三つ目族の謎編 第1章 重すぎる小包嵐の夜、急患の赤ん坊を抱えて犬持医院に駆け込んだ、三つ目の女。赤ん坊の命を犬持に託して病院を出た彼女は、頭部に落雷の直撃を受けて、即死した。
この赤ん坊こそ、写楽保介であった。犬持が写楽を養子にしてから数年後、赤ん坊の額にも、奇妙なできものが..昆虫の複眼のようなものがあらわれた。そしてこれがあらわれると、彼は異常な知能を発揮するようになった。それだけならまだしも、恐ろしい悪戯をしでかすようになったので、犬持は、できものができると、バンソウコウをはって隠すようにした。すると写楽は、がっくりと知能指数が落ちてしまうのだ。
普段はバンソウコウを貼っている写楽は、学校中の笑い者になっているが、バンソウコウを取った写楽の危険な魅力に惹きよせられているのが..ボク、和登千代子..
三つ目族の謎編 第2章 天人鳥犬持医院に、異様に重い小包が届けられた。爆弾かも知れない、と、警察を呼ぶが、中から出てきたのは、奇妙な模様が刻まれた青銅の球。須武田博士の博識をもってしても、正体がわからない。
翌日、保育園で園児たちと遊んでいる写楽。トンネルごっこをしているうちに、周囲の園児たちは、次々に生き人形とすりかえられ、クワッと大きく口を開け、牙を向く。(ここは、映画「バーバレラ」の有名なシーンを想起させる。)そして写楽は自動車に誘い込まれ、さらわれたのだが..もうひとつ誘拐されたということを理解していない写楽に、誘拐犯の運転手は悩まされつつも、行き先は山中の屋敷。そこで待っていたのは、ゴブリン男爵と名乗る三つ目の男であった。(ただし、彼の第三の目は、退化して痕跡を残すのみ。)彼は、写楽を「甥」と呼んだ。
写楽の母の兄弟だったのだ。ゴブリンと意見があわなくて、写楽の母は赤ん坊を連れて屋敷を飛び出したのだった。(では、雷で彼女を撃ち殺したのも、ゴブリンなのか?)ゴブリンは写楽を押さえつけ、バンソウコウを剥がそうとする。写楽の力を借りる必要があるからだ。三つ目族の先祖が残した秘宝があるのだ。それを手に入れた者は、世界の未来をも変えるだろう、という秘宝だ。あの青銅の球に刻まれた秘文字! それを解読できるのは、写楽だけなのだ!(彼が、ゴブリン家に古くから伝わる青銅球を犬持医院に送ったのは、写楽がすぐに解読してくれると思っていたからだ。彼は、写楽の知力が普段はバンソウコウによって封じられていることを、知らなかったのだ。)しかし、バンソウコウは、どうしても剥がれない..
..その頃、須武田博士は犬持医師に、この球の紋章は、殷や周、あるいはマヤ文明の出土品に似ている、と、説明していた。しかし放射能測定をしてみると、7〜8000年前のものなのだ。年代があわない。これは..中国文明やマヤ文明に先行する、それらの元になった文明の遺物ではなかろうか? この球の秘密がわかれば、大発見だ。三つ目の写楽なら..しかし犬持は、例によって、写楽のバンソウコウを剥がすことに反対する。
そこに写楽が帰ってきた..血まみれのバンソウコウを貼ったまま..!
“謎の発端”としての、青銅球は、非常にいい味を出している。これを警官たちが開梱するときに、(爆発物の恐れがあるのに)皆が覗き込んでいるのは、妙である。
三つ目族の謎編 第3章 余呉明神の秘密凍えながら勤行に勤しむ和登サン。そこに犬持から電話がかかってくるが、それに出た和登サンの父(住職)は、写楽とは今後いっさい交際ご無用に願いたい、と、にべもない。犬持と須武田は、和登サンに手伝ってもらいたかったのだが..なにしろ、写楽のバンソウコウを剥がすのは、犬持たちでも出来るのだが、それを貼り直すのは、和登サン以外には容易なわざではないからだ。
ゴブリンは、写楽のバンソウコウを剥がせなかったので、泳がせるために送り返したのである。写楽に託されていたゴブリンからの手紙には、あの青銅球は自分から写楽への贈り物である旨、記されていた。結局、犬持たちは、和登サン不在のまま、食用油を使って写楽のバンソウコウを剥がす。
写楽は、青銅球の秘文字を解読すると、興奮して悪魔の表情になる。そして犬持と須武田には内容を教えず、これには、あるとてつもないものの隠し場所が暗号で書かれているのだ、としか答えない。事態の容易ならぬことを悟った犬持は、電話で和登サンを呼び出そうとするが、写楽が例の呪文「アブドル・ダムラル・オムニス・ノムニス・ベル・エス・ホリマク」を唱えると、青銅球が突如動き始め、電話機を押し潰してしまう。そして、霧を吹き出しつつ球がふたつに割れると、中から異様な鳥のような影が飛び出す!
