曜日の名前のはなし



 どうして、“曜日”に“惑星”の名前がつけられているのか、何故、それらが、神話の“神々”に関連づけられているのか、疑問に思ったことはありませんか?


「科学・技術の盲点をつく」(倉田正也著 工業調査会)

から、著者の了解を得て、第12章「曜日の名前のはなし」を、要約(節によっては、全文引用)しました。



1.個人的発端 − 順序への疑問

2.英語、ドイツ語、フランス語

3.古代・中世の主要金属

4.順序のもとは何か

5.天動説

6.日本語の名前の由来

7.各国語の名前

8.週は何曜から始まるか

9.週というのは何だろう



§1.個人的発端 − 順序への疑問


 まず、日月火水木金土、という順序が不思議である。火水木金土、というのは、古代人の考えた五行説の五元素であるが、五行説では二通りの順序しか認めていない。
相克順:水−火−金−木−土

(水は火に克ち、火は金に克ち、... )

相生順:木−火−土−金−水

(木は火を生じて灰となり、土は金を生じ結露する)

 手懸かりのひとつは“日月”であり、 もうひとつは“曜”である。曜の字は「光り輝く」の意味である。すなわち、日月と併せ火水木金土の五大惑星で、七つの光り輝くもの、これが“七曜”なのである。

 では、なぜ、火星・水星・木星、... の順序か、なぜこの名前か。外国ではどうなっているのか。



§2.英語、ドイツ語、フランス語


英語ドイツ語フランス語
Tuesday
Wednesday
Thursday
Friday
Saturday
Dienstag
Mittwoch
Donnerstag
Freitag
Samstag
Mardi
Mercredi
Jeudi
Vendredi
Samedi

 フランス語の語源は、分かりやすい。Mars, Mercure, Jove, Venus と見当がつく。ローマの神々の名である。英語・ドイツ語の語源は、相当する北欧の神々の名と見えるが、疑問もある。まず、マルスはローマの男神だから北欧神話の男神 Tiu でなぞった。ウェヌスは美と愛の女神だから同じような女神 Freia でなぞった。これらは、よい。

 不思議なのは神々の使者、商人と盗賊の神メルクリウスが北欧神話の最高神 Woden でなぞられ、最高神ユピテルが北欧神話の豪勇の神 Thor にあてはめられていることである。

 たぶん、北欧がキリスト教に感化された時代を物語っているのであろう。すなわち、マーキュリーは早くからギリシャのヘルメスと同一視されていたが、アレクサンドリアのヘレニズム文明に至り、ヘルメスはエジプトの智慧と魔法の神トートと融合し、きわめて威力のある大神に成長していたのである。一方北欧神話はギリシャ神話に比べると遥かに洗練の度の低い、魔法の多い、ものである。神々の中で最も魔法に達者なのは最高神オーディンであり、オーディンはまた、乗物のせいもあって、最も速いのである。これでマーキュリーとの同一視が起こった。

 しかしラテン系のジュピターを再びオーディンが受けとめるようでは混乱が起こるが何とも結構なことに、ジュピター=ゼウスは雷雲の神なのである。羊飼たちは最も恐ろしい雷を崇めて最高神にしたのである。北欧では雷(独:Donner)の神は Thor であって、これは人間世界(ミドガルド)の守護神であった。この雷同志の対応が成立すれば、つまり二つの“ずれ”が相補うことになって、それでこうなったのではないか。

 英単語の60%以上がフランス語起源なのに曜日の名前が北欧系なのは、文化移植時期を示す。フランス語を使うノルマンの殿様達が大ブリテン島を征服してみたら、アングロサクソン達ももう七曜を知っていた、というわけである。

 このことは土曜日からも言えることである。フランス語、ドイツ語ともヘブライ系の安息日=サバトからきているのに、英語はラテン直系の Saturnus の日としている。すなわち、フランスを通っていないのである。

 さて、ほとんどがローマ神話=ギリシャ神話の神々に結びつく。一方この神々の名は惑星の名でもあるから、つまり星の名に結びつくことになる。ただしここで、フランス語では直接に星の名であり、英語・ドイツ語ではいったんローマ神話の神にずれを直しながらあてはめてから、という違いはあるが。

