三つ目がとおる 10

*オハグロ沼の怪物

 伊豆半島のオハグロ沼の物語。昔、この近くの村の彫り物師が、村祭りのために竜を彫り上げたが、その出来が気に入らなくて、沼に放り込んで旅に出てしまった。それ以来、誰もその沼に近寄らない。彫り物の竜が本物の竜になって、ひと月に一度、水面に顔を出すからだ..

 和登サン(と、お邪魔虫の写楽)が同行しているのは、その彫り物師の子孫の青年。彼も彫刻家であり、オハグロ沼に向かっているのだ。竜のことなど迷信だろうが、迷信を生むほど力のこもった作品を彫りたいものだ。そして出来れば、本当の竜を見てみたい..! 和登サンはもう、一途な彼にぞっこんである。

 メタンガスの沼気漂う、オハグロ沼の岸辺にキャンプを設営した青年は、沼底を覗き込んでいるうちに転落し、溺れかかる。和登サンは写楽のバンソウコウを剥がし、写楽の機転で青年は救出され、同時に、浮かび上がってきた竜の首を、捕獲した!

 朽ち果てた、木彫りの竜だった。メタンガスが少しずつたまって、竜の首を浮かび上がらせ、そして空中にガスが逃げると、また沈み..これを繰り返していたのだ。一文の値打ちもない、くだらない彫り物だった。こんなものを恐竜だとかタタリだとか、まぁおめでたいこと、と、写楽の毒舌。

 悄然として去って行く青年に失恋する和登サン。からかう写楽。和登サンは写楽を追い回して、岸辺からは、誰もいなくなる..

 ..と、今の大騒ぎはなんだったの? という表情で、巨大な首を出した、オハグロ沼のヌシ。

 短編(SF)漫画のお手本とも言うべき、鮮やかな作例。

*王者の剣

 アーサー王が、誰も引き抜けなかった剣を、岩から抜いた、という故事がある..

 久しぶりに和登サンの前に現われた、超疫病神・文福。彼は、写楽にみせたいものがあるんだが..と持ち掛けるが、和登サンは一顧だにしない。教室に入ってみると、「人さし指をとぎすましイ..ヒイヒイヒイ」と、女の子の胸にタッチする、しょうもない遊びが流行っている。写楽が幼稚園から輸入したのである。

 ..とかしているうちに、須武田博士が写楽と和登サンを迎えに来る。パキスタンの古代遺物を見せたいというのだ。これは文福の持ちネタだ。彼が須武田博士を抱き込んだというわけである。

 同席していたのは、パキスタンのズンダー・バンダー博士。2000年前のハラッパ遺跡から、7000年前の剣が出てきたのである。従ってこれは、ハラッパ人の遺物ではない。どうしても鞘から抜けない。柄の先には三つ目の彫刻。さらに柄自体には穴が無数に空いていて、中が空洞らしい。もしや、興奮剤や精力剤のような薬が染み出して、手から体に吸収される仕掛けだったのでは? そこで、写楽の出番というわけだ。和登サンは反対するが、結局バンソウコウは剥がされ、写楽は剣と共に、コンクリートの密室に閉じ込められる。

 こともなく鞘から剣を引き抜いた写楽は、普段に数倍する凶暴な表情をむき出して、剣で部屋を破壊し、コンクリート壁を突き破り、建物を、林を、車を破壊しまくる! これは三つ目族の遺物であり、三つ目族でなければ使えないものなのだ。薬はまだ、柄の中に残っている。猛烈な戦闘力が湧いてくる薬だ!

