三つ目がとおる 12

*ボルボック編 第5章 植物を支配する植物

 物音に目覚めた写楽と和登サンは、吾平が球根を埋めているところを、寝室から目撃する。植えているのではない。捨てているのだ。枯れているのだ。写楽は、あの球根が何故死んでしまったのか、考え込んでしまう..ふと、思い付いた彼は、和登サンを催眠術で眠らせると、部屋を出る。そして吾平に、自分たちが掘り出してきた球根を見せつける。

 吾平は慌てる。写楽が「ナマズの子」を持っているからだ。写楽は、「親ナマズ」に会わせてくれないと、「親ナマズ」を取り上げてしまうぞ!と脅し、吾平に、「親ナマズ」の場所に案内させる。ふたりを密かに尾行する青玉。やはり、あの縄ばしごの縦穴だ。ふたりが降りていったのを確認した青玉は、今夜は深追いするには及ばず、と、引き返す。

 吾平と写楽は、地底についた。生暖かい。温泉だ。地下の熱湯の滝だ! 吾平が一群の蝋燭に火をともすと、「親ナマズ」が、その雄姿を現した。それは巨大な球根だった。かつて、蟹が「ナマズ」を挟んで持ってきたのを、吾平が、可哀相だから、と、この湯の中につけて育てているうちに、これほど巨大になったのだ。毎日、野菜や果物を湯の中に放り込んで、育ててきたのだ。では、「地震を起こす」とは?

 ナマズの髭(球根から伸びている無数の根)が、土の中に深く延び広がってる。これを震わせると、地震が起きるのだ! じゃあ、やってみせてもらおう、と、写楽はナマズに石をぶつけて怒らせる。するとたちまち落盤が! 写楽は避難したが、吾平は額の瘤に落石を受け、瘤が破れてしまった。その下には、第3の目が!

 三つ目人だったのだ! 驚き呆れた写楽が叩き起こすと..三つ目人の叡智を取り戻した吾平は、オカマであった。[:^J^] 彼はオネエ言葉で、知っている限りのことを話す..

 ..このナマズは、植物の球根なのだ。土の中にヒゲとコブを張り巡らせ、それを触覚として..いや、むしろ神経と言うべきか。それだけではない、ヒゲとコブで、他の木に寄生して養分を吸い取り、枯らしてしまったり、逆に、荒れ地一面に花を咲かせたり。さらに洞窟の中では、茸を栽培して、それを食べているのだ。まさに「植物を支配する植物」だ!

 写楽の目が光る! 三つ目族の同志・吾平の、この大発見! この超生物を手なずければ、一国を支配することも可能だ..しかし、もしも三つ目人が、このナマズを自由に使いこなせていれば、世界を支配できたろうに、どうして三つ目族は滅びてしまったのか?という、吾平の指摘に、写楽は愕然とする。何故だ?

 穴から地上に抜け出したふたりの背中には、ヒゲとコブが貼りついていた。慌てて剥がすが、周囲の草が突如伸び始め、ふたりに絡み付く。捕えるつもりなのだ! 野原を全速で駆け抜けるも、次々と木が倒れてくる。ヒゲとコブが、大木を根こそぎ倒しにかかっているのだ! そして、棘だらけのイバラが、ふたりを捕えた!

 ..三つ目族は、結局、ナマズを使いこなせなかったのだ。ナマズは..悪魔なのだ!

 翌朝、山の中で発見されたふたり。吾平も、そして写楽も、額に大きな瘤が..そう、かれらの三つ目は、ナマズによって閉じられたのである。

 和登サンとヒゲオヤジがふたりを救出し、青玉が調査にでかける。縄ばしごの縦穴を降りる..彼が探しているのは、球根ではなく、土偶なのだ。かつて吾平が持ってきた土偶の中には、エメラルドが入っていたのだ..青玉はナマズを発見するが、ヒゲとコブに温泉の中に引きずり込まれ、たちまちのうちに白骨化してしまう。そして..

 ナマズが..巨大で醜い、悪臭をはなつ根瘤が、蜘蛛の糸のように地中に張り巡らした根(ヒゲとコブ)に支えられて、湯の中からずるずると吊り上ったのである!

