ACT.51(第5巻 ACT.2)今夜の客は、大きなマスクと帽子で顔を隠し、ついでに涙まで流している女性。どこから見ても不審人物であるが、それもそのはず、これから泥棒に入るところなのである。
彼女が勤めていた老人ホームの福和荘。そこの所長は、金もうけにしか興味の無い男だった。彼は老人たちとその家族から絞り取れるだけ絞り取ったと見るや、さっさとホームを閉鎖してしまったのだ。無論、彼女の抗議など馬耳東風。そして所長は姿を消した。何ひとつ証拠は無いが、所長がホームの金を横領したことは間違いない。それを盗み出して福和荘に入れる。私はどうなってもいい、福和荘さえ残れば..
彼女の決意が固いとみるや、ミッドナイトは引き止めるのをやめ、昔の悪友で空き巣のプロ、ペン公を紹介する。しょうがないから、力を貸そうと言うのだ。
3人は所長宅に忍び込むが、ペン公は口先だけでまるで頼りにならない。門を開けたのも番犬を撃退したのも、ミッドナイトである。
しかし家じゅう、どこを捜しても、金も書類も見当たらない。そろそろ夜明けだ。もう諦めて引き上げよう、と、ミッドナイトは彼女を説得し、去り際に腹いせに、眠らせた番犬の犬小屋を川に蹴り落としたら..一万円札が大量に、犬小屋から流れ出した! ここが隠し場所だったのだ。さらに不動産の権利書と、裏帳簿も!
拾い集めた金は、ざっと1千万円。これで福和荘を立て直せるだろう。ミッドナイトはその中から、タクシーの貸し切り料金と選択代だけ受け取って、走り去る..
えっと、それって..どこに出しても恥ずかしくない、犯罪行為なんですが。[;^J^]
SCENE 1(第5巻 ACT.3)カルガモフィーバーである。全く馬鹿馬鹿しい限りだが、たかが鳥が列を組んで道路を横断するだけのことで、大の大人のカメラマンたちが、取材合戦に引っ張りまわされるのだ。
カルガモ番のカメラマン(今日も無駄足で帰るところ)を乗せたミッドナイトのタクシーの前を、いきなり横切る、子猫をくわえた猫の母親! このあたりの土地が買い占められ、民家がのきなみ立ち退いているのだ。そのどれかの家の軒下に住んでいた猫の一家が、引越しをする。しかし越した先がまた取り壊される..かくして引越しを繰り返しているのだ。この一角にいる限り、何度引っ越しても、無駄なのだが。
引っ越すたびに、まだ小さくて聞き分けもなく、車の恐さも知らない子猫たちを一匹ずつくわえて、道路を何往復もする。親の心子知らずで、子猫は道のこっちからあっちから、フラフラと車道に歩き出す。そのたびに母猫は大慌てで道の外に連れ出すのだが、大勢の子猫たちをまとめきれるものではなく..引っ越すたびに、子猫が一匹、また一匹と、ひき殺されていくのだ..
そのカメラマンは、翌日、カルガモ番に出かける前に、昨日、猫を見掛けた場所に、様子を見に来た。そこにはミッドナイトも来ていたのだが..やっとの思いで引っ越した猫たちの新しい住居が、取り壊されはじめていた。それでまた引越しを始めていたのだ。この界隈全部壊されるのだから、他所の町に出ていく方がいいのに..猫にも町を愛する心があるのだろうか?
