ジョン・ヴァーリイ「ブルー・シャンペン」(1981)


 ブルー・シャンペンとは、月の周回軌道上に浮かぶ、娯楽衛星である。それは円盤状の居住区(シャンペン・グラスの台に相当する)と、無重量空間に浮かぶ、「バブル」と呼ばれる中空の水球からなっている。

 それはエネルギーの場が作り出す二つの同心球体のあいだにはさまれた、二億リットルの水。内側の球は直径100メートル、外側の球は直径140メートル。

 エネルギー場は、物体を、このふたつの表面のどちらかに押しやる作用をする。すなわち、40メートルの厚さの水の中にいれば、内側か外側の表面への浮力が働き、内側の球の内部(すなわち空中)にいれば、内側の水面に落ち、外側の球の外部にいれば、やはり外側の水面に落ちる。そしてその力はごく弱いので、勢いをつけて外側の球面の外へ飛び出せば、数分間も、無重量空間に浮いていられる(もちろん、外側の球面のさらに外側にも、空気は存在する)のである。

 よくもまぁ、ここまで手前勝手で、御都合主義的で、そして痺れるほど魅力的な設定を、作れたものである。このバブルで泳げるのならば、年収相当を差し出してもいいという人は、ざらにいるのではないか。

 ストーリーは、詳述しない。何故ならそれは、ほとんど宇宙と関係ないからである。身体障害者が、ボディーガイドと呼ばれる機械の助けで、人並み以上の運動能力を発揮し、その持ち前の美貌と肉体美で、世界最高のTVスターとなり、しかしボディーガイドの莫大な使用料故にポルノスターとならざるを得ず……と、話は続くのであるが、主人公の男と彼女の出会い(とデート)の舞台が、上記ブルー・シャンペンであったというだけである、宇宙との関りは。

 それなりに「いい話」ではあるので、誰にでも推薦できる。しかし私は、このストーリーには、なんの興味も関心もない。ただただ、ブルー・シャンペンに遊びたいだけなのだ。



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MASK 倉田わたるのミクロコスモスへの扉
Last Updated: Apr 4 1996 
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