*ボルボック編 第6章 よっぱらった写楽

 青玉の留守宅にいる写楽(三つ目が瘤でふさがっている幼児モード)、和登サン、ヒゲオヤジ。吾平も救出されている。警官が、犬の御神体破壊事件の容疑で取り調べに来たところに、村中の御神体が鳴り出した、という知らせが! これは地震の前触れだ..と思う間もなく、大地震が! このドサクサに、酒をがぶ飲みしてしまった写楽は、避難先の神社で酔っ払って大暴れするが、この時、地中からヒゲとコブが現われ、警官と村長を、近くの洞窟の底に引きずり込んでしまう。さらに、和登サンとヒゲオヤジも引きずり込まれかけるが、吾平が駆け付け、育てた恩を忘れたか!と、ナマズを叱り付けると、ヒゲとコブは引っ込み、和登サンとヒゲオヤジは、かろうじて救出される。

 さぁ、こうなったら説明してもらおうか!と、ヒゲオヤジに恫喝され、頼りにしているから、と、和登サンに優しい言葉をかけられた吾平は、和登サンに惚れて、彼女をナマズの餌にしたくないから、と、古代文字の文字盤を渡し、早く村の外に逃げろ!さもなくば死ぬ!と警告して、姿を消す。

 そうこうしているうちに、地割れ! ヒゲとコブの襲撃! ドタバタ騒ぎのうちに額の瘤が破れた写楽は、“ホコ”で、イバラやヒゲとコブを焼き払いながら、和登サンとヒゲオヤジを引き連れて、海岸へ向かう。海岸なら、あの化け物も手を出せないはずだ。何故なら、あの柱があるからだ。

 柱の下に辿り着いて、一息ついた一同。写楽は、吾平の文字盤を解読する。それには、三つ目族の、なんとも哀れな、滅亡の真相が記されていた..

 ..人類が、まだほんの未開人だったころ、三つ目族は、ある大陸に偉大な国を作り、すべての生き物を支配していた。その最大の成果が、知性のある植物「ボルボック」だった。霊長植物ボルボックは、他の植物を支配して、三つ目族のために果物や野菜を作ったのだが..ある時、ボルボックが、野菜を作るのをストップしてしまったのだ。ボルボックに頼り切っていた三つ目族は飢え、報復として、ボルボックを薬や火で痛めつけ、厳しく罰した..かくして、三つ目族とボルボックの全面戦争が始まったのだ。ボルボックは大陸中の植物を枯らし、三つ目族は土という土に有毒物質をばらまき、ボルボックはその報復として、大陸中に張り巡らした根を震わせて、町を破壊した。ついに三つ目族は大陸から逃げ出し、ボルボックは逃げ遅れた三つ目族を大地震で皆殺しにし、みずからも、大陸が沈むときに、海水に侵されて死んだ..

 海上をさまよった三つ目族は、南米、インド、アフリカ、そして日本..あちこちに住みついて、文化を残した。しかし三つ目族は何故、ボルボックを携えて日本にやってきたのか? こんなに酷い目にあったのに..それは..ボルボックなしでは、食べ物を手に入れる力もなくなっていたからだ。そこまで、ボルボックに頼り切っていたのだ。だからボルボックは、三つ目族を舐めきっていた。額に毒針を刺して三つ目をふさいだり、地震や地滑りを起こしたり..これが、「地上に君臨した」三つ目族の、哀れな実態だったのである..

 写楽は叫ぶ! 先祖の仇は、俺が討つ! 意地でもボルボックは、俺の手で叩き潰してやる!