 しかし、マーキュリーは水銀でもある。ちょっと寄り道をして見よう。



§3.古代・中世の主要金属


 古くから知られていた金属というとまず次の七種である。金、銀、銅、鉄、錫、鉛、および水銀。これを“古代七金属”と称するが、驚いたことに19世紀まで、真鍮(従って亜鉛)の参加があった位で人間の多用する金属はほとんどこれに尽きていた。ちなみに、漢字名の金属はあと蒼鉛と白金とがあるだけである。

 練金術ではこれに符号を決めていたが、この符号・表象は天体のものと同じものが使われた。美しい銅は金星、武器ということで血の色からか、錆びて赤くなるからか鉄は火星、太陽のそばにあるため明け方と夕方との一寸の間にしか見つけられぬ足の速い水星は水銀、というふうである。

太陽(円の中央に、点)
太陰(右に開いた、三日月)
水星水銀(♀の頭部に、ツノをふたつ)
金星
火星
木星(τの下部が、もう一回、だぶっている)
土星(“アレフ”に近い)

 占星術においてギリシャ・ローマの神々は大惑星と同一視された。最も明るい金星は美の女神ウェヌスであり、逃足のはやいのはメルクリウスであり、堂々としているのはユピテルである。赤い星は軍神マルスである。

 英語にしろその他の西洋語にせよ、星の名と神の名とは同一である。それはまた、占星術思想と練金術思想との融合によって主要金属とも対応したのである。



§4.順序のもとは何か


 日月火水木金土、という順序は何から来ているのか。太陽からの距離ではない。神々の順序か。ギリシャに戻り、アレス、ヘルメス、ゼウス、アプロディテ、クロノスという順序に何か意味があるのか。ない。練金術からか。金銀鉄水銀錫銅鉛という順序には、意味付けができない。

 そもそも週というのはどこの発明か。

 “年”という周期はある程度以上の文明種族には天文から把握できる。この一単位だけでは長すぎてやり切れないので太陰太陽暦が生まれる。すなわち月の満ち欠けの利用である。その下位の周期としては昼夜すなわち“日”しかない。

 “週”は天文現象からは独立している。

 広瀬氏(“暦”、近藤出版社)の説や渡辺氏(“万有百科”の七曜の項)の説では、七日を周期とするのは西方世界起源であり、バビロニアで新月から始めて七日目、十四日目、二十一日目、二十八日目を休日としたことに始まる由である。ユダヤに伝わり、ある時代から新月に無関係になったという。“創世記”には「七日目に神は休まれた」とあるし、また“黙示録”には七の氾濫がある。

 まず七日毎に休むことが決まり、そのあとになって日への意味付けが始まったと考えるのがよいらしい。

 渡辺氏の説によると、週日に七曜の名を配したのは占星術に由来すると言う。そのころ天文学では、土・木・火・日・金・水・月、の順を考えていたという。第一日の第一時に土星、第二時・第三時・... に、木・火・... とやっていくと第二日の第一時に太陽が来て、第三日の第一時に月が、と第一時の星が現在の曜日順になるのだそうである。一日二十四時間制がもうこの頃にあったのだとすれば、確かにそうなる。

123456789101112131415161718192021222324
第1日
第2日
第3日
第4日
第5日
第6日
第7日
第8日


§5.天動説


 それではなぜ土木火日金水月の順になるのか。しばらく天動説を調べてみる。

 天動説では一体惑星の運行をどう説明していたのか。逆行もあり、光度の変化もあるではないか。

 プトレマイオスが天動説のほぼ極致に立つらしいが、彼は円周のまわりの円、周転円、を考えてこれを説明した。

 惑星それぞれ(もちろん、太陽と月も含めて)について地球を中心にした円をまず考える。誘導円である。この円周上を中心が動いていく小さい円が、周転円であり、太陽と月以外の惑星はこの周転円の円周上を動くとするのである。

 内惑星の場合、周転円の中心は地球と太陽を結ぶ直線上にあり、誘導円の円周上を一年かけてひとまわりする。惑星は周転円上を固有の周期でまわる。内惑星が太陽から一定の角度以上離れないことが説明できている。

 外惑星では誘導円は太陽軌道の外側にあり周転円の中心は固有の周期で誘導円の円周上をまわり、惑星は周転円の円周上を一年一回まわる。

 こういうわけで、内惑星すなわち水星・金星と火星以遠の外惑星とは、地動説では地球でへだてられ、天動説では太陽でへだてられることになる。

 したがって、地球から遠い順に土星、木星、火星、太陽、金星、水星、月ということになる。これがプトレマイオス流天動説の教えるところなのである。



§6.日本語の名前の由来


 さて順序は決まった。時刻を媒介にして星に由来するのであった。だから英語の名前は星の名であるローマ神話の神々の名を、北欧神話の神の名でなぞってできたものだ、と言える。