その時、ふたりが見ている目の前で、子猫が一匹、ひき殺された! 子猫の亡骸に駆け寄る母猫..悔やんで悔やんで泣きながら嘆きながら死体をなめる母猫..カメラマンは感じ入る所があり、その写真を撮り続ける。
翌日もカメラマンは、やってきた。もうカルガモのことなど、頭にない。猫はどこだ? 壊し残ったビルの中だ。猫の親子の最後の住処の写真を撮るために、カメラマンはそのビルに近づいていくが、その時まさに、ビルが爆破される1分前! ミッドナイトはカメラマンを間一髪救出するが、カメラマンは猫たちの最期のスナップを見事に撮っていた。まさにプロ根性だ。
しかし、カルガモをうっちゃって、彼が撮った、猫の親子の必死に生きる写真は、週刊誌には鼻もひっかけられず、カメラマンは腐る。しかし、あの猫たちがビルの下敷きにならずに生きていた(とっさにマンホールに飛び込んだらしい)ことをミッドナイトから知らされたカメラマンは、猫たちのたくましく生きる姿を見て、元気を取り戻すのだった。
物語としてはむしろ平凡な部類に属すると思うのだが、子どもたちを守るために、必死に走り続ける母猫の姿(そしてその努力もむなしく、子猫たちを死なせてゆく嘆きの姿)は、本当に感動的である。
SCENE 2(第5巻 ACT.4)当代のスーパースター、プロテニスの王者、マイケル・ハットンが来日する。(もちろん、マイケル・ジャクソンがモデルである。)ファンの女の子たちの裏をかいて、ホテルのガレージから忍び出てきたハットンは、ミッドナイトのタクシーを拾う。
行先は厚木。彼は有名になる前、厚木で酷い生活をしていたのだ。ミッドナイトは、ハットンの変装を“勘”で見破り、さらに彼が厚木に、昔の家族に会いに行くのだ、ということも、“勘”で見破る。ミッドナイトの“勘”は、やや常軌を逸して、鋭すぎる..ハットンは、ミッドナイトも自分の仲間、同じ種類の人間ではないか、と疑う。つまりエスパー! 予知能力の持ち主ではないかと!(ハットンも、テニスボールが次にどこに飛んで来るのか、“勘”で判るので、チャンピオンになれたのだ。)
ハットンは、ミッドナイトを待たせておき、あとをつける彼をまいて、粗末な小屋=昔のすみかの戸を叩く。戸を開けた少年は、「にいさん!」とハットンに抱きつく。
ハットンの本名はグェン・ファン・ヌー。少年の名はジュ・ナン。ふたりはベトナム難民の兄弟だったのだ。兄はアメリカに渡って整形手術をし、過去も民族も捨てて、テニス選手としてスーパースターになったのだが、弟は少年院帰りで、このあばら屋でかつかつの暮らしをしていたのだ。
兄は、弟に詫びに来たのだ。なぜなら、弟は兄の身代わりに少年院に行ったのだから。日本に渡りついたものの、ぐれていたグェン・ファン・ヌーは、強盗傷害事件を起こしたのだが、ジュ・ナンが兄をかばって、罪を引き受けたのだ。刑期を勤め上げ、今はまともに働いているジュ・ナンは、何も気にはしていない。しかし、それでは気が済まないグェン・ファン・ヌー=ハットンは、一緒にアメリカに行こう、お前につぐないをしたい、いい暮らしをさせてやる、と、弟をくどくが、弟は、僕はもう、日本に慣れたし、こんな生活でもベトナムよりよっぽどましだから..と、その申し出を受けない..
..ハットンが弟をアメリカに連れて行きたいのは、実は贖罪の気持ちからだけでは、なかった。弟がいつ口を割るか、あの傷害事件の犯人が自分だと判ってしまうか、夜も眠れない日々が続いていたのだ。弟を監視下に置いておきたいのだ。
絶対にしゃべらない!という弟を信じきれないハットンは、口をふさぐためにピストルを突きつける! そこに、小屋を壊して飛び込んできたのが、ミッドナイトの車!“勘”でここが判ったのだ。ピストルを奪われたハットンは、弟に謝ると、いたたまれないように走り去る。ミッドナイトと弟は車で追うが、ハットンは米軍基地の敷地内に走り込み、警告を無視したあげく、警備兵に射殺される。
