アルジス・バドリス「闇と夜明けのあいだ」(1958)


 恐るべき迫力の傑作。

 苛烈な自然環境の惑星に難破した、宇宙船。二度と動かせない宇宙船の中に閉じ込められた地球人の一団は、この惑星で生き延びることを決定した。すなわち、何世代もかけて人体改造を行ない、猛毒の大気を呼吸し、強烈な悪意を持って宇宙船を十重二十重に囲む巨大な猛獣達を素手で殺して食う、怪物のごとき子孫を創りだすことを。

 もう、この設定だけで「いって」しまいそうである。

 果たして初代から何世代目になるのか、現在の「キャプテン」たちの世代も、ほとんど獣人同然なのだが、その子供たちは、さらに危険な獣族であり、厳重に隔離されている。今の大人たちには、まだ無理だが、子供たちは、この惑星の猛毒の大気を呼吸可能で、難破船の乗員たちを喰うべく(それこそ何世代にもわたって、執念深く)難破船を取り囲んでいる獣たちにも負けないほど、強く(狂暴に)育った。その子供たちの隔離された部屋の隔壁を、いよいよ外部に向けて解放する日、それは、ついに地球人がこの惑星に順応し、この惑星の生物として生きていくことが可能になった、記念すべき日、すなわち「闇と夜明けのあいだ」の日。

 長年にわたって暴力的専制を(必要に迫られて)しいてきたキャプテンに対する、暴動。隔壁の解放。子供達の外部への突進と、猛獣たちとの戦い。暴動で重傷を追って自室に逃げ込んだキャプテン夫妻。その部屋の住人を喰うために外壁を破るべく、外から爪で削り続ける音。あれは息子に違いない..彼は我々を喰い、たくましく生き延びて、子孫を増やして行くだろう..



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MASK 倉田わたるのミクロコスモスへの扉
Last Updated: Apr 3 1996 
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