爆弾列車(原題 アトムのばくだん列車)テレビアニメの最終回を受けて、サンケイ新聞で「アトム今昔物語」(原題「鉄腕アトム」)が連載された。その約3年後、小学四年生で連載された、この版は、サンケイ新聞版どうよう、アニメの最終回の後日譚として、熔けたアトムが金属板に貼りついて宇宙空間を漂流しているところから、スタートする..
..宇宙空間を漂う、小さな隕石のかけら(金属片)の上に、ロボットが熔けて貼りついていた。それを拾ったルルル星人たちは、電子頭脳の脳波を読み出す。そこには、鉄のかけらに乗って、恒星に飛び込むロボットの姿があった。アトムだ。
彼らは超科学力で、アトムを蘇らせる。ただ、機械で作られたアトムの体は、どうにも幼稚で原始的すぎるので、もっと高性能に改造する。プロテクターをつけ、人工皮膚の硬度を10倍にし、額には第三の目。(なにしろ彼らは、三つ目族なのだ。)
生き返ったアトムは、熔けて漂流していた事情は憶えていないが、地球のロボットである、ということだけは憶えていた。ルルル星人は、ホームシックに悩むアトムを地球に帰すことにするが、女の子ロボット・スピカを同行させる。彼女の役目は、地球をスパイすること。良い星ならば地球人に力を貸し、悪い星なら処分する。ルルル星の船長からの中止指令が無い限り、3年後には地球の中心にもぐって、自爆すること..
アトムの額につけられた第三の目は、タイムマシンだ。これを使って、自分の時代を探すことができる。電子細胞を組み合わせて、どんな姿にでも変身できるスピカと共に、氷づけにされたアトムは、地球に向けて射出される..
サーベルタイガー! 地球のこの時代は、新生代だった。サルでも人間でもない、臆病な類人猿。病気のメスを看病していた子どもが、火山に向かい、アトムは彼を援護する。子どもは火山から火を取り出す。動物じゃない、人間の先祖だ! その時、火山が噴火する! 溶岩流! アトムは、巨大な噴石に吸い付けられて、動けなくなってしまう。強力な磁石なのだ。アトムは、スピカと子どもに先に行かせ、溶岩流を待つ。集落に帰り着いたふたり。子どもは風邪をひいた母親のために、火を運んできたのだ。親子の情愛に感動したスピカは、船長に、地球って、悪い星じゃないようだ、と、連絡を送る。
一方、アトムは、異様な風体の騎士に、溶岩流から救われていた。オオカミのごとき風貌をした騎士は、アトムを隕石ごと回収する。
オオカミ人たちは、アトムをどうしたものか、彼らの“神”に伺いを立てる。その巨大な神像は、アトムに、何万年も昔に、人間の世界は公害と戦争のために滅びてしまったこと、最後に残ったわずかな人間が、その神像に、人類の記憶を託したこと、そして、新しい人類が誕生するのを、ずっと待っていたことを告げた。あの類人猿こそ、新しい人類なのだ。そう、ここは新生代の世界ではなく、未来の地球だったのだ。
アトムは、タイムマシンを使って過去の世界に帰ろうとするが、神像はタイムマシンをとめ、アトムに、われに仕えよ、と、命令する。アトムと神像の戦いとなる。
起き上がる神像。人間型の頭部に、四つ足の獣のような巨体! アトムは神像の鼻を砕き、胴体を破壊して、身動きできなくしてしまう。しかしアトムは、とどめをさすことが出来ない。なぜなら、神像を壊せば、彼が保持している人類の記憶が駄目になってしまうからだ..
神像は、アトムに感謝し、そこまでしっかりした判断ができるアトムならば、タイムマシンでさまざまな時代を訪れたとしても、決して大騒ぎを起こすこともあるまい、と、タイムマシンの能力を復活させる。
アトムは故郷を目指して旅立った。もはや身動き出来なくなった神像は、この砂漠の果てで、新しい人類を見守り続けるのだった。何万年もたって、朽ち果てて、石に変わるまで..そして、スフィンクスと呼ばれるようになった..
