アルバム「海洋地形学の物語(Tales From Topographic Oceans)」は、邪道の極みということになる。これは、構想的にも規模的にもベートーヴェンの第九に近いのだが(そして、この長さを支えるだけの内容は無いのだが)、むしろブルックナーの交響曲に近いような気がする。そうなると、アルバム「危機(Close to the Edge)」こそ、奇跡的な傑作であると言わなければならない。ここでは、室内楽性と交響楽性が、完璧に融合しているのである。

 「死霊(しれい)I」(埴谷雄高)読了。「同 II」を読み始める。

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*2003年05月17日:「死霊」


 「死霊 I,II,III」(埴谷雄高、講談社)読了。(もちろん、未完。)

 一文一文、一概念一概念のトレースは出来なかった..[;^J^]。これを“読了”した皆さんは、どうですか? 全部トレースしましたか? [;^J^]

 まぁ、雰囲気だけは掴んだ(咀嚼した)、という、いい加減な読み方だが..虚体論。不快の感覚。全編を通じて(心象風景としての?)情景描写、雰囲気描写に優れる。霧。河面。印象派というよりは、むしろターナー風の幻想風景。第7章は、「スターメイカー」の世界か。登場人物が、どいつもこいつも同じ間投詞(「あっは」「ぷふい」) が口癖であるのには閉口したが、言うだけ野暮か。[;^J^]

 「天路歴程 第一部」(John Bunyan)を読み始める。

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*2003年05月18日:「天路歴程」/「痴愚神礼賛」


 「天路歴程 第一部・第二部」(John Bunyan、竹友藻風訳、岩波文庫)読了。

 他愛の無い、と言ってもよさそうな、わかりやすい寓話。福音書の副読本(?)として、福音書よりもよほど楽しく気楽に読める、という値打ちは大であろう。小説技法上の荒削りさを指摘する必要はあるまいが、しかし第一部、「疑惑の城」に幽閉されたクリスティアンが、いきなり(それまでなんの説明も無かった)「鍵」を取りだして脱出してしまうシーンでは、さすがにずっこけた [;^J^]。

 「痴愚神礼賛」(Desiderius Erasmus、渡邊一夫訳、岩波文庫)読了。

 もちろん、逆説・風刺なのだが、素直にそのまま読めてしまう個所が多いのは、こちらに問題あり? [;^J^] 汚れてる? [;^J^] 例えば p88、(年甲斐もなく若作りの狂態で喜んでいる婆どもを指して)「かういふ婆様方を滑稽だと思ふ方々にお願ひしますが、このやうな狂氣沙汰に及びながらも樂しい生活を送るはうが、下世話にも申す通り、首をくゝる為に梁木を探しまはることよりも、ずつといゝのではないかといふことを、お考へ下さいましな。(中略)御當人は、不面目を何とも感じませんし、御當人にとつては問題ではないのです」..うんうん、そうだよなぁ、世間体なんか気にせずに、死ぬまで楽しくやっていく方がいいよなぁ..と、納得してしまった。[;^J^]

 「震えない男」(John Dickson Carr)を読み始める。

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*解説


MASK 倉田わたるのミクロコスモスへの扉
Last Updated: May 27 2003 
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