 その薬を分析して量産し、大儲けしよう! と、文福。普段に数倍して凶暴化している写楽も、否やはない。このままでは大変なことになる。そこで、和登サンと須武田博士は、「人さし指をとぎすましイ」のしぐさをしてみせ、写楽があっけにとられ、思わず真似をしかけたところで、「ヒイヒイヒイ」のタイミングで、バンソウコウ。体に叩き込まれた癖には逆らえない、というオチである。文福は、またも儲け損なった。

 ストーリー自体は凡庸だが、このアイテムは、奇妙にリアルで心惹かれる。握っただけで(クスリが滲み出して来て)パワーアップするハンドル。叩いているだけで(クスリが滲み出して来て)人格が狂暴になるキーボード..[;^J^]

*カンニング

 派手な顔をしたタラコクチビルの男が、模擬テストの開始を宣告する。アメリカのドンキー・モンキー社の日本支社の出張員で、同社の開発した模擬テストの監督官なのである。300問もある上に、コンピューターで採点するのだ。むろん写楽は落書きである。タラコクチビルは、写楽のバンソウコウがカンニングペーパーではないかと疑う。

 憤懣やるかたない和登サンは、写楽を連れてコンピューター室に忍び込むと..タラコクチビルが、出来の悪い生徒の親からワイロを受け取っていた。機械に生徒が首を突っ込むと、自分の頭髪にそっくりのカツラが被さり、そのカツラの中の超ミニ受信機に、このコンピュータールームから正解が放送されるのだ。手の込んだカンニングだ。タラコクチビルは出来の悪い親子を帰すと、隠れていた写楽と和登サンを引っ張り出し、和登サンに写楽のバンソウコウを剥がさせる。無論、カンニングペーパーではなかったのだが、タラコクチビルは納得しない。

 写楽の報復が始まる。深夜、コンピュータールームに忍び込むと、機械を改造してしまう。翌朝、タラコクチビルは機械に襲われ、自分の顔そっくりのカツラ(というかマスク)を被せられて、テストが始まると生徒たちの前で、正解をベラベラ喋ってしまう。無論、コンピュータールームから写楽が放送しているのだ。全問の正解を喋り終わると、DJである。

 コンピュータールームに逃げ帰る、タラコクチビル。押しかける、ワイロを払った親子たち。機械は、それらの生徒を順番に捕まえては、タラコクチビルのマスクを被せ、タラコクチビルは親たちに叩き出される。写楽まで機械に捕まり、タラコクチビルの顔にされる。とっととみんなの顔を直して機械をブチ壊せ! と、和登サン。

 駄作である。このカンニング方法に必然性がなく、話の前提がそうだものだから、終盤のドタバタにノレないのだ。「コンピューターによる採点」も、気になる。76年4月と言えば、共通一次試験がスタートする3年前だが、模擬テストなどでは、マークシートの機械採点くらいは行なわれていたはずである。

*めおと岩がくっついた

 超古代の巨石工事は、いかにして行なわれたのだろうか? 人海戦術をはじめとする仮説は、いくつも提示されているが..

 197X年8月、東北一帯を襲った地震で、山形県の禿(かむろ)山の、大黒天弁天めおと岩の、弁天岩の方が転げ落ちたのだ。さしわたし11メートル、200トンの巨岩が、7キロも転げて麓でとまったという、大事件である。

 ふたつの岩がぴったりとすきもなく組み合わさっていた、インカ遺跡の石垣そっくりな、先住民族の巨石文明のあとではないかと騒がれていた岩であったが、はたして、離れてはじめて人目に触れた接面には、細かな文字が刻まれていたのである。須武田博士がそれを解読しようと苦心しているのをテレビ番組で知った(今回は、何故か最初からバンソウコウが剥がれている)写楽は、これはヤバイ、と、和登サンを引き連れて現地に急行する。あの文字は、隠してしまわなければならないものなのだ。

 現地で、文字を解読した写楽は、その結果を須武田博士には教えず、和登サンとふたりで、弁天岩の隣で野宿する。その夜、和登サンは、歌うように美しい声で泣く女の夢を観た。かたくむすばれていたのに、もう永久にあの人とは会えない、と嘆く、平安風の美女である。目が覚めたら、石が泣いていた。写楽を起こすと、これは夜風が起こしている音だと、簡単に喝破し、和登サンの夢は女の子の夢だと片づけて、それはそれとして、望みどおり、今夜中に山の上にあげてやる、という。どうしても、あの文字を隠さなくてはならないのだ。

 彼はゴミ捨て場から鍋を拾ってくると、ゴミからクスリを調合し始める。あの文字は、“薬”の処方箋だったのだ。写楽が、その薬を弁天岩にかけると、たちまち崩壊し、砂の山となってしまった。三つ目族の時代に発明された、この薬は、インカの石垣の岩と岩の合わせ目に塗られて、とかし合わせるのにも使われたのだろう..