1年間連載された小学四年生版のうち、全集に収録されているのは、ここまでの前半の半年分のみである。朝日ソノラマ版のアトム全集にも、ここまでしか収録されていない。ここでちょうど、1エピソード終わっていることと、後半の完成度が、やや低いからであろう。
作品の規模としては、一挿話に過ぎず、アトム諸作品中、さほどの傑作とは言えない。にも関わらず、不思議に心に残る物語である。それは、時間軸方向の舞台の拡がりが、広大だからだ。
古代の地球に帰ってきたと思ったら、実は人類滅亡後の、遠未来であった..しかも、そこは、非人類(人類の後継者)であるオオカミ人の世界であった..これだけでも、設定としては、十分に大きいのだが、それに加えて、そこを支配していた“神”ロボットが、アトムに壊され、その数万年後には「スフィンクス」と呼ばれるようになる。つまり、この“遠未来”世界ですら“超古代”なのだ、という、“超・遠未来”を見遥かす視線。
無論、それが「スフィンクス」であることから、人類の次のサイクルでも、同様の栄光と愚行が繰り返されるのであろう、と、ニーチェ的「永劫回帰」を想起するのも、悪くはないが、ここで「スフィンクス」が登場したのは、この世界が、単に「超古代」であることを示すためだった、と、考えてよかろう。
そして、余計な仕掛け(トリック)を導入していないところが、良い。つまりは、この世界は、真の“超・遠未来”への途中経過である“遠未来”なのだ、ということを示しているのみ。実際、この世界には、(連載期間の短さもあるが)いかなる種類の生活感もなく、オオカミ人の社会が描かれることもなく、アトムは、たちまち旅立ってしまうのであるから..
時間軸にせよ、空間軸にせよ、遥かに隔たったものを実感させる「センス・オブ・ディスタンス」。それを、私はこの挿話に、強烈に感じる。忘れ難い佳作である。
偏差値王国との対決変人として有名なクルットル博士の作った、どこか一個所を触っただけで、地球をも吹き飛ばす大爆発を起こす超性能爆弾、ヒステリア。博士は完成と共に姿を消した。恐ろしくて分解も出来ないが、こんな物騒なものを地球に置いておくわけにはいかない。アトムら、日米ソのロボットたちに、処理が委託された。
どこに捨てることもできない。月基地も、火星人も、その他の星の宇宙人も、迷惑だといって、受け取ってくれない。爆弾を奪おうとする宇宙海賊と、特に何も考えていないベムを、型どおり [;^J^] やっつけたところで、うっかりヒステリアに触ってしまい、爆発しそうになる..と、思いきや、ガタゴト動くヒステリアの中から出てきたのは、クルットル博士。あんまりお客がうるさいんで、寝正月をしようと、この家(ヒステリア)を作ったのだ。爆弾と言いふらしておけば、誰も邪魔しにくるまいと思ったから。(アトムたち、ギャフン。)
えっと、これだけの話である。[;^J^]
アトムの初恋偏差値の低い人間は無能で役立たずなので強制移民させられ、偏差値の低いロボットは有害なので処分される、暗黒の2013年。アトムたちも試験を受けさせられる。
その問題たるや、酷いものである。「ロボットは人間の命令に服従せねばならない(YES/NO)」はともかく、「ロボットは、政府、企業体、上役に忠義をつくさねばならない(YES/NO)」「ロボットは各種公害に関心をもたずワレ関せずでなければならない(YES/NO)」「汚職や贈賄、ネコババに手を出してはならない(YES/NO)」などなど。もちろんアトムは、全て“NO”にマルをつけ..判定は、偏差値20! スクラップにされる!