「ミッドナイト」は、その連載の終了間際に、かなり“バタバタ”している。56週に渡って連載が続いたところで、第一部完。一ヶ月後に第二部が始まり、これは僅か11週で終わっている。連載再開作品としては、明らかにバランスを逸した短さであり、普通に考えれば“打ち切り”であろうが、連載が終わった月(87年9月)には、他の連載作品の休載もいくつかあるので、あるいは作品外の(健康面などの)理由があったのかも知れない。
そして、第一部の最後の2話では、全く唐突にミッドナイトの妹が登場し、彼が実は大金持の御曹司であった、という驚くべき展開になるのだが、たちまち連載は中断し、そして第二部に入ると、その展開はフォローされず [;^J^] 今度は、ミッドナイトは、実はエスパーではないか?という、これまた驚くべき展開が始まるのだが..これも2回で、その設定は捨て置かれ、最終回へとなだれ込む最後の3話で、大々的に“エスパーネタ”が扱われることになるのである。(ミッドナイトの妹は、第二部では最終回に、全くの端役で顔を出すのみ。)この「SCENE 1」は、その、第二部の第1エピソードである。
「客の職業も性格も過去も、勘で判る」ことは、連載の初期の段階で数回語られており、これがエスパーネタの伏線と言って言えないことはないが、まぁ職業運転手のプロフェッショナルな能力、と見る方が自然だろう。つまりは、(エスパーネタは)唐突な思い付きなのである。連載末期に、これだけ手を変え品を変え、色々な設定を持ち込んでいるということは、要するに人気が出なかったための試行錯誤なのだろう。しかし「エスパー」にせよ「大金持の御曹司」にせよ、どうにもミッドナイトの作品世界においては収まりが悪い。
このエピソードでは、ハットンは死ぬほどの罪を犯してはいない。その点、後味の悪さというよりは、むしろ“苦み”が残るが..日本でもアメリカでも、異邦人として(あるいは過去を消してまで)生きてゆかなければならない兄弟の姿が、感慨深い。(ミッドナイトがエスパーかも?等という横糸は、蛇足にしか見えない。)
ACT.46(第5巻 ACT.5)妙な母子連れを乗せたミッドナイト。スーパーから出てきたのだが、母親は、子どもがクッキーの箱を触ろうとすると、「箱が汚れる」と叱るのである。彼らの降り際に、住所が清水町三丁目であることを、なんとなく“勘”で言い当てる、ミッドナイト..
帰宅した母子。子どもにクッキーの中味を与えると、父親は箱に細工しだした。中に時限爆弾を埋め込んでいる。過激派の夫婦だったのだ。爆破時刻は明日の正午!
翌朝、公衆電話から警視庁に脅迫&爆破予告電話を入れる夫。そこに妻が駆け込んできた。クッキーの箱と子どもの姿が見えなくなったのだ! 時限爆弾を持って、どこかに出かけてしまったのだ!
そのクッキーが気に入った子どもは、見本の箱を持って、スーパーやコンビニを探し回っていたのだ。必死になって探し回る夫婦。一方、爆破予告電話を受けた警察は、市内の商店街の一斉検査を開始していた。
パトカーのサイレンと拡声器の大音量にたたき起こされたミッドナイトは、ニュースを見て、爆破予告電話がかけられたのは、清水町三丁目の公衆電話からであることを知り、あの子が危ない!と、車で急行する。
警察の助けを借りることも出来ずに、ふたりだけで絶望的な捜索を続ける夫婦..彼らは、子どもが、昨夜、あのクッキーを買った店に行くのではないか、ということに気が付いた。その通りだった。子どもは電車とバスを乗り継いで、その店に向かっていた。そこに先回りしていたミッドナイト。彼は子どもに飛びついてクッキーの箱を投げ捨てるが、やはりそこに駆けつけてきていた夫婦は爆発に巻き込まれ、妻をかばって子どもを助けにかけよった夫は死に、妻は重傷を負った。それにしても、どうしてミッドナイトは、あの子が爆弾を持っていると、感づいたのか..