 写楽は、通りすがりのダンプカーの運転手を眠らせて車を拝借し、山の頂上まで何往復もして、砂を全部運び上げてしまうと、今度は結合力を強める復元剤を振り掛ける。(古代人は、巨岩をこうして運んだのだ。)

 弁天岩の砂は、みるみる盛り上がって、大黒岩とピタリとくっついて復元し始めるが..写楽の腕が、ふたつの岩に挟まれてしまった! 押し潰される! 和登サンは、最初の薬の残りを、両方の岩に振り掛けた。

 かくして、めおと岩は両方とも消滅し、砂山だけが残った。岩の夫婦は、永久にまざりあって満足だろう、と和登サン。いつのまにかバンソウコウを貼られた写楽も、特大の砂場が出来て幸せである。

 和登サンの観た“幻覚”の真偽は、最後まで問題にされない。どちらかと言えば(写楽にからかわれたような)女の子らしい“夢”に過ぎなかった、と思わせる(誘導する)ような描き方である。こういう例は、比較的珍しい。

*文福脱走

 写楽が本屋で大騒ぎをして折檻されていたところに、ネコのようなタヌキが現われた。タヌキは写楽を、妙に近代的な洋館に案内?し、そこでバンソウコウにラーメンの油(バンソウコウを剥がす秘薬)をかけて、バンソウコウを剥がし、手紙を持ってくる。タヌキにこんな知恵があるわけは無いのだが..果たして、その手紙によれば、タヌキには、この一連のしぐさが条件反射で仕込まれていたのだ。手紙のヌシは、文福。三つ目の写楽の悪友だ。

 麻薬密輸で刑務所にブチこまれた文福が、写楽に救出を求めてきたのだ。写楽はタヌキに、文福の秘密地下室に案内させる。そこで材料を調達すると、トラックに乗って、まず砂山へ。そこに機械(A)を設置すると、次に刑務所へ。機械(B)を塀の中に打ち込むと、機械(A)から転送された土砂が、機械(B)から噴出し続け、塀の中全体を埋め尽くす山となる。監房の戸を開けられて、砂山の上に避難していた囚人たちは、塀の外に滑り降りて逃走する。むろん、文福も。彼は、写楽の用意した空のバキュームカーのタンクに隠れて、非常線を突破するが、これで脱獄の共犯になった以上、俺からは離れられないぜ、と、写楽にうそぶいたのがまずかった。写楽はタンクの中に池の水を引き込んでしまう。

 文福の地下室を乗っ取った写楽は、ここをアジトにして「暗黒街の帝王」「世界の征服者」を目指し、その第一歩として、自分をひっぱたいた本屋のオヤジに復讐すべく、まずは巨大ハエタタキを作るが、それを抱えて本屋を襲う途上、夜遊びから帰ってこない写楽を探しに来た和登サンに、あっけなくバンソウコウを貼られて、幕。

 本格的に悪の道に踏み出した、その最初の事業の、あまりのせこさが泣かせる。[;^J^] 秘密の地下室をアジトにして「暗黒街の帝王」「世界の征服者」への道を踏み出すことを、夢見なかった男の子がいるだろうか? いや、いない。

*タワーリング・ミラクル

 ジュラルミンとガラスで作られた、光り輝く美しい高層ビル群、トワイライト・タワー。しかしそれらに囲まれた中庭には、幽霊が出るという噂があった。

 トワイライト・タワーを設計したJ建設の部長と課長が、中庭で、突然の寒気に襲われた直後に、窒息死した。彼らの葬式ののち、設計部長の息子で、写楽の級友のケンちゃんの兄である青年は、窒息死とは不審である、と、バンソウコウ写楽に調査を依頼する。