 ボルボックの弱点は判っている。海水だ。写楽は、海水をボルボックの本体にぶっかけるべく、メカを作り始める。女の下半身の姿をしたメカだ。

*ボルボック編 第7章 ボルボックの言い分

 お下劣な形状をしたメカで、ボルボックのいる地点まで掘り進み、そこで(超空間チューブを通って?)組み上げてきた海水を浴びせる..これでボルボックを倒せるはずだが、何度やっても失敗する。そこでボルボックの注意を逸らすために、蟹の大群を追いたてて、ボルボックを襲わせる。数万匹の蟹は、ボルボックの神経である細い根(ヒゲ)の先を貪り食った。ボルボックは岩盤ごと蟹たちを叩き落としたが、その時には、末梢神経が半分以上役に立たなくなっていた。

 洞窟の中、怒りに震えるボルボックと写楽のメカとの対決である。写楽は海水を浴びせるが..なんと真水になっていた。これでは効かない。故障を調べようとする写楽の額に、ボルボックは木の葉を貼る。万事休す。写楽と和登サンとヒゲオヤジは、ボルボックの起こした落盤に、生き埋めにされてしまう。

 そこに、ナマズ男=吾平が、いつのまにかまた瘤を破って、三つ目の姿で現われた。救出に来たのではない。ナマズ(ボルボック)の使者としてやってきたのだ。ボルボックは、吾平にだけは気を許しているのだ。

 ナマズは、人間が攻撃を仕掛けてきたことに、怒っている。だから生かして帰すわけにはいかないが、条件を飲めば助けてやる。それは、頭の中に寄生虫を押し込んで、頭を馬鹿にしてしまうことだ。

 そんな条件は、飲めない!という和登サンとヒゲオヤジに、ナマズがなぜ人間を憎んでいるか、ナマズの言い分を、吾平は伝える。

 それは、三つ目族の文明のありよう自体だった。自然破壊。公害。有毒物質をばらまいて植物を殺し、動物の生きるすべを奪い、挙げ句の果てに、人間すら生きられない世界を作っていく、病み果てた文明..そのありさまに怒り狂ったボルボックが、人間に戦いを挑んだのだった。

 吾平は去った。平和に眠りこけている写楽の脇で、メカの塩水を真水に変える能力を持つボルボックに勝てる見込みがあるだろうか、と考え込むふたり..今の吾平の話、まるで三つ目族の話ではなく、現代の話みたいだ..

*ボルボック編 第8章 塩水の雨が降る

 閉じ込められた洞窟が、案外地上から近いことに気がついたヒゲオヤジと和登サンは、地上への穴を開けることに成功する。(このシーン、「奇子」のラストシーケンスに、少し似ている。)地表に出る前に、ヒゲオヤジは、一同の全身に草をすりつぶした汁を塗り込む。植物の振りをして、ボルボックのヒゲをやり過ごすためである。(これとそっくりなシーンが、「ミクロイドS」にある。)

 命からがら逃げ出した3人の前に、環状列石が! 以前は、ここにはなかった。海岸にはあったが..地震で地中から飛び出してきたのだ! 良く見ると、周囲に他にも1本、2本..6本! 7本目は倒れてばらばらになっているが、確かに7本、ボルボックの周囲に立てられていたのだ。なぜ?

 ここで、地面を引きずってこられた写楽が、高笑いと共に起き上がる。額の木の葉は擦れて破れて、三つ目が復活していたのだ。彼は和登サンの直感をヒントに、真相に到達したのだ。

 この環状列石は、ボルボックを封じ込めるためのものだったのだ。ボルボックが暴れれば、地震や地滑りが起こる。すると鈴が鳴って人間は避難する。それから環状列石が現われて、ボルボックを封じ込めたのだ。

 ちっとも封じ込めていないじゃないか!と毒づくヒゲオヤジと和登サンを(強制的に)働かせて、写楽は、環状列石の足元に放射状に置かれた石の配置の修正にかかる。ひと抱えもある石の置き場所を変えていくのだから、大仕事である。しまいには、倒壊している7本目を、立て直さなくてはならない。

 最後の石が置き直されたとき、環状列石群に落雷! 環状列石はボーッと光り出し、空から雨が降り始める! 海水の雨だ! 近くの海から海水を吸い上げて、雨として降らせているのだ! 海水は地面に染み込み..そして地底のボルボックを苛み始めた。ヒゲもコブも次第に枯れしぼみ..そしてついに本体も、地底の洞窟の中で倒れ、死を待つばかりとなった。勝った!

