レイ・ブラッドベリ「すべての夏をこの一日に」(1954)


 「七年に一度の夏」というタイトルでも知られている。

 舞台は「古き良き」金星。厚い雲に覆われ、暗黒に近い地表には、滝のような豪雨が一年中降り続けている。この苛烈な天候には、基地に駐在する地球人は、誰しも、心を暗くせずにはおられない。特に子供たち。

 しかし7年に一度だけ、7年に一日だけ、この雲が晴れる。7年に一度、僅か2時間ほどの間だけ、雨がやみ、陽光が降り注ぐのだ。この短篇は、その一日の興奮を、子供たちの視点から見事に歌い上げている。

 (生れてから一度も太陽を見たことがない故に)雨がやむとは信じられない、その疑惑を。雨がやみ、雲が切れ、太陽が出現した時の驚愕を。光輝く草原をほとんど休む間もなく駆け回り、遊びまわる、その爆発的な歓喜を。そして、再び雨が落ちてきた時の絶望を。基地の窓の中から、闇を洗う豪雨を見て、次に太陽を見ることが出来るのは7年後なのだという事実を噛み占める、悲しみを。

 そして子供たちは思い出したのだった。雨が上がる「前」に、一人の女の子を、地下室の倉庫に押し込めてしまっていたことを..



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MASK 倉田わたるのミクロコスモスへの扉
Last Updated: Apr 3 1996 
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