第二部の第2エピソード。ミッドナイトの超能力ネタは、このあと、最終回へと続く3話連続エピソードまで、出てこない。
単品として読んだ時、ミッドナイトの“超能力”が御都合主義的に働いている感は否めないが、物語としては、それなりにまとまっている。
SCENE 3(第5巻 ACT.6)暴力団の抗争である。小田仏興行の事務所に自動小銃を乱射して、自らも重傷を負ってミッドナイトのタクシーに飛び込んできた、土佐草組の“鉄砲ダマ”のヒロシ。もちろん、報酬50万円の甘言で踊らされた、使い捨ての下っ端である。
組とは手を切って、このまま故郷へ帰れ、と、ミッドナイトは言うが、まともな会社に勤めていて、今度ボーナスが50万円もらえるのだ、と、故郷の母親に嘘をついているヒロシは、なんとしても組から報酬をもらわなければならないのだ。
這いずるようにして組の事務所に帰り着き、そこで息を引き取ったヒロシ。無論、組長は、彼との死に際の約束(「クニの母親へ50万円送ってやってください」)を守る気など毛頭なく、死体を片づけさせようとするが、ヒロシのあとをつけて事務所に入り込んできたミッドナイトは、タクシー代、修理代、清掃料金、合わせて50万円払ってもらおう、と、ごねて暴れる。
彼は多勢に無勢で取り押さえられるが..死んだはずのヒロシが、驚くべき生命力で息を吹き返し、50万円、クニの母親に..と呟いて、また死ぬ。毒気を抜かれた組長たちは、ミッドナイトを放し、タクシー代に色をつけてお引き取り願おうとするが、ミッドナイトは、ヒロシのために用意した50万円があるだろう、と、あとに引かない。もちろん、無いのだ。最初からヒロシは捨て駒で、彼への報酬など用意していなかったのだ。
再び暴れかかるミッドナイト。彼を取り押さえる組員。その時、またしてもヒロシの死体が生き返り、ゾンビの様な姿で組長にすがり付き、50万円をクニへ..と言い残して、また、死ぬ。
震え上がった組長は、口止め料の50万円をミッドナイトに支払い、ミッドナイトは49万9千円を、ヒロシの実家に送る。
駄作である。テーマ云々の問題ではなく、ヒロシが2回も生き返る必然性が、全然無いのだ。これによる、物語終盤の“ダレ(冗長さ)”は、僅か2〜3頁のこととは言え、扉込みで20頁の作品にとっては致命的なのである。短編とは、厳しいものなのだ。
ACT.50(第5巻 ACT.7)久々に、カササギ運輸のカエデ登場。彼女は、トラックの中に巣くっている蛇を追い出してくれ、と、ミッドナイトに泣き付く。彼が調べてみても、荷台はからっぽである。しかし、カエデの主張するところによれば、もう3ヶ月も前から、白蛇が憑いているのだ。昼はほとんど見えないが、夜になるとどこからともなく出てくるのだ。荷台の荷物のあいだから、あるいは運転席に、そして時にはハンドルの上にまで! 明け方近くなると、その白蛇は助手席で巨大化して、カエデに話し掛けてくるのだ。お前が好きだ。このトラックに住みたいんだ。こうして毎晩デートしてやるから、と..!
それは夢だ、と、ミッドナイトは突っ放して走り去るが、あとからついてきたカエデのトラックの運転がおかしい! 悲鳴を上げている! 蛇だ! ミッドナイトは運転台に飛びつき、間一髪、運転をストップさせる。無論、蛇はどこにもいない..
医者の診察によると、睡眠不足とストレスである。眠気に打ち勝つために、コーヒーを乱用して、覚醒剤を打った形跡もある。このまま緊張と疲労が続くと、精神に異常を来す。幻覚が見えるとすると、重傷だ。取り敢えず睡眠薬を与えてぐっすり眠らせるが..しかし、仕事に戻ると再発するかも知れん..
好きな男がいるのではないか? そのイメージが蛇の幻覚となって話し掛けてくるのではないか? と、医者の診たてである。ふと思い付いたミッドナイトは、漢方薬の薬局から白蛇の死体を買ってくると、それをカエデの病室に持ち込み、ほら、トラックに巣くっていた蛇はたたっ殺してやったから、と安心させる。カエデは、ミッドナイトに見守られて、幸せそうにぐっすりと眠る..
カエデのミッドナイトへの思慕が底流にあるのだが、医者が匂わせているフロイトイメージと、ミッドナイトによる呪縛の解除が、結びついていない。まぁ欠点と言うほどのものではないし、少年漫画としては適当な収めかたか。(余談だが、この時期の「少年チャンピオン」誌には、少年少女ポルノとしか言いようのない、高校生(中学生?)のベッドシーンだけから構成されているような連載があり、それらの刺激に比べると、このエピソードなど、随分なまぬるいものとして受け取られたことであろう。)
ACT.55(第5巻 ACT.8)今夜で店じまいの、名物タクシードライバー、平さん。送別会を開こうというミッドナイトに、平さんは、ひとつの願い事を言う。
それは彼の初恋だった。50年も昔のこと、駆け出しのタクシー運転手だった平さんは、上野駅で16〜7の女の子を拾ったのだ。売り飛ばされそうになって、家出してきた少女だ。半年の間、そのミツという娘と同居して、幸せな日々を送っていたのだが、ある日彼女は、人買いたちにさらわれて、それっきり行方知れずになってしまったのだ。
それから結婚もせずに50年。そのミツに生き写しの娘が、下北沢のコンビニで売り子をしているのを見掛けたのだ。年寄りの妄念だが..商売おさめの前に、一度その娘と話をしたかった..