 ..海水の雨の中、吾平が球根を抱えて逃げて行く! これはナマズの忘れ形見なのだ。ナマズが死ぬときに預かったのだ。どこか別の場所に埋めて、育ててくれと..これを育てられては、別のボルボックが出現してしまう! 追いつけない写楽は、吾平を倒すために環状列石を操作して、石の雨を、ノミ・ダニ・シラミなどの虫の雨を、(和登サンとヒゲオヤジは、たまらず服を脱ぎ捨てる、)操作を間違えてパチンコ玉の雨を、しまいには豚の雨を、降らせているうちに、とうとう吾平に逃げられてしまい、足止めを食らわせるために大雪を降らせたところで、このままじゃたまらん、と、和登サンは雪つぶてで写楽の額の目を塞ぎ、第7の環状列石を解体する。

 和登サンの叔父の寺の環状列石は、倒壊したままだが、あそこにはまだ別のボルボックが閉じ込められているのかも知れない。吾平も、新しいボルボックを、どこかできっと育てているだろう。この恐怖の植物は、全国に潜んでいるのだ。人間が自然破壊を繰り返す限り、いつかきっと、この植物の報復が..


 構想は悪くないが、傑作と呼ぶにはためらわれる。恐怖感もサスペンスも、ここに紹介したストーリーから期待されるほどのものではない。ボルボック(及び、そのヒゲとコブ)が造型的に、今ひとつ物足りないことが最大の理由。やはり漫画は“絵”である。吾平が結局、ボルボックを持って逃げのびてしまった、というエンディングは、良い。

*復活の谷

 崖から転落した和登サンは、谷底の、深い霧の中で目を覚ました。行けども行けども霧は晴れず谷底からも出られず..足元に、お地蔵さんのように並ぶのは、不気味な石像..ボルボック事件の、あの閉ざされた納骨堂の中にあった石像にそっくり..

 やがてひとけのない、奇怪な遺跡に迷い込む。そこには、和登サンにそっくりな、三つ目の少女の石像が..その時、和登サンに「とうとう来てくれたね、エロマンガ」と呼びかける声! 写楽? いや、写楽にそっくりだが、別人だ。

 その少年の名は、ランギロア。彼が命をかけて愛し..そして死んだ少女、エロマンガ。その生まれ変わりが、和登サンだというのだ。いつのまにか、ひとけがなかった遺跡に人々が。ここは、この島に流れ着いた、三つ目人の国だったのだ。

 彼は、強引に和登サン(エロマンガの生まれ変わり)との結婚の手続きを取り、一番派手なタイプの結婚式、すなわち、奇怪な円盤に乗って空中旅行を行なう式を執り行う。

 空を行く、ランギロアと和登サン。ランギロアは、三つ目族の過去と未来を語る。かつて高い文明を誇った三つ目族も、この島に流れ着いてきてからは、頭も次第に鈍くなり、技術の遺産も失いかけている。子孫はやがて、原始生活に戻ってしまうだろう。文明というのは、そういうものなのだ..

 その時、円盤が事故を起こした! ランギロアは転落する! 心配するな!私は死ぬが、必ず来世生まれ変わる!そしたら祈って呼び寄せてくれ! そう叫んで落ちて行くランギロアに、和登サンは、生まれ変わりの名は知っている、その名は..

 ..「写楽クーンッ」と、叫んだところで、目が覚めた。彼女は、崖の下に転落して気絶していたのだ。友人たちが救出に来てくれたのだが、遺跡のことを言っても誰も本気にしない。かすかに足跡はあるが..和登サンは足をくじいていて、歩けないのだ。

 担架で運ばれて行く和登サン..その逆方向の足跡の先の、草むらの中には、あの石像が..

 なんということもない短編に見えるが、意外な佳作である。

 写楽と和登サンの前世からの因縁を説くと共に、衰退する三つ目族の運命を語ることによって、写楽の決定的な孤独を、改めて浮かび上がらせている。三つ目族であろうとする限り、写楽は未来を失った種族の、最後の生き残り=死に損ないに過ぎないのだ。


*手塚治虫漫画全集 112


MASK 倉田わたるのミクロコスモスへの扉
Last Updated: Jul 15 1998 
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