一罐のペンキ (1944)


 一山当てようと金星に降り立った男。(この作品世界では、人類は太陽系内に進出してはいるが、惑星(特に金星)への旅は危険極まりなく、無頼漢あるいは一匹狼が、一番乗りをしようと命を捨てにいく場所である。)そこで彼は奇妙な立方体を拾う。それはテレパシーで、彼の心に「私ハペンキノ罐ダ」と語りかけて来たのだ。

 ..と思う間もなく、罐は虹の七色のペンキを吹き出し、彼の肌にへばりつく。これをはぎ落すこともすくい取ることも、どうしても出来ず、しかもそれは徐々に面積を広げてゆく。これは(姿を見せない)金星人による、テストだったのだ。この窮地を脱するほどの知能があれば、付き合いを考えてやってもいい、というのである。テストだったのかなどとのんびり構えている余裕はまるでない。皮膚呼吸が出来なくなれば死んでしまう。

 最終的には、このペンキは言わば「光の塊」のようなものであると見切って、光を吸収する光電管とバリウム塩によって吸収しつくすことに成功。彼は商売のネタ(とびきり上等の美しいペンキ)を携えて、意気揚々と地球へ帰還する。


 ごく軽いタッチで描かれた、小品。全く常套的なアイデアだが(異星での試練=実はテスト)、体にへばりついて鮮やかな色彩変化を見せる、輝かしいペンキ、というアイテムが、作者の資質を表している。



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MASK 倉田わたるのミクロコスモスへの扉
Last Updated: May 23 1996 
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