 問題の中庭に入ってみた和登サンと写楽。冷蔵庫のように冷たいスポットがあることを確かめた和登サンは、写楽のバンソウコウを剥がす。

 写楽はたちまち謎を解いた。ジュラルミンとガラスの壁は太陽光線を反射しあって、中庭の上空に、極めて高温の熱だまりを作っているのだ。そこで強い上昇気流が発生し、中庭の四方のドアから冷たい空気が吹き込み、その空気がぶつかったポイントでは、風が消え、冷気だけが残る。もしも中庭の周囲の扉がすべて閉じられたら(これは、中庭の外側にあるスイッチで操作出来るのだが)、上昇気流を補充する空気が供給されず、地上は真空状態となる。中庭に人がいるのに、周囲のドアを全部閉めるのは、不自然だ。つまり..殺人事件だ! 犯人は、ビルとドアの仕組みを良く知っている、設計グループのひとりで、部長を憎んでいた人間だろう..

 写楽の推理がそこまで進んだところで、例の部長の息子が、(中庭のドアの外側から)犯人の名乗りをあげた。このビルは、彼が設計したのだ。手柄を盗んだ父が、許せなかったのだ。三つ目写楽の天才の評判を弟から聞いて、知恵試しをしてみたのだが..こうなったら、死んでもらうしかない。

 彼はドアを閉じた。たちまち窒息するふたり。写楽は和登サンをマンホールの下に避難させると、念力で青年を吹き飛ばす。彼はスイッチ群の上に倒れ込み、ドアが一気に開くと、周囲から突風が吹き込んで、青年はそれに巻き込まれて、上空に放り上げられてしまう。

 これで、ケンちゃんは、お父さんもお兄さんもなくしたわけだが..三つ目人の方がかわいそうさ。みんな滅びてボクひとりだ。と、写楽。

 確かに物理的にはデフォルメが過ぎるが、原理的には正しい。ビルの構造に秘められた犯罪、というモチーフは、「ビルの中の目」を、急激な上昇気流による“解決”は、「鉄腕アトム:アトム対ガロン」を、それぞれ想起させる。

*暗黒街のプリンス(原題 暗黒街)

 写楽の落第が決定した。成績の問題ではない。横浜のナイトクラブで、ホステスたちに囲まれていたり、暗黒街の顔役、金根漢(きんこんかん)たちと取り引きをしているところの写真が、素行調査にあたった私立探偵によって、撮られているのだ。事実を調査し、写楽を立ち直らせる、と、約束する和登サン。

 しかし、誰がバンソウコウを剥がしたのだ? 和登サンは、(1976年ならではの)ケバいカッコのアバズレに変装すると、繁華街に繰り出す。ちょっかいをかけてきたランプとハム・エッグを、取り敢えず血祭りにあげてから [;^J^]、問題のナイトクラブへ。年齢を偽って、ホステスとして雇われ、騒ぎを起こしたところで、「プリンス」の目にとまる。黒いカツラで三つ目を隠しているが、写楽だ。彼は和登サンの変装を見抜けていない。同席しているのは、金根漢。プリンスと金根漢は「ピーナツ」の取り引きをしていたのだ。

 和登サンを連れてナイトクラブを出た悪者たちは、夜の海岸通りで「ピーナツ」の試射をする。写楽は、射程距離5キロの豆鉄砲に「ピーナツ」を装填して、沖合いのタンカーに撃ち込む。甲板に落ちたピーナツは、タンカー全体を腐食させ、異臭を放つ老廃物だけが残った。つまりウンコになったのだ。なんでもかんでもウンコにしてしまう、恐怖兵器だ!

