三つ目がとおる:長耳族

 「猪鹿中学」の続編である。

 三つ目の写楽を呼び出した、出杉。彼は写楽に、数千年にわたる三つ目族と長耳族の抗争の歴史を語る。出杉は、長耳族の子孫だったのである。

 太平洋の島々に散らばって、狩猟と略奪で生活していた長耳族。三つ目族は、長耳族の最大の獲物だった。三つ目族は文明が高く、財宝も文明の利器もあったのだが、人間がダラケていて、戦いに向いていなかったのである。最大の武器は超能力であったが、戦い慣れした長耳族の奇襲攻撃には、通用しなかった。

 長耳族は獣神を祀り、多分に獣的な血が流れていた。毛深く、歯は鋭く、そしてそういう特徴の顕著なものほど、羽振りが良かったのである。出杉も毛深く、犬歯が鋭い。「金狼会」という名称も、故なきことではなかったのである。

 お互い、最後の生き残り(先祖返り)だ、奇遇ではないかと、飲めない酒を酌み交わし、飲めないタバコを回し飲みする、ふたりの中学生。家来になることを拒否する写楽をのばした出杉は、彼にバンソウコウを貼って、引き回しの上、校門に張り付けとする。写楽は、かつて助けてやった弱い生徒に救出されると、報復を開始する。

 校庭にナスカの地上絵のような図形を描くと、出杉をその中に誘いいれた。この図形は、空中電気を捉えて蓄電するためのバッテリーだったのだ。空中と地上からの落雷・放電に翻弄される出杉。写楽はほどほどのところで勘弁し、半死半生の出杉を担いでいく。お互い、それぞれの種族の、ひとりぼっちの生き残りなのだから..

 三つ目族の宿敵・長耳族の謎が明らかにされるエピソード。出杉は次の「イースター島編」の最後に、かなり重要な役で再登場するのだが、「猪鹿中学」「長耳族」の両編が単行本に収録されなかった結果、「イースター島編」でも役を下ろされ、別人に描き換えられてしまった。

 エンディングがほろりとさせる、いい話。写楽と出杉の孤独と寂寥感を、改めて想わずにはいられない。


MASK 倉田わたるのミクロコスモスへの扉
Last Updated: Aug 13 1996 
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