和登サンの寺。窓の外から呼ぶ声に、庭に出てみると、そこにいたのは..人間の女の頭部を持つ鳥! 和登サンの父は、これは「天人鳥」であると喝破した。カメラを取りに走る和登サン。そこに電話が。写楽だ。天人鳥を寄越したのは写楽なのだ。面白い話があるから至急会いたい、と、写楽が勝手なことを言っているあいだに、天人鳥を追跡した和登サンの父は、トリモチ状のもので固められ、眠らされてしまう。
学校の裏に呼び出された和登サン。写楽は、君のオヤジは失神しているだけだ、と、安心させた上で、和登サンを旅に誘う。琵琶湖へ..琵琶湖の底に、超古代文明の遺産が、財宝が、眠っているのだ。あの、青銅球の中にいた天人鳥が、そのありかを知っているのだ! 写楽は呪文によって天人鳥を呼び戻し、天人鳥は青銅球の内部に戻る。さらに、増長した写楽は和登サンの唇を奪う。[;^.^]
話はここまで! っと、和登サンはバンソウコウを貼ろうとするが、当然写楽は逃げる。来来軒のオヤジ(ヒゲオヤジ)に応援の電話をした和登サンの足元に、あの青銅球が迫る!
ヒゲオヤジは学校まで飛んできて、三つ目の写楽と渡り合い、見事にバンソウコウを貼ってしまう。和登サンの目の前で、青銅球から半ば姿を現しつつあった天人鳥は、写楽の三つ目が封じられたちょうどその時、動きを止め、球の割れ目から半身を出したまま、石のように固まってしまう。
さて、財宝の話など全然信じていなかったはずの和登サンだが、突如欲の皮が突っ張ったか、財宝を探しに行こう、と、(財宝のことなど知りもしなければ興味も無い)バンソウコウ写楽を誘惑する。[;^J^]
「その財宝は、キミとボクだけで使えるんだって!
キミはボクに財宝をくれる。ボクはキミのちからになったげる。
助けあうってこと」(..ギブ&テイクにしては、バランスが偏っているように思う。[;^.^])
和登サンと写楽は、キャンプ用品や潜水具などを買い込んで、ヒッチハイク旅行に出発する。無論、天人鳥が半身を乗り出している青銅球も一緒に、である。それを追跡するのは、ゴブリンと手下の運転手。行き先は..琵琶湖だ!
とにかく、天人鳥のキャラクターが、抜群に良い。この、意志があるんだかないんだか、どれほど恐ろしい超能力を持っているんだかいないんだか、さっぱりわからない「ロボット」は、この「三つ目族の謎」編の、イメージメイカーである。
三つ目族の謎編 第4章 湖底の財宝ヒッチハイクで琵琶湖畔についたふたりは、改めてその広大さに呆然とする。どこかに沈んでいる..って、どこを探せばいいんだ? とにかく手近の食堂で腹ごしらえをし、例の青銅球をそこに預けて、琵琶湖に何かが沈んでいるという伝説がないかどうか、店員に聞いてみると..この北の渡岸(どうがん)寺の、さらに北には余呉明神という小さな祠があり、そこのご神体は、大昔、琵琶湖から引き上げられたものだという。
さらにヒッチハイクと徒歩で、余呉明神に辿り着いたふたり。神主の許可を得て、祠の中のご神体を調べてみると..一見して、ただの杯にしか見えないが、その裏に刻まれている文字は..あの青銅球の図形と同じものだ! このご神体が沈んでいたところに、三つ目族の財宝が眠っているのだ! さっそく、神主に詳しく聞いてみなくては..と、祠の外に出てみたら..神主は、殺されていた! やむをえず神社を家捜しして、つづら尾崎から引き上げた、という記録を発見する。神主のことは、あとで警察に報告することにして、つづら尾崎に向かう。すると、逃げ場のない狭い道路の前方から、ブルドーザーが迫ってきた! 追い詰められたふたりは崖の下に滑り落ちてしまう。
幸い、かすり傷だけですんだが..怪しい老人が現われて、何をしている..と、警告する風である。彼を振り切って、テントを張って野営をするふたり..しかし深夜になって、老人は、そのテントを訪れた。ひとりの無口な少年をともなって。彼の額には、御札が貼られていた..
