(最終回。SCENE 9から続けて読むこと)
ミッドナイトと客は、救出された。客は比較的軽傷だったが、ミッドナイトは全身が第3度の熱傷..もう助かるまい..
意識を取り戻した客は、ミサイルの落下を予知したエスパーを死なせるな! 費用はいくらかかってもいい! と、叫ぶ。ブラック・ジャックの(最後の)出番である。
ブラック・ジャックは、冷酷な決定を下す。ミッドナイトの恋人の生命維持装置を外すと、彼女の遺体を、死にかけているミッドナイトの病院へ運ぶ。いまさら皮膚移植も内蔵移植も無駄だ、という声に、脳移植をするのだ!と、ブラック・ジャック。そう、ミッドナイトに、恋人の皮膚や臓器を移植するのではなく、恋人の体に、ミッドナイトの脳を入れるのである!
手術は成功した。駆けつけて来たミッドナイトの妹は、彼の遺体を引き取って行く。
3年後、当初は僅かに残っていたミッドナイトの意識も記憶も、ほとんど消え、“彼女”は真也(まや)という名で、大学の研究室で、超能力の訓練に励んでいた。
一回だけ、ミッドナイトの記憶が戻りかかったことがある。それは、通りすがったカササギ運輸のドライバーで女社長のカエデが、真也を呼び止めた時だ。カエデは、真也が、誰かに似ているように思ったのだ。ミッドナイト..?! いや、彼は男ではないか。女性の真也がミッドナイトであるわけがない。もう何年間もミッドナイトに合っていないカエデは、もうすぐ結婚するのだ。カエデは走り去る。
かくして、ミッドナイトは、夜の底に姿を消したのだった。(完)
まさか、こういう終り方をするとは、思わなかったが..[;^J^] この作品における、ブラック・ジャックの全面的な起用は、意地悪な見方をすれば“銭の取れる”スターによる客寄せなのだが、この設定(ミッドナイトが責任を持つ植物人間が、“通奏低音”になっている)では、名医の登場が必然的であって、それには、ブラック・ジャック以上の適任者はいないだろう。凡百の漫画家が飽かずに繰り返している、“往年のスターの名声へのすがり寄り”とは、意味が違う。
そしてまた、これほど大々的にブラック・ジャックを(その設定の本質に関るところで)起用した以上、彼に幕引きをさせるのは、むしろ当然である。
作者の数多の傑作群と比較したとき、第一級の傑作とは言えないだろうが、印象的なエピソードも少なくない。晩年の、安定した品質の読切り短篇シリーズとして、記憶しておきたい。
Last Updated: Apr 8 1997
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