 日本には九世紀の初め頃に七日週期の風習が伝わっていると言う。最澄・空海の時代であり、唐という世界帝国の影響を日本がたっぷり受けた時期である。西方起源のものが遣唐使と共に日本にやってきた。この時「この日々は固有の星に対応する」とは分かっていた。

 すると、第四惑星、第一、第五、第二、第六惑星の順序だけ決まっていたわけで、これらの惑星に火水木金土という五行説の名前がふりあてられたのはどういうわけか、ということが次の問題である。

 実は、これはまだ明らかになっていないようである。しかし、何か手掛かりは得られるかも知れないので、有名な異名のある惑星についてはそれも検討してみることにする。

 第五惑星は、歳星と呼ばれる。公転周期11.86年。中国の上代ではこの惑星の公転周期を十二年とし、一周天を十二次に区分し、毎歳一次を移動することから、この名で呼んだらしい。

 第二惑星は、太白。これはその全天第一の輝きからで、この光は夕立雲の輝きと同じという。つまり濃密な白雲が太陽光を反射しているということである。

 第四惑星は赤いから「火星」か。中国ではむかしサソリ座のアンタレスのことも火星といった。アンタレスとはつまりアンチ・アレスであり、洋の東西を問わず一対に見たくなるわけなのである。この惑星は西方で軍神の星、中国では戦乱の星である。見かけの軌道の複雑なところから、災禍兵乱の妖星として中国占星術で忌まれたと言う。

 第一惑星は辰星という名前をはじめ持っていた。辰は振に通じるらしい。太陽のまわりをちょろちょろ動きまわることに関係があるだろうか。

 第六惑星は鎮星とよばれるらしいが、由来は不明である。

 しかし、五行説と中国占星術がもとになっていることは確かなようである。

 「鎮星が久しく輝いている国は福が厚く、動いていってしまうと福が薄い。“地候”とも呼ばれ、土の精気が上って星になったものである」などと古文献に見えるらしい。これなら“土”星はおかしくない。

 「木は五行の一、その首位に当たって生育の徳あるもの、方位では東、人倫では臣、... 五星では歳星」というのもある。歳を年のはじめの春でとらえるなら、それは春であり、木であるというわけなのである。

 金星と火星とはしかしもっと単純に決まったであろう。先述のように第二惑星はその白い輝きから太白で、白となれば金とくるわけなのであったろうし、第四惑星は夏のアンタレスと拮抗する赤さから、夏・火であらわされたのではあるまいか。

 参考までに、五行説の森羅万象との対応の一部を示す。(相生順である。)

元素方角季節色彩徳目味覚
中央立秋前土用
西
黒(玄)(第2水準にもない)


§7.各国語の名前


 手に入る限りの各国語の曜日名を並べてみる。残念ながら、重要なヘブライ語のが、未蒐集である。

(倉田わたる註:アクサンの類は、すべて省略しました。正確なスペルを知りたい場合は、面倒でも、各国語の辞書を引いて下さい。)


7−1.南欧系(その1)

古典ギリシャ語 古典ラテン語I エスペラント フランス語








hemera heliou
h.selenes
h.Areos
h.Hermeos
h.Dios
h.Aphrodites
h.Kronou

dominicus dies
lunae d.
Martis d.
Mercoris d.
Jovis d.
Veneris d.
sambati d.
semajno
dimanco
lundo
mardo
merkredo
jaudo
vendredo
sabato
semaine
dimanche
lundi
mardi
mercredi
jeudi
verdredi
samedi
古典ラテン語IIは、
北欧系を見よ
火星 Marso
水星 Merkuro
木星 Jupitero
金星 Venuso
土星 Saturno

7−2.南欧系(その2)

イタリア語 ルーマニア語 スペイン語 ポルトガル語







settimana
domenica
lunedi
martedi
mercoledi
giovedi
venerdi
sabato
saptamama
duminica
luni
marti
miercuri
jovi
vineri
simbata
semena
domingo
lunes
martes
miercoles
jueves
viernes
sabado
semena
domingo
segundaferia
terca-f.
quarta-f.
quinta-f.
sexta-f.
sabado
settimo
第7の
saptamana
第7の

