1.発端

 ことの起こりは、5月29日に届いた、JTBからのツアーの案内であった。

== サイエンス ライター 金子隆一が同行する ==

中国 シルクロード 恐竜 ツアー

10日間(大人お一人様) 450,000円

 昨年の恐竜ブームで数多くの「恐竜ツアー」が企画された。しかし、当ツアーは今までのような観光要素が強いものではなく、専門的かつ学術的な本物の恐竜ツアーである。

★恐竜や古生物について数々の著書を持つサイエンスライター金子隆一氏が同行する
★恐竜発掘の専門家、中国科学院の学者が全行程の現地案内を行なう
★外国人未開放地区である「恐竜の故里」五彩湾・将軍廟に足を踏み入れる
★ウルムチ、北京市内の古生物博物館を見学

 これを読んだ瞬間、ほとんど心は決まっていたのだが、海外旅行と言えば北海道にすら行ったことのない私は、念のためにこのパンフレットを社内の旅慣れている後輩に、信用出来るものかどうか、料金の相場はこんなものかどうか、“鑑定”してもらった。結果、信用性は問題ないが、料金はいかにも高い。中国10日間ならば20万円台ではないか(貧乏一人旅ならば、もっと廉い)ということであった。(のちに、これほど高額なのは、“外国人未開放地区”に足を踏み入れるためのパスポートを得るために必要な金額が、べらぼうに高いからだということが判明した。察するところ、45万の半額近くが、これに割かれているのではあるまいか。)

 ここで僅かに躊躇したが、日程表を見直して迷いが消えた。前半5日間は、砂漠の中の恐竜発掘現場で、プロの指導を受けて作業と見学、後半5日間は、やはり学者の指導付きで博物館巡りである。(多少とも看板に偽りありだった件は、のちに述べる。)中国奥地の新彊ウイグルは恐竜発掘のメッカなのである。内容が良すぎる。定員30人(最少催行人員20人)である。ぐずぐずしていて落選したら大変である。早速申し込んだ。




2.旅行前夜

 さて、予約締切も近い6月17日に、準備の都合があるので状況確認の電話をJTBに入れたら、まだ3人しか集まっていないので、中止になる可能性が高いとのこと。残念半分、(金が助かるので)ほっとした気分半分である。やれやれ。..と、ここで気を抜いて一切の準備を取りやめたのが失敗。

 6月24日に休暇を取って休んでいたら、JTBからの電話で叩き起こされ、5人しか集まらなかったが、金子隆一氏の強い意向で、JTBとしては赤字だが決行するとのこと。

 いったんリセットした準備を再開するのは、思いのほか、大仕事である。この日から出発の7月19日まで、週末は勿論、ほとんど連日買い出しの仕儀と相成った。いかに泥縄だったかは、下記のジョブリストを見れば見当が付こうというものである。

等など。

 もっとも心を砕いたのはカメラの件である。社内のカメラに詳しい人たちに質問し、紹介されたカメラ屋のマスターにも相談して購入したコンパクトカメラ(PENTAX ZOOM90−WR)に、ISO400、ISO100のフィルムを入れて、連日撮影実験を繰り返す。このカメラは、結果的に大正解であった。もっといいカメラは星の数ほどあるにせよ、ほどほどの小ささのコンパクトカメラで、ズームその他各種ファンクション一式付き(特にリモコンとタイム指定の出来るバルブ撮影機能とインターバル撮影機能が、重宝した)で、かつ、“生活防水”というのがポイント。砂漠だからといって、生活防水(防塵)でなければ使えないという訳ではないが、砂だらけの手で無造作に扱えるのは、実に有難かった。




3.出発

 浜松からは、成田発、朝9:10の便に乗るためには、大枚はたいて前泊しない限り、大垣発の通称“人民列車”に乗るしかない。浜松1:03、東京駅4:42、空港第二ビル6:27。恥ずかしながら、飛行機に乗るのも成田に来るのもこれが初めてであるが、迷いようもない、こじんまりとした空港である。これをもって「日本の玄関として恥ずかしい」という向きもあるようだが、狭いこと自体に問題があるとは、全く思えない。無論、それ故に渋滞するとか能率が悪いとかいうことがあるのならば、話は別である。小さな空港は移動距離が短くてよろしい。(海外のまともな大空港では、そもそも荷物を持って歩く必要すらないのかも知れないが、私は知らない。)

 Iゲート前で、同行の人達と顔合わせ。金子隆一氏。金子氏の古い知己であるT氏。引退した整形外科医のH氏。元気なお年寄り、Mさん。エンジニアのYさん。私を含めて計6名。経費節減のため、ツアコンはいない。