よし、彼女を送別会に連れて行くぜ、と、引き受けたミッドナイト。しかしその娘は、(やはりと言うかなんと言うか)気色悪いわ、と、鼻も引っかけない..
聞けば高校2年生。グアムに行くためにアルバイトしているのである。夏休みの旅行じゃない。グアムに行って、そこでまたお金をためて、アメリカあたりに行ってしまいたいという。どこでもいいから逃げ出してさっぱりしたいのである。沖縄でもいいけど、日本じゃすぐ親に見つかっちゃうから。よーするに、家出資金を貯めているのだ。いい気なもんだ。
その昔、家出娘を拾って同棲した男がいてな..と話し始めたミッドナイトは、その娘の興味を引くことに成功した。平さんの話を聞いてみたい、と言う彼女を、公園のベンチで待たせ、送別会会場に連れて行くために車を取りに行った隙に、彼女の母親と祖母が、連れ戻しに来ていた。母親はミッドナイトに、おかしな誘惑をしないでちょーだいっ!と、けんもほろろである。さ、予備校、お稽古事!と、娘を連れてかえり、代わりに祖母が、その運転手さんに私がお詫びいたしましょう、と、ミッドナイトの車に乗り込む。ばあさんを連れていっても物笑いなんだが..
送別会会場のラーメン軒。ミッドナイトがぶつぶつ言いながら連れてきたおばあさんを見て、平さんは愕然とする。ミツだ! 彼女の孫娘だから、生き写しだったのだ。ミツはあの時、深川の芸者に売られて、20年たって、店を持ったのだ。成功したのだ。平さんは最後の仕事として、彼女を家まで送り届ける..
実に見事にまとまった、短編の見本のような傑作。ミツの家出と、彼女の孫娘の家出(志願)の、絶妙な響きあい。
ACT.56(第5巻 ACT.9)不気味なマスクを被ったタクシー強盗。ミッドナイトを、人里離れた峠道で射殺しようとするが、彼の車の非常識装備に撃退される。強盗を峠道に捨ててきて、むかっ腹を立ててラーメン軒に寄るが、今度はそこに置き手紙。あるビルへの呼び出しだ。
そこでミッドナイトを待っていたのは、老女の死体! 喉にナイフが突き立っている! 動転したミッドナイトは、公衆電話から警察を呼んで逃げ帰るが..指紋を残してきた! 警察に疑われるかも..と、気が気でないミッドナイトのアパートに、早速警官が! しかし事件とは関係なく、ひとりの女性を案内してきただけだった。彼女は、ブラジルからやってきた、ミッドナイトの叔母だと言う! 冗談じゃない、俺には親戚なんかひとりもいない、物心ついて以来、出来の悪いオヤジしかいないんだ! その出来の悪いお父さんは、あなたの育ての親なのよ(!)
ミッドナイトの本当の両親は、ブラジルで成功した、土浦という名の日本人の大富豪。四国ほどもある農園の持ち主だ。わけあって捨てられたミッドナイトだったが、一ヶ月前に父が死に、その遺言で遺産を全て相続することになったのだ。だから叔母の彼女が、彼を捜しにきたのだ..
信じられない様な話だが、確かに出生証明書も遺言書のコピーもある。しかし彼は財産には興味はない。そんなものは親戚で適当に処分してくれ。俺は日本がいいし..入院している女をほっとくわけにはいかない。それに、どうもおかしい..
どうして、俺をそんなに外に連れ出したがる? 後ろからズドンとやる気か? 今夜、ビニール製のマスクを被ったタクシー強盗をノバしたが、そいつから匂ってきた香水の香りと、あんたの香りは一緒だぜ..?
銃を取りだそうとした彼女の手から、ハンドバックを叩き落とすと、パスポートが転がり落ちた。その写真は、あの殺されていた老女! その名前は土浦牧子! 殺されていたのが、ミッドナイトの叔母だったのだ! お前はだれだ!