7−3.南欧系(その3)

現代ギリシャ語







hebdomas
Kyriake
Deutera
Trite
Tetarte (Tetrade)
Pempte (Pephte)
Paraskeue
Sabbaton
Kyrios
deutera
trite
tetarte
pempte
paraskeue
主、神
第2の
第3の
第4の
第5の
準備

7−4.北欧系(その1)

古典ラテン語II 英語 オランダ語 ドイツ語








solis dies
lunae dies
Martis d.
Mercoris d.
Jovis d.
Veneris d.
Saturni d.
week
Sunday
Monday
Tuesday
Wednesday
Thursday
Friday
Saturday
week
zondag
maandag
dinsdag
woensdag
donderdag
vrijdag
zaterdag
Woche
Sonntag
Montag
Dienstag
Mittwoch
Donnerstag
Freitag
Sonnabendo (Samstag)
水曜:週の中央

7−5.北欧系(その2)

デンマーク語 ノルウェー語 スウェーデン語 フィンランド語







uge
sφndag
mandag
tirsdag
onsdag
torsdag
fredag
lφrdag
uke, veke
sφndag
mandag
tirsdag
onsdag
torsdag
fredag
lφrdag
vecka
sondag
mandag
tisdag
onsdag
torsdag
fredag
lordag
vukko
sunnuntai
maanantai
tiistai
keski vukko
torstai
perjantai
lauantai
土曜:洗い日 同左 同左 水曜:週の中央

7−6.北欧系(その3)

アイスランド語







vika
sunnudagur
manudagur
priδjudagur
miδrikudagur
fimmtudagur
fostudagur
laugardagur
火曜:第3日
水曜:週の中央
木曜:第4日
金曜:断食日

7−7.スラブ系(その1)

ロシア語 ポーランド語 チェコ語 セルビア・
クロアチア語







nedelya
woskresenie
ponedelnik
vtornik
sreda
chetverg
pyatnitsa
subbota
tydzien
niedziela
poniedzialek
wtorek
sroda
czwartek
piatek
sobota
tyden, nedele
nedele
pondeli
utery
streda
ctvrtek
patek
sobota
nedelja
nedelja
ponedeljak
utorak
sreda
cetvrtek
petak
subota
vtori
sredni
chetverty
pyaty
第2の
中央の
第4の
第5の
日曜はロシアの週と
同じ言葉
vterina
streda
ctvrty
paty
第2の
中央の
第4の
第5の

7−8.スラブ系(その2)

マケドニア語 ブルガリア語 ハンガリア語







nedela sedmitsa
nedela
ponedelnik
vtornik
sreda
chetvrtok
petok
sabota
sedmitsa neledya
nedelya
ponedelnik
vtornik
sryada
chetv'rt'k
pet'k
s'bota
het
vasarnap
hetfo
kedd
szerda
csutortok
pentek
szombat
het
vasarnap
fo
ket
7、週
市の日
主な、頭の
(以上、スラブ系では、キリル文字をローマ・アルファベット化して示した。スラブ系でありながら、ローマ・アルファベットの国字の国もある。対応は、このことを念頭に置かなくてはならない。)

7−9.その他(その1)

トルコ語 ペルシア語 アラビア語 スワヒリ語







hafta
pazar
pazartesi
sali
carsamba
persembe
cuma
cumartesi
hafte
yak shambe
do shambe
se shambe
cahar shambe
panj'shambe
jome
shambe
JumAa
Yaumu l-Ahad
Y.Lithnayni
Y.Th-thulatha
Y.l-Arbi-Aa
Y.l-Khamis
Y.l-JumAa
Y.Ssabt
Juma
Jumapili
Jumatatu
Jumaane, Jumanne
Jumatano
Alhamisi
Ijumaa
Jumamosi
pazar
ertesi
  cf.
バザール
次の日
月曜、土曜
yak
do
se
cahar
panj
jome
sham





休日










cf. 週
pili
tatu
ne, nne
tano



mosi
第2の
3、第3の
4、第4の
5、第5の
cf. Alhamdullillah
神に讃えあれ
cf. 週
第1の

7−10.その他(その2)

