宇宙SFの伝統的なテーマを扱う、古典的かつロマンティックな設定の短編。
4.3光年彼方のアルファ・ケンタウリへの、500年もかかる旅。相対論効果により、船内の経過時間は僅か数年であり、乗組員たちは交替で当直に起きながら、人工冬眠で目的地に向かう。しかし彼らがそこについた時、彼らの外部の世界では500年が経過していたのであって、その年月の間のテクノロジーの長足の進歩によって、4.3光年などは、ひとっ飛びの距離になっていたのだった。
無論、500年後の人々は、旅行の目的地で彼らを熱狂的に迎えた。彼ら大先達の、亀の歩みの様な探検行の試みこそ、こんにちの超高速宇宙旅行の先駆けだったのだから。しかし..
ここからが、シニカルな展開となる。この宇宙飛行士たちは、一般人たちとは接触させて貰えないのである。何故なら“臭い”からである。確かに500年もたてば、体質も体臭も嗅覚の嗜好も変化しようというものである。もうひとつ、彼らの500年前の科学技術の知識は、この社会では子供にも及ばず、政府の保護を失ってしまえば、明日から食うにも困るであろう..
この500年後の社会の驚異に目を見張りつつも、失望を味わった宇宙飛行士たちは、とある方法によって、出発前の500年前の地球に、タイムパラドックスを起こすこともなく、しかもこの500年後の社会の記憶を保ったまま、帰還するのである。どういう理屈でこんなことが出来るのか、何度読んでもさっぱり判らない。[;^J^] このいけしゃあしゃあとしたすっとぼけ方がまた、作者の持ち味である。
作品名も作者も忘れたが、この設定で、目的地にはとっくの昔に子孫たちが追い越して到着していた、ということを、子孫たちがひた隠しにする話もあった。その“欺瞞”に気がついた宇宙飛行士は荒れるが、実は、亀の様に宇宙を飛ぶ、大昔に地球を出発した大先輩たちの船を、のちの世の子孫たちは、大切に大切に見守っていた。彼らが到着した時に、失望を与えたくがないが故に、自分たちが追い越してしまったということを、(社会全体が)必死になって隠していた..という、感動的な物語である。本編では、さっぱりそういう方向に展開しない。これがまた、ヴァン・ヴォークトならではである。[;^J^]
Last Updated: May 19 1996
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