 尾行していた私立探偵を、車ごとウンコにしてしまうと、写楽は和登サンを連れてアジトへ向かう。金根漢らは、和登サンの服に密かに発信機をつける。

 ついたところは、例の、文福から横取りしたアジトである。飲めない酒を飲んでいきがるプリンスは、あのピーナツを悪者たちに配れば、いまに地球上をウンコだらけにし、人類を滅亡させるだろう! それが三つ目人たる俺の狙いだ! と叫ぶ。しかし万能の俺にも、死に別れたかあちゃんは作れない..かあちゃん、て、どんなもんだか知りたい..そこでお前を実験台にして、三つ目人のかあちゃんを作る! っと、準備のために彼女を水槽に放り込んで磨いてみたら、化粧が落ちて和登サンが出てきた。写楽があっけに取られている隙に、バンソウコウ。その時、金根漢たちが、プリンス(写楽)を誘拐すべく、攻めて来たが、どたばた騒ぎのうちにピーナツがばらまかれ、屋敷はウンコと化し、和登サンと写楽は、かろうじて脱出する。(ちなみに、写楽のバンソウコウを剥がしていたのは、例のタヌキネコであった。)

 地球を本気でウンコにしようと考える写楽は、もちろん、恐ろしい。しかし、そんな写楽の悪の魅力に惹かれる和登サン..そして写楽は、寂しい悪魔なのだ..

 三つ目の写楽に、和登サンの変装が見抜けないのはおかしい、などと難癖をつけてはいけない。[;^J^] 平均的な作例であるが、ウンコ兵器は、それなりに面白い発明である。(こういう兵器で、世界を破滅させたい、と、夢見る男の子がいるかどうかは、知らないが。[;^J^])

*神々の食糧

 3年前に消息を絶った、和登サンのペンパル。彼の最後の手紙には、彼の故郷に“神かくしの学校”という廃校があり、明治以来行方不明者が続出したこと、彼はその学校に探検に行くこと、が記されていて..そして、行方不明になったのだった。そして今、“神かくしの学校”に向かう、和登サンと写楽..

 ..妖気ただよう、その廃校の教室の中には、ペンパルの置き手紙が残されていた。和登サン宛ての、彼の調査の経過報告だ。この学校、というより、この場所には、遥かな以前、秘密の集落があって、なにか謎めいたものを製造しては、海に運んでいたらしいのだ。その製法を記していたはずの古文書は、見つからない。海へ運んだという秘密のルートがあるはずだが..

 和登サンがここまで読んだところで、(ウルトラQの「タランチュラ」のごとき)怪虫が、侵入してきた! 写楽のバンソウコウが剥がされる! しかしその怪虫は、ただの“巨大化した”ゴキブリであった。

 ゴキブリのあとを追うふたり。校舎裏の小屋。まるで粉引き小屋のような設備。その床の上にこぼれている粉を、あのゴキブリは食っていたのか..? その時、小屋のメカが動き出し、ふたりはベルトコンベヤー(ロープウェイ)に捕えられてしまう。古代の運搬用設備だ! 行方不明の原因は、これだったのだ。ふたりは、裏山から海の上に運ばれ、そこで海中に落とされる。

 ..何故か窒息しない。ゼラチン状の暖かい泡につつまれ..まわりにも、ゼラチンの固まりがいっぱい! かたまりの中には、ひとりずつ胎児のように眠る人間が。もしかして、ペンパルもここに..? 眠い..

 眠っちゃだめだ! と写楽に励まされて、命からがらゼラチンから脱出して、陸地に逃れたふたり。写楽は、小屋で見つけた古文書を、さっきの泡の中で読んでいた。それによると..

 これは、「神々の食糧」なのである。これを食べれば不老長寿、これを水にといてその中に包まれれば、何千年も眠り続けて、来世に目覚めることができるのだ。昔、天上より訪れた神々が、天空旅行用に使用したものを伝えた秘法なのだ..