少年の名は公卿(くぎょう)。先祖代々、琵琶湖の北岸の人里離れたところで、世間とは没交渉で(この老人とだけは懇意にしていたのだが)生きてきたのである。一家全員、額に御札を貼って..それは、早死にの家系なので、長生きできるようにというお呪いなのである。げんに、今生き残っているのは、この少年だけなのだ..
という話のあと、和登サンが気を逸らしているうちに、ふたりは姿を消してしまう。彼女は気を取り直して、アクアラングを装着すると、夜の琵琶湖に潜り込み、湖底を調査する。そして、200メートルほど沖合いの水底に取り付けられた、鉄の輪を発見した。周囲を見回すと、ほとんど10メートル四方にわたって、規則正しく並んだ岩。これがもしも「蓋」だとすると..とても、素手では手におえない..
いったん、和登サンが浮上すると、岸壁では公卿が笛を吹いていた。彼は和登サンに、二度と水の中に入るな、そんな真似をするな、と警告するが、むろん、和登サンはきかない。公卿は笛を吹き矢にして攻撃するが、和登サンに投げとばされて退散する。疲れ果てた和登サンがテントに帰ると..そこには、あの老人の死体。神主に続いて、ふたりめが殺された。そして、ゴブリンと手下が現われる。写楽は薬で眠らされ、脅迫された和登サンは、眠り続ける写楽のバンソウコウを剥がし、湖の底の鉄の輪のありかをゴブリンたちに教え..そして、石を結び付けられて、湖に放り込まれてしまう..
..気がついたら、公卿の家だった。彼が助けてくれたのだ。誰が悪人かわかったので、公卿の誤解がとけたのだ。彼は和登サンに、公卿家に先祖代々伝わってきた古文書を見せる。それは..湖の底に沈む、巨大なピラミッドの図だった! その頂上が、あの鉄の輪の蓋なのだ。これは先住民族の豪族の墓場。公卿の家系は、代々、毎日、湖底の入り口に異状がないか、調べるならわしだったのである。そして代々、何故か早死にしてしまう..公卿も、長くは生きられない。白血病だからだ..
おなじ頃、ゴブリンたちは、ボートで湖に乗り出し、鉄の輪を発見していた。ガイガーカウンターに強い反応がある..しかし、これほど巨大な蓋を水圧に逆らって持ち上げることなど不可能に近く、しかも、蓋を開ければ、水が流れ込む..そうこうしているうちに、車の中で眠らされていた三つ目の写楽が、目を覚ました。彼は天人鳥を呼び寄せると、ボートを襲わせ、さらに自分が閉じ込められていた車も破壊させ、天人鳥もろとも脱出する。(こんなに危険なことをする必要は、全くないのだが。[;^J^])
本領発揮の写楽は、和登サンと公卿に対して、ピラミッドの入り口は、湖の底のほかに、陸上にもあるはずだ、と、喝破する。公卿は古文書を取出し、それらしいものが描かれている、と指摘する。写楽としては、公卿など連れて行きたくないのたが、和登サンに諭されて(恫喝されて)3人で宝探しに向かうことにする。案内役は、天人鳥だ。オーラで動く天人鳥は、湖とは別の方向へ飛んで行く..
三つ目族の謎編 第5章 破壊への遺産天人鳥は、湖畔の温泉のわき口へ向かう。その120度もある熱湯の中に飛び込むと、次第に熱湯の水位が下がり、壁面の入り口が姿を現した。天人鳥が一声叫ぶと、扉が開く..3人は、あとへ続く..しばらく歩いた、次の扉の前で、また、天人鳥が叫ぶ。扉が開く..天人鳥の声が、鍵がわりなのだ。
そこは、ピラミッドの最上層の部屋だった。胴の前に、鋭い針先のついた生き人形たちが、自然に置き上がって迫ってくる! 天人鳥の一声で、人形たちは倒れた。護衛なのだ。侵入者の微弱なオーラに感応して、引き寄せられる仕掛けなのだ..その先には、網の中に釣り下げられた動物たちのミイラ、プラスチック状の物質で固められた、馬の死骸などが並んでいた。不老不死の実験に失敗したあとらしい..
..そして最下層。財宝の部屋だ。そこには石棺があった。この財宝に手をつけたとたん命を失い、財宝は永久に埋まる、という警告が書かれた石棺が。警告など歯牙にもかけぬ写楽は、石棺を開けるトリックを看破して、蓋をあけることに成功する! しかし中にあったのは、小さな金属片一枚だけ。財宝はどこだ!? その瞬間、油断を突いて、(ますます凶暴化してきた三つ目の写楽に危惧を抱いていた)公卿は、写楽の額にバンソウコウを貼ることに成功するが、突如起こった落盤に、下半身を埋められてしまう。そして不吉な地響きが..!?
