ワンサくん

 ある大会社の大工場の、建て増し区域に棲みついていた小犬。追い出さないでくれと頼むかのように10円玉を掘り出して見せる、その小犬を、殺すことを社長から命じられた老社員は、辞表を叩き付けて小犬を連れ帰る。小犬は、ワンサと名づけられた。

 とんでもない腕白犬であった。吠えるは騒ぐは庭を荒らすは、近所から物を盗みまくるは。しかし何度遠くに捨ててきても、よれよれになって帰ってくるワンサ。お詫びの印に10円玉を持ってきた健気さに根負けして、うちに置いてやることにした..のは良いが、ワンサはノラ犬の一党、数十匹を連れ帰ってきていたのだった ..(71/10号)

 ワンサの住む押し入れの床には、外界に通じる秘密の抜け穴がある。

 ワンサが連れ帰ってきたノラ犬の一党は、町中から食い物を盗んできては持ち寄って、食事をしていた。が、こんな生活をしていれば、いずれは野犬収容所送りだぞ..と、ノラ犬の古老。人間たちに大事にされるために芸を覚えよう、という案は、プライドが許さない犬たちに却下され、ワンサの特技である、お金の掘り出しかたを習うことになる。お金を持っていけば、人間は喜ぶからである。

 かくして、町中、ノラ犬たちの掘り返した穴だらけになるが、犬たちが掘り出すのは、なぜか瓶の栓ばかり。彼らはワンサに鑑定してもらうために、それらをワンサの元に持ち寄り、かくして、ワンサの押し入れの中には、瓶の栓の山。(71/11号)

 ワンサはなぜ、お金を掘り当てられるのか? それは彼の哀しい生い立ち故である。

 ワンサは、10円で母親から引き離されて売りとばされ、工事現場に迷い込んで、また10円でやっかい払いされたのである。「イツデモジューエン………」

 スモッグにやられて死にかけている小鳥に出会ったワンサは、彼から、金を掘り当てる練習をしろ、人間には金が一番ものをいう、そうして世渡りをしていけば、いつかまた母さんに出会えるさ..と、教えられたのだ..

 追憶にふけっていたワンサに、ノラ犬仲間たちが税務署を襲う計画を持ってきた。しかし段取りは失敗し、一網打尽にされたワンサたちは、野犬収容所に送り込まれる。(71/12号)

 収容所には、鑑札をつけた大型犬(「カンサツ」)がいた。ノラ犬ではない。牢番である。ワンサたちの仲間の「クマ」は、カンサツに喧嘩を売るが、カンサツは“鑑札”を巧みに使い(光を反射させて)、クマをぼこぼこにする。一方、ワンサは財布を掘り当て、カンサツはそれを取り上げる。

 その夜、ワンサはカンサツに呼び出される。あの財布は所長の無くし物だったのであり、誉められたカンサツはご馳走にあずかったのである。ワンサにもそのおすそ分け、というわけだ。満腹になったワンサは、しかし、カンサツの仲間になれ(役に立つ芸を持っているから)、という助言をはねつける。

 帰ってきたワンサから、もうすぐみんな殺される、という情報を得た一党は、大脱走計画を開始する.. しかし、その下を掘り抜けようとしたコンクリート塀は、地下深くまで達していたのだった..(72/01号)

 塀にはぶつかったが、塀にそって横に掘っていけば、門に至るはず。そこをくぐれ、と、古老。一党はいっそう張り切って掘り続けるが、カンサツに見つかった。穴の中でのカンサツとクマの決闘。穴が崩れ、カンサツは生き埋めになり、門の目の前に出た一党は、閂を外して逃走するが、ワンサは何を思ったか、ひとり、収容所の中にかけ戻る!(72/02号)

 ..と、大きく盛り上がったところで、この話はここでおしまいである。[;^J^] 次の72/03号の原稿は落ち、72/04号 に掲載されたエピソードは、ここまでの話の流れとはなんの関係もなく、「原作:手塚治虫、絵:池原成利」である。(従って、資料によっては、この72/04号は、手塚治虫の作品リストから外されている。)72/01号までは、毎回20頁の連載だったのに、72/02号は8頁。恐らく、カンサツの救出に向かうエピソードを追加して“収容所篇”を終わらせる予定が、時間切れで打ち切られたのだろう、と推測する。