解体工場に運ばれたアトムたちを縛り付けていた電磁力が、急に消えた。お茶の水博士が、手を回したのだ。科学省に電話したアトムに、博士は、人間社会では金がモノを言うこと、工場に鼻薬を利かせた(ワイロを積んだ)ことを説明するが、全然納得できないアトムは、ぼくらを苦しめる偏差値の元凶を確かめて、それと戦う!と、電話を切る。
で、工場の下っ端どもを蹴散らして、お約束の、超巨大電子頭脳と対決するアトム。アトムは電子頭脳に、モノを言うお金とは何か? 鼻のクスリではない鼻薬とは何か? と、問題を出し、答えられない電子頭脳は、みずからの偏差値が最低である、と悲観して、自殺してしまう。
アトムと、当時(1976)社会問題化していた偏差値を戦わせてくれ、と、編集に無理難題をふっかけられた手塚治虫が、苦し紛れに絞り出したお話。矛盾や不整合を、指摘するのも野暮であろう。
アトムと(大人の)女性ロボットが、公園のベンチでラブシーンに及んだところで、ふたりとも爆発してしまう。黒こげになったお茶の水博士が、これを見せてからにすればよかった..と開いている書物は、「ロボットのための完全なる結婚」。
「完全なる結婚」という書籍を知っているか知らないかで、微妙に読後感の異なる、1頁のショートショート。実は私も(タイトルを知っているだけで)未読である。要するに、新婚の若夫婦のための、性科学&性技術指南書(だったと思う)。こんにちでは、中学生でも知っている内容である(と、思うのだが)。
これはもう、ストーリーを紹介しても仕方がない。ヒゲオヤジ、レッド公、ビッグX、ランプ、ハム・エッグ、田鷲警部、下田警部、中村捜査一課長、ノールス・ヌケトール、佐々木小次郎、ロップくん、六ぺい、アトム、ヒゲオヤジ、お茶の水博士、花丸博士、サファイア、ガロン、ウラン、丸首ブーン..と、スターシステムにしてもほどがあろう、というオールスターキャストの果てに、最後のコマで出現したのが「正義の味方製造機」。
オズマ隊長、アッペ、ケン一、ケン太、サボテン君、ナンバー7、リッキー、ヘラクレス、レオ、孫悟空、キャプテンKen、ボンゴ、ロック、ジェット、ジェットキング、伴大介、チンク、ピック、サブタン、ピロンらが、次々と出現し..
ビッグX「正義の味方も、こうウジャウジャつくられると、なんだか安っぽいねェ」
アトム 「うん」
..まぁ、これもこれだけの話である。[;^J^]
これも、アニメ版の最終回の後日譚ではあるのだが..[;^J^]
太陽の活動が異常に旺盛になって、未曾有のパニックに襲われた地球を救うために、核爆発抑制装置をかかえて太陽に飛び込み、二度と帰ってこなかったアトム..そのアトムがいつか帰ってくると待ち続けているお茶の水博士と、うわべは吹っ切ったヒゲオヤジ。
そんなある日、アトムからの宇宙信号がキャッチされた。熔けていたアトムは、超科学力を持つ宇宙人?に、一瞬のうちに修理され、いまはある小さな星にすんでいる、というのだ。その星がどこにあるかは、判らない..
結局、生きていることが判ったとはいえ、アトムを地球に戻す手段はないのだ。クヨクヨしているお茶の水博士に、総理から電話が。予算をつけるから、アトム二世を作れ!
「人間そっくり」な、不完全なアトムではなく、今度こそ「人間そのもの」の、完全なアトムを作ってくれ、と指示されたお茶の水博士は、アトム二世を作り上げるが..彼はどこかブショウッたらしく、アクビしながら顔を洗うのだ。(なかなか人間くさい。)そして、性器も持っているのである。
どうにもならなないクズであった。朝から晩まで、低俗なテレビばかり見て、小遣いをせびっては、女を引っかけてホテルに連れ込む。(七つの威力の女千人斬り。)お茶の水博士が社会教育に連れ回ってもだめ。デモを制止もせず(巻き込まれちゃばかばかしい)、自殺者は見殺しにし、人類の未来について考えんのか!と泣く博士に対しては「シラケー」。
総理がアトムに、日本が今度開発した核兵器の輸出の護衛をさせようとするが(こういう用途に使いたいがために、二世を作らせたのだ)、アトムは法外な報酬を要求する。人間のために無償で奉仕するアトムではないのだ。
どうにか納得させて送り出したが、あろうことかアトムは、核兵器を破壊して(それを材料にして?)「アトム」の大量生産企業を起こし、世界各国に正義の味方を安売りして、大儲け。堪忍袋の緒が切れた総理。アトムは背任横領罪で逮捕された。
女を百人もかこって王さまぐらしをしていたアトムは、記者会見で
アトム 「おれ、正義の味方だからジタバタしないんだ」
新聞記者「イヨー、性戯の味方ーっ」未完成で不完全な、ほんもののアトムの帰還を待つ、お茶の水博士。
周囲やファンには、イメージダウンも甚だしい、と、ボロクソにけなされたらしい。[;^J^] 無理も無いが、手塚治虫自身は、案外、開き直って悪乗りして楽しんでいるように見える。「良い子のアトム」という“公式的な虚像”には、とことん嫌気がさしていたはずだからだ。1975年の作品。
非人間的なまでに社員を働かせ、絞り上げる会社。(一例をあげると、居眠りしただけで、自動的に電撃ショック。)その、とある部署に配属されてきた、超優秀な新入社員「百科」。グータラな就業態度だが、仕事のノルマは楽々とこなす。喧嘩に強い。女にもてる。ダンスにも英会話にも堪能。同僚が過労で倒れると、会社の医務室で手術までしてしまう。いくらなんでも、万能すぎないか?