湖上のボートで、ゴブリンたちは、突然湧き起こってきた泡に気がついていた。あの「蓋」が、開きかけているのでは..?
..「蓋」が開いた! 膨大な量の水が、流れ込んでくる! 最下層まで流れ込んでくるまで、いくらも時間はかからないだろう! しかし、公卿の下半身は、石に深く埋もれてしまった。助け出している暇はない。公卿はふたりに、全員死んでは元も子もない、と、自分を置いて逃げることを促す。和登サンは断腸の思いで、写楽を連れ、金属片を拾って、脱出を開始する。
膨大な水流が流れ落ちてくる中、上へ、上へ! ネズミたちの泳ぎ逃げる方向へ向かい、ついに、温泉のわき口に脱出することに成功する。そして、湖上のゴブリンと手下は、ボートごと渦に巻き込まれて、沈んでしまったのだ..
犬持医院に戻ってきたふたり。例によって冒険談を信じられない現実主義者の犬持と、金属片を解読させるために、写楽のバンソウコウを剥がそうと主張する、須武田博士。
バンソウコウは剥がされ、写楽は金属片を解読した。和登サンにだけ話す、と、犬持と須武田に席を外させると、彼は何が書かれていたか、語りだした..
これは、三つ目族の遺書だったのだ。数千年後、写楽がこの墓を開けることを予知していた、三つ目族の祖先が残した..
高度な水準に達した三つ目族の文明は、滅亡に差し掛かっていた。戦争、公害、人心の荒廃..しかし三つ目族が滅びたのちも、必ずや人類は復活し、そして同じ間違いを繰り返すだろう。三つ目族の血筋のものが、その世界に生き永らえたとき、彼に、その文明を破壊させよう。
「わが子の その子の さらにその子につづく とおき血をわけた子らよ
われがつげたることばを読み そしてそのようにおこなえ
邪悪なる文明を敵となし……
すべてうちくだくべし
やきはらうべし
邪悪なる人を殺しさるべし!!」..これが、遺書だったのである。写楽は例の呪文をとなえると、熔解光線を発射する、例の“矛”を引き寄せ、それで室内を破壊しはじめる! この“矛”こそ、先祖が残した武器! これで世界をぶっつぶしてやる! 和登サンは、隙をみてウイスキーの瓶を写楽の口に突っ込み、酒に慣れていない写楽にひと瓶飲ませて、取り押さえる。
和登サンは須武田に、金属板の内容を半分だけ..すなわち、三つ目族は自身の文明に滅ぼされるであろう、という予言が書いてあったとだけ、伝える。むろん、須武田博士は御満悦である。先行文明が存在して、それが滅びてしまった、という自説の裏付けになるからだ。金属板に書かれていた、残り半分は..話すわけにはいかない。写楽が、人類を滅ぼすために、ただひとり生き残った三つ目族の子孫なのだということは..
「三つ目がとおる」シリーズ中の7つの長編、「三つ目族の謎」「グリーブの秘密」「ボルボック」「イースター島」「ゴダル」「地下の都」「モア」のうちの、最初のものであり、かつ、もっとも出来が良い作品である。
写楽たちを泳がせるゴブリンたちの行動が、一部、筋が通っていないとか(写楽のバンソウコウが剥がれる前に、ふたりをブルドーザーで殺そうとするのはおかしい)、例によって粗探しをすればきりはないのだが、そのような読み方をしても、仕方が無い。
道具立てがいい。謎の青銅球。不気味な敵役。天人鳥。琵琶湖。代々琵琶湖の底の秘密を守る家系。そして水底のピラミッド。大道具も小道具も登場人物も、必要以上に多からず少なからず、しかも、十分に不気味で胡散臭いキャラクターが配置されている。
そして、この「遺書」の内容も(良く考えてみると)凄みのあるヴィジョンである。未来の人類を「善導せよ」でもなく、「正しければ助け、誤っていれば滅ぼせ」でもない。「どうせ誤っているから、問答無用で滅ぼせ」なのである。三つ目族の世界を、現代に置き換えてみると..「今の人類が、偶発核戦争だか環境破壊だか人口爆発だかで滅亡してしまうのは、もはや避け難い。遠い未来の次の世代の人類も、同じ間違いをしでかすだろうから、その世界まで生き延びた現世人類の子孫は、その世界を滅ぼしてしまえ」と言っているのである。恐ろしく絶望的で..しかも、どうせ自分たちは滅びたあとなのだから、本当は知ったことではないのだが、という無責任で皮肉な眼差しすら、読み取れるではないか。
しかも、その破壊兵器は、既に放たれているのである。写楽だ。
(文中、引用は本書より)
Last Updated: Jun 27 1998
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