 9:24、離陸。長崎を経由して12:17、上海着(時差マイナス1時間)。呆れるほど近い。(しかし機内食は不味かった。新幹線グルメといい勝負である。)ここで中国の国内線に乗り換え、14:35、ウルムチに向けて離陸。発券や手続きは、実に緩やかであったが、飛行機の発着自体はオンタイムである。新彊航空の機体は、旧ソ連製のイリューシン86。内装は古く、その意味ではJALの機体に遥かに及ばないが、噂で聞いていた様な、隙間風が入る様な機体では、全くなかった。考えてみれば当たり前で、新彊ウイグル自治区は、石油が出ることもあって、金持ちなのである。その首都のウルムチにある航空会社が貧乏な訳はない。(しかしやはり、機内食は不味かった。[;^J^])




4.ウルムチのホテルの夜と朝

 19:00、ウルムチの空港に着陸。さて、知っている人も多いと思うが、中国は、国内に時差が無い。つまり、西から東まで、全て日本時間マイナス1時間である。よって、到着したのは19:00であるが、どうみても15:30の陽射し。以降も現地時刻で記すが、約3時間巻戻して情景を想像していただきたい。(あまりにも不自然なので、現地ではマイナス2時間した“ウルムチ時間”が運用されているらしいが、列車等を使った普通の観光をしなかったので判らなかった(が、数回、待ち合わせ時刻に関して意志の疎通を欠いた局面はあった)。尚、列車の時刻表は北京時間らしいが、当地の人々は混乱していないのだろうか?)

Picture (fig.01)ホテルのロビーにて、金子隆一さんと。
(ふたりとも)あまりの若々しさが痛々しい。[;^.^](以下、キャプションは全て、2013/09/30)

 20:00、新彊環球大酒店着。飯店と酒店の違いは良く判らないが、いずれにせよ、JTBのパンフを信用する限り(JTBの基準では)一流ホテルである。が、勿論、日本の“一流ホテル”とは、基準が異なる。部屋がやや汚れていることはともかく、整備が悪い、というよりは、工作精度が悪い。例えば、洗面器に水を張るために、栓(というかなんというか)を上に引く(判りますよね?)のだが、これがロックせずに戻ってしまう。また、洋式トイレで男子が小用を足すときには、(少なくとも日本では)便座を上げるが、これがやはり倒れてきてしまうので、押さえていなくてはならない。さらに、シャワーの孔がきちんと放射状に開いていないので、お湯がきれいに散らない、等など。別にこれは日本に比べて“劣っている”点を並べ立てて、“見下している”のではないので、誤解の無きよう。単に、日本の常識が通用しない点を見つけて、面白がっているだけである。これらの“不具合”は、そんなものかと思ってしまえば、不都合は(さほど)無いのである。日本(やアメリカ)の品質やサービスの基準に、普遍性がある訳ではない。現地では、現地の基準が一番正しいのだ。

 20:50、ホテル内のウイグル族のレストランで食事。客席案内係は、ウイグル族の美人である。ウルムチは、まだ漢民族が多いが、地理的には完全に西域、イスラム文化圏である。レストランには日本人が普通に連想する中華料理を出してくれる漢民族仕様のものと、イスラム仕様の“清真料理店”がある。後者には豚肉は無く、肉はほとんど羊だけである。街中の看板も、漢語とウイグル語が併記されている。後者は全く読めない。[;^J^]

 我々一行を引き回して頂ける“中国科学院の学者”は、李大健先生。金子氏が中国で取材する時は、いつもこの人のルートを使っている。李先生は、日本語が達者である。それもそのはず、86年までは、浜松ホトニクスに勤めていた由。浜松でほぼ2年間、私のいた寮からさほど遠からぬ場所に住んでいらっしゃった訳で、全く世間は狭い。

 料理は実に旨かった。(全旅程を通じて、(機内食と、キャンプでのカップ麺を除けば)基本的に料理は全て旨かった。)特に美味しかったのは、具が果物のチャーハンである。尚、Mさんは羊が、Yさんはピーマンが駄目なことが判明する。この女性陣二人は、このあと少々、苦労することになる。[;^J^] 自己紹介の中で、H氏は整形外科医という職業柄、“骨”に興味を持ち、その流れで恐竜の化石に辿り付いたこと、Mさんは、モンゴルで古生代の海洋生物の化石に遭遇して、その魅力に魅せられたこと、Yさんは、ジュラ紀以前の哺乳類型爬虫類に興味があること、などが披露される。ジュラシック・パークを41回観た勢いで来た、などという馬鹿者は、私だけである。[;^J^]

 翌朝7月21日、7:00起床。(明るさは、実感として4:00位。)ホテルの朝食バイキングは、やはり旨い(が、スープはかなり辛かった)。つい食べ過ぎてしまう。24階の展望レストランの窓から眺める街は、赤茶けている。朝靄の効果もあるにせよ、確かに埃っぽい街である。駐車場に並ぶ自動車には、うっすらと砂埃が積もっている。先入観も多々あろうが、砂漠に近い都市、との思いを新たにする。

Picture (fig.02)ウルムチの朝




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*解説


MASK 倉田わたるのミクロコスモスへの扉
Last Updated: Oct 1 2013 
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