実は彼はロボットだった。人間の社員をクビにして、優秀なロボットに切り替える会社方針。そのテストケースなのだ。そのロボットが、どうして適当にさぼるのか? それは、会社員の性格から割り出して、性格が作られたからだ。
ならば、おれたちの気持ちもわかるだろう、と、労組の委員長に推挙され、会社との交渉にあたる。経営者からみれば、飼い犬に手を噛まれたも同然であるが、持久戦の交渉では、ロボットにはかなわない。結局、経営者は、一日一回、全社員が(枕型)安眠休息器のテストをする、という条件を飲む。
いまとなっては経営側にとって、百科は目の上のたんこぶである。そこで奸計。百科を抹殺するために、彼に、キスしたとたんに爆発する、ロボット女秘書をあてがうが、百科は彼女と、社員ロボット倉庫の中でキスしてしまい、倉庫ごと大爆発。かくして、社員をロボットに入れ替えるプランは、百科の犠牲でおしゃかになったのだが..
後日、百科が孕ませまくった女子社員たちが、次々とロボットの子を産み始めた。産院で泣いているロボットの赤ちゃんたちは..アトムであった。
..ラストヒトコマで、アトムシリーズの番外編に入れるのは、無理があると思うぞ。[;^J^] このどうでもいいオチを除けば、ほとんど完全に無意味な凡作。正味僅か8頁なのに、焦点が絞れず、芯が無い。
路上の強盗。腹を刺されて金を奪われた青年(星光一)の弟(アトム)は、ブラック・ジャックに、奇妙な依頼をする。
死んだ兄の仇を討つために、これから毎日、袋をもって銀行に出入りする。すると、強盗犯人は、いずれ必ず、僕を狙うだろう。そうして犯人を見つけたら、ナイフで犯人と決闘する。もしも犯人に刺されたら、僕をなおしてください。そして僕は犯人の顔を覚えて、証人になる..
ブラック・ジャックは、もちろん、馬鹿なことはよせ、と制止する。どうしてもやるなら、治療代として、兄さんの生命保険金を全部よこしな。
諦めないアトムは、それから三ヶ月間、銀行に出入りを続け..そしてついに、犯人に狙われた! ナイフを取出して犯人と対峙したアトムは..なんと、自分を刺したのである! 強盗は、むろん、(アトムの悲鳴が人を集めるのを嫌って)その場から逃げ出す。
ブラック・ジャックの病院に担ぎ込まれたアトム。犯人に刺されたのではなく、自分で自分を刺したことなど、ブラック・ジャックにはお見通しである。何故、こんなことをした?
犯人に殺されると思ったから..自分を刺して、これは犯人が刺したものだと言ってやる! だから..この傷は、犯人に刺されたものだと(偽りの)証言をしてくれ! 嘘をつくのは悪いけど..これで、犯人に罪を着せられるから..ブラック・ジャックは、暗い表情で、承諾する。
やがて、強盗は逮捕された。取調室。彼は、アトムが自分を勝手に刺して誣告しているのだ、と(真実を)訴える。アトムは、強盗が刺したのだと訴える。刑事は、医者の証言を取るために、ブラック・ジャックを呼ぶ。ブラック・ジャックは、アトムが自分で自分を刺したのだ、と証言する!
アトムは、裏切り者!と叫ぶが、無駄である。(誣告の自供をしているようなものだ。)強盗は、やれやれという表情で釈放されたが..廊下で待っていたのは、星光一。光一は、改めて、この男が自分を刺して金を奪ったのだ!と、告発する。強盗は(今度は正しい容疑で)再度逮捕される。光一は、死んではいなかったのだ。ブラック・ジャックに命を救われ、今まで入院していたのである。
兄が生きていることを、3ヶ月以上も弟に伏せておいている点が、いくらなんでも不自然である。(葬式はしなかったのだろうか。)
しかし、ブラック・ジャックがアトムの不正を許さず、悪人といえども、正しい容疑で正しく裁かねばならないのだ、と、無言で教え諭している点は、ちょっと、説教臭さが鼻につくとはいえ、爽やかでなくもない。アトムの卑劣な表情が印象的である。[;^J^]
暗澹たる傑作である。
丈夫が生まれた。試験管を破って..