 世渡りのために、金を掘り出す小犬(「ここ掘れワンワン」から発想したのだろうか)、という主人公の設定は、児童誌という発表舞台を考えると、多少シニカルである。キャラクタも伏線も放り出したまま終わってしまったのは、ちょっと惜しい。佳作になり得た、未完の凡作である。


らびちゃん

 うさぎのらびちゃんが、おかあさんや弟たちや動物たちと、森の中で仲良く暮らしていく、ディズニー的な世界である。作者が(特に幼年誌向けに描く)動物の可愛らしさは、尋常ではない。

 弟のおもり、まきばでのいたずら、木いちごの採集、お店屋さんごっこ、おさかなの恩返し、にんじんが嫌い、お耳の中に松虫を住まわせる、冬ごもりのしたく、オオカミをつかまえる、やんちゃなスケート、卵を盗んだ狐をこらしめる、春になったので冬眠している動物たちを起こして回る(が、誰も起きない [;^J^])、カニのお引越しを手伝う、兄弟でこいのぼりを奪い合う、懐中電灯をしっぽにつけてホタル狩りごっこ、天井にぶら下がってコウモリのまね、おもちゃのウサギの親子、お月見で居眠り、かかしを毒キノコ色に塗る、風邪を引いた動物のために動物園に衣類を送る、ネズミさんのブランコを作る。以上、全21話、全て極めて品質の高い、最高水準の児童漫画である。


とべとべるんちゃん

 主人公は、小型の自家用飛行機である。もう使い物にならないから、と、壊されかかっていたるんちゃんを、かずちゃんが助ける。感激したるんちゃんは、かずちゃんを乗せて南の国へ、ひとっ飛び。バナナの房をお土産に持ち帰り、お礼にご馳走される。ちゃぶ台でごはんを。飛行機が。[;^J^](59/01号)

 かずちゃんはバスに乗り間違えて、学校に遅刻しそう。そこでるんちゃんは、かずちゃんを学校に送り届けようとするが、学校を間違えたあげく、迷子になってしまう。トンビにいじめられている鳩を助けたら、それはかずちゃんの学校で飼っている鳩だった。鳩に先導されて、ようやく無事に学校に着いたが..一年生の授業は、とっくに終わって、みんな帰っていた。(59/02号)

 かずちゃんもともだちも、クジラの潮吹きの絵を描けない。そこでるんちゃんは、かずちゃんを乗せて南極へ向かう。途中で大きなおばさん飛行機と出会って、おばさんのガソリンをわけてもらう。(このシーンは、ちょっと凄いぞ。空中で、別の飛行機のおっぱい?からガソリンを飲む飛行機。[;^.^])入道雲やシャチの攻撃をかわして、ついに南氷洋へ。シロナガスクジラを発見。潮吹きの穴を探しているうちに、シロナガスクジラは怒って暴れるが、氷山にはさまって身動きがとれなくなり、お詫びのしるしに潮を吹いてみせる。日本に帰ってきたふたりは、正しい潮の吹き方を塀に落書きするが、叱られて、つまりこんなふうにふくんだね、と、ホースで水を吹きかけて、落書きのお掃除。(59/03号)

 主人公のキャラクターとしては、かなりユニークな部類であるが、さほどの感銘を受けないのは、要するに「あまり可愛くない」からか。上記のごとく、いくつかシュールで印象的なシーンは、あるのだが。


ぽっかち

 主人公のユニークさとしては、上記のるんちゃんの比では無い。なにしろ「あぶく」である。

 お山の池の底にすんでいた、あぶくの親子。子どもの「ぽっかち」は、お池の外へ遊びに行く。変なあぶくをつぶそうとする、サルたちのいたずらから逃れて、研究所についたぽっかち。はやとと犬と、はやとの姉さん(科学技師)。姉さんは、ぽっかちを絶対壊れたりしない丈夫な体に改造し、ついでに、空も飛べ、おしりのつまみを回すと空気が入って、いくらでも大きくなれるようにする。ぽっかちに乗って小旅行をする動物たちを、襲撃するワシたち。ぽっかちは、笑いガスやくしゃみガスで撃退する。(69/04号)