彼女は素早くナイフを投げ、さらに空手でミッドナイトの腕を折るが、結局、彼に組み伏せられる。その正体は、ミッドナイトの双子の妹! 土浦家に双子が生まれ(跡継ぎはふたりは要らないので)ひとりが日本に送り返されることになった時、手違いで男のミッドナイトが送り返され、妹が残ってしまったのだ。父は酷く失望し、彼女を憎んだ。彼女は男のように強くなって土浦農場を継ごうとしたが、結局父は彼女を無視して、全財産をミッドナイトに残した。だから彼女は彼を憎んでいるのだ。
俺は遺産なんかいらない、それでいいだろうが!と叫ぶミッドナイトに、ブラジルではそれではすまない、兄さんが死ななければ、遺産は誰にも使えない、遺産はあたしのものだ、きっと兄さんを殺す! と吐き捨てて、彼女は去ってゆく..
どうにも無理な急展開である..[;^J^] 序盤の、不気味なタクシー強盗から、謎の殺害現場への流れは、いつもの快調なミッドナイト節なのだが..
彼女の眠る労災病院からの急報! 心臓が止まったのだ! 急行するミッドナイトは、車ごと爆風で吹き飛ばされる! 交差点で止まった真下のマンホール内で、ガス爆発が起きたのだ! しかし、この事故には不審な点があった..
奇跡的に助かったミッドナイトは、警察病院に運び込まれた。労災病院に行かなければ! 彼は周囲の制止も聞かず、隙を見て病院から抜け出し、大怪我を負ったまま車を走らせ、労災病院に向かう。その車にあらかじめ乗り込んでいた男。ガス爆発を仕組んだ犯人だ。バラし損なったミッドナイトを片づけようと銃口を向けるが、例によって車の仕掛けに撃退されるが、この立ち回りで、ミッドナイトの傷口が開く。
血まみれで労災病院に辿り着いたミッドナイト。しかし、彼女の容体には別状はなかった。ニセ電話だったのだ。ミッドナイトは出血多量で気絶する。
彼女どころか、ミッドナイトの生死に関わる重傷である。すぐに輸血をしなければ! しかし、彼の血液型は、きわめて珍しい、何百万人にひとりしかいないPk型であった! 血液を手配しようと走り回る医師たちを冷ややかに眺める、ひとりのニセ看護婦。ミッドナイトの妹のマヒルだ! 彼女の一味がミッドナイトをニセ電話でおびきだしたのだ。彼女も、ミッドナイトがそれほど珍しい血液型だとは知らなかったが、いずれにせよ、これでミッドナイトは死ぬ。土浦家の財産は、私のものだ! 勝ち誇るマヒル。しかしミッドナイトは、彼女が自分の一卵性双生児の妹だと、医者に話す。
それなら同じPk型の血液を持っているはずだ!と、医師たちは彼女から無理矢理採血して [;^J^] Pk型であることを確認すると、いやがるマヒルをベッドに縛り付け [;^J^] ミッドナイトへの輸血を開始する。
「にいさんを殺すつもりが………助けるなんて……」
「オレたちは兄妹なんだぜ」
「兄妹、それがなによ。あたしいつかきっと、にいさんを殺すわ!
にいさんは死ななければならないのよ、土浦家のために!」で、幕となる。
盛り上がっているところ、まことに申し訳ないんですが、どうしてそういうことになるのでしょうか? [;^J^] こういう上げ足取りは本意では無いのだが、どうもこの“マヒルシリーズ”には、突っ込みを入れたくなる。[;^J^]
いかに緊急事態だとは言え、当人の承諾無しに血を抜くのは、暴行罪か傷害罪になるような気もするし..[;^J^] 彼女ほどの体術の持ち主が、あっさりベッドに縛り付けられるのも、不自然と言えば不自然。要するに書き込み不足、手続き不足。
ACT.55、そしてこの56、と続く“マヒルシリーズ”で、ミッドナイトは、第一部完。そして第二部では、ここで導入された設定とは無関係な話が続き、ようやく最終回になって、マヒルが(少しだけ)登場する。結局、この新キャラと新設定は、作者にも生かしかたが判らなかったということになる。(あるいは予想外に早い連載打ち切りに、使う暇が無かったということだろうか。)
(文中、引用は本書より)
Last Updated: Apr 15 1997
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