..
ロボット博物館に押し入る男女。彼らの狙いは、陳列されていたアトムだ。アトムにエネルギーを入れて、生き返らせる。男は丈夫。女はジュリー。丈夫はアトムに身の上話を始める..
..丈夫とジュリーは幼なじみだった。幼いころ、親に与えられた銃を振り回す乱暴者の丈夫は、いじめっこだった。首吊りごっこで、あわやジュリーを死なせかけたこともあった。そんな丈夫を放任している、若く、少しも歳を取らない、丈夫の両親..
ある夜、ジュリーが家出をした。探し回る大人たち。こっそり家を抜け出した丈夫は、森の中で、怪しい人影を撃ってしまう。それは..ジュリーのママ..しかも、ロボットだった! 恐怖に襲われて、家に逃げ帰る丈夫..しかし翌日、ジュリーのママは、何事もなかったかのように、訪ねて来たのである。傷痕もない。きっと、密かに修理してもらったんだ..ジュリーは家に連れ帰されたらしい。そして長いこと、ジュリーとは逢わなかった。
10年後、見違えるほど美しくなったジュリーと再会した丈夫は、彼女に恋をした。しかし彼女は、母親がロボットだということは、知らないのだ。
丈夫の両親は、ふたりの結婚を許さないばかりか、嘲笑う。そして丈夫に真実を告げた。自分たちはロボットであること。そして丈夫は、精子と卵子の配給を貯蔵所から受けて育ててきた、「決闘者」であることを。
この時代、人間は、公害と放射能のために著しく数が減って、もはやロボットに依存しなければ、生きていけなくなっていたのだ。どの人間も、貯蔵所から配給されて、ロボットに育てられているのだ。そして、競技場(コロセウム)で、ロボットたちの娯楽として、人間同士、互いに決闘=殺し合いをさせられるのだ。ただそれだけの存在理由しか無いのだ。
競技場デビューの日。丈夫は脱走し、ジュリーの母(ロボット)を殺して、ジュリーを連れて逃げる。どこへ? ロボット博物館へ。今から50年も前、ロボット法が存在し、ロボットが人間に奉仕していた時代に作られ、そして人類を救うために倒れた、アトムが保存されているロボット博物館へ..
..丈夫の身の上話は終わった。ぼくらにつくか、ロボットの側につくか、選んでくれ..アトムは、丈夫とジュリーが愛し合っていることを確かめると、ふたりを抱えて空へと脱出する..ロボットたちの急追!
アトムはふたりを無人島におろし、追跡してくるロボットたちの航空部隊と戦いに戻り..そして、爆破される。飛び立つ直前のアトムに、ジュリーがロボットだと知らされた丈夫は、彼女がロボットであるが故に、彼女を愛していながらも、破壊してしまう。そして、丈夫を追い詰めたロボットたちは、冷酷に、真相を明らかにする。ジュリーは人間だったのだ。丈夫が昔、首吊りごっこをしたときに、ジュリーを本当に殺してしまったのだ。ジュリーの母は、あの晩、ジュリーの死体をこっそりと森に埋め、身代わりのロボットを作らせたのだ。丈夫は、人間=ジュリーと、ロボット=ジュリー、ふたりとも殺してしまったのだった。
完全な絶望のうちに、丈夫は虐殺される。時に、2055年..
..全く救いの無い物語であり、手塚治虫自身、これを嫌っているのも、無理はない。しかし、それはそれとして、見事な短編である。
ロジックの瑕瑾はある。ジュリーの母親が、ジュリーが家出をした、と、嘘をつく理由が、無かったはずだ。彼女はジュリーの死体を、こっそり森に埋めに行ったのだが、大騒ぎして町中動員してしまうと、隠密行動を取りにくくなるはずだ。
しかしこの程度の欠点は、全く気にならない(というか、私も、何度も読み返すまで、気がつかなかった)。
ロボットに支配されたデストピア、というテーマは、枚挙にいとまが無いが、その世界における人間の悲劇を、丈夫個人の悲劇(恋人を、一度は過失で、一度はやむにやまれず、2回殺した)に、鮮やかに転換=写像している。結果として、これといった残虐行為も、ロボットに迫害される人間たちも、ほとんど描かれていないにも関わらず、実に冷ややかで、一種リアルなデストピアを創り出すことに成功している。
すさみきった時代の世相を色濃く反映した、1970年の作品。
(文中、引用は本書より)
Last Updated: Feb 13 2000
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