 いたずらサルのもんたときーが、ぽっかちに乗って南の島へ。運びきれないほどのバナナを抱えた2匹は、長い鼻を持つ怪物にとらえられる。ぽっかちは、はやとたちを大きな瓶の中に入れて、怪物のそばにこっそりと置く。怪物はお酒だと思って瓶をあおり、瓶の中のはやとは、とんがらしを怪物の口の中に放り込む。怪物が辛がっているすきにもんたたちを救出。怪物は鼻を伸ばして追ってくるが、ぽっかちが、鼻の中にくしゃみガスを吹き込んで撃退。(69/05号)

 綺麗な蝶を追ってきた昆虫採集の狩人たちを、ぽっかちとはやとは追い返す。その蝶の名はダイヤ蝶。美しいので人間に狙われるのだ。(一匹一万円。)山の奥のダイヤ蝶の谷が、人間にみつかったら大変だ。狩人たちは、贋ぽっかち(リモコン風船)を作ってダイヤ蝶を騙し、ダイヤ蝶の谷に案内させて、全て生け捕りにしてしまう。ぽっかちは逆にリモコン風船に化けると、ダイヤ蝶たちを解放し、人間たちを懲らしめる。(69/06号)

 雪男をつかまえると懸賞だ。はやとたちは、ぽっかちに乗って雪山へ向かう。そこには既に、気球に乗った悪者たちがきていて、先陣争いとなるが、喧嘩をしている両陣営を雪男が仲裁し、仲直りのご褒美を与える。(この場合、はやとたちも「悪者」だな。[;^J^])(69/07号)

 海辺である。はやとは潜水艦よろしく、ぽっかちの中に乗り込んで、海中旅行としゃれこむ。人魚を発見! 悪魔島の悪魔に兄弟たちをさらわれて、ひとりぼっちになってしまったという。そこに竜巻! 最後の人魚も空中にさらわれ、ぽっかちたちは後を追う。悪魔島の不気味なシルエット。ぽっかちは小型化して、人魚たちが閉じ込められている水槽に侵入して救出し、悪魔の鼻の中に飛び込むと、今度は大型化して空へ浮かび上がり、人工衛星の中に放り込んでしまう。人魚のお礼のアイテムは、最初にあけた人ののぞみをかなえるという箱。はやととぽっかちの帰りを待っていた姉さんは、人魚なんかいるもんですか、もし人魚がいるくらいなら逆立ちでごはんをたべるわ、と言いながら箱を開けてしまい、そのようになる。お約束どおり、願いごとを無駄使い。(69/08号)

 暑い。火山からは、噴煙ならぬ湯気。ぽっかちは久々に帰省するが、おうちの池は温泉になって、パパもママも溶けてしまっていた。そして山火事が発生し、ぽっかちは山の動物たちを救出する。これは噴火ではなさそうだ。火口の中に飛び込んで調べてみると、もぐらタンク! 地球の反対側からトンネルを掘ってきたのである。(理由は不明。)ぽっかちは、彼らを海底の下に誘い込み、海の底に穴を開けさせてしまう。海水がトンネルの中に流れ込み、火山からは水が噴き出し、噴水山。これで涼しくなるだろう。(69/09号)

 これほど物理的に脆い主人公も珍しいのだが、いきなり「絶対壊れない丈夫な体」に改造されて、特異性を失うのが残念である。以降の活躍は、単なる風船(あるいは気球)としてのもの。しかし最終話の、実家のお池が温泉になっただけで、パパもママも溶けて消えてしまった、という(異様な)悲劇で、あぶくとしての設定が生き返った。


海のトリトン(「たのしい幼稚園」版)

 最初の8頁は、「たのしい幼稚園」で連載が始まった月に「テレビマガジン」に掲載されたもので、トリトンとピピの出会い、彼らを守るイルカたち、ピピをさらいにくるポセイドンの手下ターリン、と、手早く状況を説明している。

 以下、「たのしい幼稚園」での5回にわたる連載(4〜5頁/月)は、もうストーリーも何も。[;^J^] ポセイドンの手下が次々に襲ってきては撃退される、ワンパターンである。スダーテス、ロクスッポ、バラリドス、バカバラス、ドグムーン。三日月の魔人ドグムーンが、美しい。


*手塚治虫漫画全集 380


MASK 倉田わたるのミクロコスモスへの扉
Last Updated: Jun 17 1998 
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