ウルドフ語 バスク語 中国語 朝鮮語







hafte
itwar
pir
mangal
budh
jum'arat
jum'a
hafta, sanicar
aste
igande
astelehem
astearte
asteazken
ostegun
ostirale
larunbat
星期
星期日、礼拝日
星期一
星期二
星期三
星期四
星期五
星期六
cu
i rjo il
worjo il
hwajo il
sujo il
magjo il
hwmjo il
tojo il
日 週の始まり
月 週の始めの日
火 週の半ば
水 週の終り
木 天空の神の日
金 大きな木曜日
土 月の1/4

 中国では日曜日と週とを共に“星期”と呼ぶ。“星期日”“星期天”または“礼拝”“礼拝日”“礼拝天”が日曜。“星期一”が月曜で、“星期六”が土曜である。

 これはこれで十分である。月の名について日本人は明治以来、睦月・如月・弥生・卯月・皐月・水無月・文月・葉月・長月・神無月・霜月・師走というのを日常語と公式語では完全にやめ、数字のみとした。ヨーロッパ人が数字でない名前と、ずれたラテン語名(セプトを九月に、オクトを十月に、など終り四ヶ月は二つ宛数がずれている)とをベースに月を呼んでいるのは、言葉とはそんなものと思いつつ滑稽に感ずるが、曜日の名前では中国に対しこちらが遅れている感じである。(ただし、情報理論的に、数字が最善かどうかはまた別の問題である。)

 ちょっとおやおやと思わせられるのは、現代ギリシャ語が数で唱えていることである。昔の曜日名はローマ人がなぞり、それを北欧語がなぞり全西方世界を従わせたのに。

 おやおや、はまだあって、ポルトガルが番号である。なぜロマンス語の中で異を樹てるのか。

 ペルシャも整然たる数字。トルコ語はこの一部をとりこんでいると思われ、整然としていない。ペルシャの曜日名はトルコの影響ではない。スラブ圏もおおむね数字由来型である。

 とにかくほとんどが始めての言語で、曜日名だけのコレクションなのだが、サバトだけは一見して分ってしまう。フランス語の samedi もサバトからきている。エスペラントはびっくりする程フランス語を採り入れているが、土曜日だけは原形である。ザメンホフがユダヤ系だったことを思い出す。

 このサバトが北欧系ではほとんどなく、ドイツ語の Samstag が例外だが、これは南ドイツ、オーストリア、スイスで使われるとも、カトリック圏で使われるとも言う。するとローマの植民地だったコローニュすなわちケルンの周辺、ラインラントも Samstag なのだろう。そしてそれ以外のドイツではサバトに無関係に Sonnabend である。

 北欧圏は、この土曜日を除き、またサーガから見て最も純粋なアイスランド語を除けば、まったくそっくりである。アイスランド語が似ていないことも週を担った文化の到来時期を示していると言えよう。なおオランダ語から日本の“ドンタク”がきたことは有名である。

 スラブ圏も似ている。東欧の中のルーマニアがロマンス語系である一方、ハンガリアがスラブ的、フィンランドが北欧的であるのは、その民族が国を建てた時の文化程度がどうだったかを示す。ルーマニアはなるほどローマの文化ができてからのローマ人の植民地のあとである。さてそう思ってみるとハンガリアもフィンランドも一寸まわりからずれているところがあって面白い。

 こうして見て改めて気がつくのは、週の曜日の名前が惑星の名前と直結しているのは、ラテン系諸語と日本語だけなのだということである。(韓国・朝鮮語は日本語の借用で、これを見ても曜日の習慣は日本統治以前にはなかったこと、中国文明にはなかったこと、が分かる。)



§8.週は何曜から始まるか


 フランスでは、週は月曜日から始まるらしい。なるほど、国際十進分類法で月曜が1、日曜が7だというのがうなづける。この体系はフランス語が基本だからである。

 ドイツでは、日曜から始まるはずである。さもなくば、水曜が "mitt"- woch にならない。

 英語は分からないが、英国では多分日曜からである。日本海軍が英国に学んでおり、士官たちが英語を常用したことは周知だが、あの「月月火水木金々」という口調のいい言葉は、日曜から始まることを示していると言えるからである。もちろん傍証である。ドイツ語・フランス語のような内在的または外部的規範は、英語にはないように思われる。ウィーク・エンドという時、月曜スタートの思想はあり得よう。

 この辺までは調子がいいのだが、コレクションを見ていくと愕然とする。スラブでは火曜を二番目とし、水曜を中央の日としている。後者から日曜から始めていると断言できる。とするとなぜ火曜が二番目に? どうも日曜日が“週の代表”だったり“市の立つ日”だったりし、月曜日こそ“週らしい週のはじめ”のようである。