 しかし写楽は、その製法を記した古文書を、捨ててしまった。いまの人間にゃもったいないよ……

 佳作である。ちょっとクトゥルー神話の雰囲気も漂っている。ペンパルが最後まで姿を現さず、救出もされないのがいい。

*ガイコツ・ショー

 テレビ局からのアプローチ。全国の視聴者に、第三の目を見せてあげたい! むろん、和登サンは言下にはねつけるが、視聴率競争の厳しさを解ってくれ! という泣き落としに、折れる。

 本番の日。写楽のバンソウコウを剥がすだけで1時間もたせなければならないのだから、と、包帯でぐるぐる巻きにしたら、呼吸困難に。ほどこうとしてもほどけずハサミを持ち出すやらの大騒ぎを(本番中に)しているうちに、いきなり包帯もバンソウコウも取れてしまった。

 人をオモチャにしやがって! と、写楽は報復モードに入る。モニター室に入ると、スタッフたちを眠らせ、回路に細工して、人間は全て骸骨の姿で放映されるようにしてしまったのである。ゲストも、司会者も、コマーシャルも、野球中継も、歌番組も、ニュースも、国会中継も..!

 むろん、写楽は和登サンの罠に引っ掛かって、バンソウコウを貼られてしまう。後日、例の番組の視聴率をきいてみたら..局始まって以来の70%を記録したのだが..それ以来、骸骨しか映らなくなってしまったので、会社はつぶれてしまったのだった。

*わんわん物語

 写楽に、覗き疑惑! 女子更衣室の天窓から、バンソウコウが覗くのだ。写楽をひっぱたく和登サン曰く、

「ボクのヌードを見たいんなら、いつでもウチへくりゃ見せてやんのによ……
 みそこなったよ、ヘンタイ写楽!」

(えーと、それはそれで、ちょっと。[;^J^])

 冤罪だったのだ。額にバンソウコウを貼った、ホクサイという犬。体が弱く、兄弟犬にいじめられている。額に傷があり、人相が悪いものだから、飼い主にバンソウコウを貼られていたのである。彼が、飼い主(同じ学校の女子生徒)のあとをついていって、女子更衣室を覗いていたのだ。

 ホクサイのバンソウコウを剥がそうとするバンソウコウ写楽は、当然ながらホクサイの母犬を怒らせ、和登サンと写楽は、彼女に襲われ、追い詰められる。和登サンは窮地を脱するために写楽のバンソウコウを剥がし、写楽は催眠術で、母犬も兄弟犬もホクサイも眠らせ、ホクサイを犬持医院へ連れてゆく。ホクサイの額の生まれつきの傷について、医者の意見を聞くためだ。

 人間もケモノも、生まれる前は、体が左右に分かれている。額の骨も、生まれた時には、あわさりめの傷が、まだついているのだ。そこがあわさらずに生まれ育つ赤ん坊がいても、おかしくはない。その傷の下には、脳膜、脳髄..

 説明に満足した写楽は、ホクサイを抱えてアジトに走る。(「暗黒街のプリンス」で、屋敷はウンコと化して消滅したが、地下室は残っていたのだ。)以前から、二つ目の人間を三つ目に改造する方法を研究していた写楽は、ホクサイを実験台にして、三つ目の生物を誕生させようというのだ..!

 (おどろおどろしき、雷撃など一式..)

 なんと実験は成功し、ホクサイは人間並みの知能を得、日本語をしゃべり、それどころか写楽に超能力(オーラ)勝負を挑み、そして写楽に勝ってしまう..!

 そこに飛び込んできた、ホクサイの母犬。ホクサイが戸惑う隙に、和登サンが、ホクサイと写楽にバンソウコウ。ホクサイの母犬が、息子がさらわれた先を、必死に嗅ぎ当てたのだった。ホクサイの額の傷は、犬持によってふさがれ、平穏な日常が戻った。母犬に可愛がられるホクサイを見て、写楽は、「かあちゃん……」と、呟く..

 一見、ちゃちな思い付きに見えるが、これは、かなりの傑作ではなかろうか。「暗黒街のプリンス」では、いかにもナマな形で大仰に語られていた、亡き母への思慕が、ここでは、犬の母子の情愛に置き換えられ、より洗練された処理が施されている。三つ目族への改造、というモチーフも、重要である。


*手塚治虫漫画全集 110

(文中、引用は本書より)


MASK 倉田わたるのミクロコスモスへの扉
Last Updated: Jul 2 1998 
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