 中国語では月曜日が一番なのだが、週そのものを表す言葉で呼ばれている日曜日の方を一番より先に立てて、ここから始まるとすべきであろう。これはスラブ系数カ国語からの類推である。

 ポルトガル・ギリシャ・アイスランド・ペルシャでは月曜が二番目である。一番という番号なしに“主の日”から始まるわけである。

 するとスワヒリ語で、はっきり金曜または土曜から始まっているのはどうしてだろう。宗教の問題に違いない。

 まだ恐るべきものがあった。フランスとスペインとに挟まれたピレネー山脈の西部のバスク地方の言葉では、週が四日で終ってしまう言い方で始め、木金土はつけたしである。言語の島と呼ばれる孤立した地方だが、文化伝播もよほど特殊な方式だったのだろう。ここでは“中央”の論理も通用しない。週休三日だろうか? まさか。(と、著者は言うが、私は、これが真相ではないかと考えている。つまり、極度に不毛な土地である故、週に四日以上働いても仕方がない、あるいは、働きようがない地方だったのではあるまいか? − 倉田わたる註)

 しかしそれならば、“週”とは一体何か。一体なぜある国語の何曜日かを他の国語に翻訳できるのだろうか。サバトという言葉で結ばれている諸語はいい。そうでない場合、現実のある日を、一方の国語でこう言い、他方の国語でああ呼ぶから、これとあれとが互いに訳語になってしまうていう関係なのだろうか。

 一体それでいいのだろうか。



§9.週というのは何だろう


 週という概念はメソポタミアで何千年か前発明された。それが、ユダヤ人の執念に支えられて残った。今、全世界が使っている。一体なぜなのか。

 ここ20年ばかりはマスコミに出てこないが、“世界暦”というのを考えている人は昔から多勢いて、ときどき世間の話題になる。

 たとえば一年を二十八日の十三ヶ月にわけ、一日だけ“無曜日”を作ろう、なんていうのがある。これは364=4*7*13に目をつけた提案である。閏年には無曜日二日、これで一年中日付と曜日とのずれがないことになる。ところが13という数が嫌われた。

 同じく年末に無曜日で四季それぞれの三ヶ月を三十一、三十、三十と規則的な繰り返しでやろうという提案もあった。これは十二ヶ月制だから国連やユネスコでのレベルにまで話があがったらしかったが、まさにそのころ、イスラム教徒たちが団結して力をふるい始めており、「ヨーロッパ式の暦で世界中を統一するとは何事ぞ」と一笑されて消滅したようだった。

 いずれにせよ“週”はあるのが当り前になっている。これはどういうものか。もっとも日本でも、六日制のお寺の公休日はあって、友引という名の日には葬式を出してくれない。周期的に休むというメソポタミアの発明は人間の本質にふれていることだったのだろうか。

 ただここで注意しなければならない決定的な違いがある。それは、日本の“六輝”は暦ごとに更新されるということである。

 昔、太陰太陽暦のころ、閏月があった。閏日は今でも四年に一回きて、四百年に三日それをやめる。目盛の原点合わせがある。

 週は目盛の原点合わせのシステムをもっていない。

 余談だが暦についての小松左京氏の説を紹介しておく。日本では四季それぞれに目印の花が咲く。農民は教えられなくても適時の作業ができ、暦などというものは文化的アクセサリーだった。一方季節の曖昧な国では暦の方式やその出発点の決定などは帝王や宗教指導者の権利・責任そのものであり、神官=文化人の階級が帝王のまわりを取り巻いたのもこれに端を発する。牧畜民族の世界との違いだが、農業民族なのに日本人にはこれが実感できていない、というようなことである。

 この伝統は名目的にせよ元首の権威が継続し、かつ小松氏に従えば暦に真剣でなかった日本にはかえって残っていて、明治の始め十二月が途中で打ち切りになった。“お上”の専決事項なのである。六日周期については暦発行者が原点を決める。

 週はバビロニアから帰って強い主権者なしのユダヤ人が世界に教えたが故に、原点決定システムを持たないのだろうか。

 一体、最初の日曜日はいつだったのだろう?

(終)

*解説


MASK 倉田わたるのミクロコスモスへの扉
Last Updated: Nov 12 1995 
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