三つ目がとおる 8

*グリーブの秘密編 第1章 先生も狂った!

 バンソウコウを貼った写楽は、完全な落ちこぼれである。テストも授業も邪魔をするだけ。教師たちはノイローゼになり、写楽を転校させろ!と、校長に詰め寄る。バンソウコウを剥がすと危険な知力を発揮するのだ、という校長の説明を信じない教師たち。それを立証するために、和登サンが呼ばれ、試験のあいだだけ、写楽のバンソウコウを剥がさせるが、三つ目の写楽は一文字も書かずに、白紙答案を提出して教室から退出してしまう。やはり落第だ、と決め付ける教師たちの前で、白紙の解答用紙に全問正解の文字が浮き出す。念写したのだ。手の込んだイタズラである。

 その夜、須武田博士は、犬持医師、来来軒のオヤジ、校長、和登サン、写楽、と関係者を全員集めて、写楽と三つ目人に関する、ある仮説を述べる。写楽は、超自然力と魔法の文明を築き上げていた古代三つ目族の末裔ではないか、と。その文明は現代文明とは道徳も常識も異質であるが故に、バンソウコウを剥がした三つ目の写楽は、平気で人を殺すこともできるのだろう..

 五月。クラブへの勧誘の季節。写楽はどこのクラブでも敬遠される。デタラメに遊んで目茶苦茶にするからである。化学実験クラブでは、大爆発を起こし、農芸部ではブタやニワトリの檻を、みな開けてしまう。スモウ部の土俵で遊んでいてフクロにされた写楽を、木陰から監視している怪しい女..

 ..なんとも、要約のしようも無いほど、しまりのない構成のイントロダクション。[;^J^] それもそのはず、6つの回(エピソード)から切り張りされた章なのである。「グリーブの秘密編」を単行本にまとめるにあたって、背景説明のために、単行本未収録の端切れページをかき集めてでっち上げたと思しき導入部。実質的には、最後の1コマにのみ、意味がある。

*グリーブの秘密編 第2章 悪魔のような女

 その怪しい女は、新任教師、上底(あげぞこ)だった。暴力至上主義の彼女は、スパルタ教育どころか、暴力実習すら行なう。無論、主たるターゲットは写楽である。あまりの酷さに、生徒たちは校長に詰め寄るが(この校長の主たる役割は、詰め寄られることである)、例によってなんとも弱腰。上底には口を出せないのだ。なぜなら彼女は「全ピキ連(全女性ピンカラキリマデ連盟)」で、彼女にさからうと、全世界500万人の女が政府にどなりこんで、この学校をぶっつぶしてしまうからだ。(言うまでもなく、「中ピ連」のパロディである。)

 和登サンは写楽に、「脳ミソトコロテン装置」を作って、上底の脳ミソをトコロテンにして頂戴!と、けしかけ、写楽のバンソウコウを剥がそうとする。(ほとんど“悪魔のような女”である。>和登サン [;^J^])例によって写楽は、和登サンの父親(住職)にいったんは追い払われるが、和登サンの部屋を再訪し、バンソウコウを剥がしてくれ、と、申し出る。バンソウコウを貼った写楽が、このようなことを言い出すのは、初めてのことであった。

 三つ目となった写楽は夜までかかって、黒くて巨大な、ミサイルともトーテムともつかない、奇怪な浮遊物体を作る。これは「脳ミソトコロテン装置」ではなく..まるで爆弾のようだ..

 翌日、三つ目の写楽は、教室で上底と対決し、和登サンともども、上底に車で拉致される。写楽は敢えて抵抗せず、成り行きに身を任せる。言うまでもなく、上底(のバックに控えている全ピキ連)は、バンソウコウを取った写楽の超能力が、目当てなのだ。車は米軍基地へ向かう..

*グリーブの秘密編 第3章 死の谷

 米国へ飛ぶ、上底、写楽、和登サン。彼らを乗せた米軍機を、例の黒い爆弾が、尾行していた。

 3人を迎えた米軍基地は、パニックとなった。写楽の言葉によれば、核弾頭つきなのだ。F106の編隊が迎撃に向かうが、手も足も出ない。基地の上空から急降下してきて、空中に静止した爆弾! 基地の要員は、全員逃げ出してしまう。(このシーケンスで、写楽は、上底のボディーガードの猛犬を、念力で地面に叩き付けて“クシャクシャ”にしてしまうが、これが“グリーブ”での惨劇の伏線になっている。)

 無人となった基地の中で、暴君の本性 [;^J^] を現した写楽は、対照的に、腰を抜かしてヘナヘナになってしまった上底を、殴る怒鳴る。[;^J^] 頭上にぶら下がっている“爆弾”のために、手出しできない米兵たちを尻目に、写楽と和登サンは上底に運転させて、基地から退出する。その直後、“爆弾”が降下してくるが..その中から降り注いだのは、鉄屑やゴミ。たばかられたか!と、3人を手配する米軍の頭上で、今度は“爆弾”自体が光り出す..「脳ミソトコロテン装置」だったのだ..

 モハーベ砂漠に向かって走るセダンの中で、写楽は上底に泥を吐かせていた。全ピキ連は、写楽の超能力を使って、“グリーブ”の謎を解きたいのである。ある実験を行いたいのである..その時、セダンは“ヘル・ストーム”(熱雷をともなった驟雨)に突入し、自動車は落雷で大破。3人は間一髪、洞窟に逃げ込んで一命を取りとめるが、上底はこの隙に逃走。ゴーストタウンで写楽と和登サンは、ナバホ・インディアンたちに捕えられる。

 バンソウコウを貼られた写楽と和登サンの前に現われたのは、でかい態度を取り戻した [;^J^] 上底と、彼女の夫、ナバホ・インディアンの考古学者・ブラックホーン博士であった。いよいよ明日は、彼らの旅の目的地でありインディアンの聖地である、“グリーブ”へ向かうのだ..

 写楽が、平手打ち一発で、上底の足腰を立たなくさせるシーンには、ほとんど性的暴力に通ずる危うさがある。

「おう 先生よ、ずいぶん東京じゃ、いきのいい鼻息だったじゃないか!!
 どうしたんだい? そのクタクタジャガーみたいなていたらく
 え まさか、女性ホルモンが一度にふきだしたんじゃないだろうな」

 幼児写楽/暴君写楽の二重構造の倒錯性が、最高に生かされているシーンと言えよう。

*グリーブの秘密編 第4章 ナバホ・ポイント

 写楽と和登サンを乗せたトラックは、砂漠の中を走る。コロラド河..グランドキャニオン..そして、ナバホ山。ここが目的地だ。ナバホ・インディアンたちが、全米から集まりつつあった。みな、ナバホ山の中の聖地“グリーブ”における実験の結果を、期待しているのだ。グリーブが、何千年らいの死の呪いから解き放たれ、聖なる過去の姿を見せてくれることを期待しているのだ。

 実験前夜、写楽たちはグリーブに案内される。それは中規模のピラミッドであり、その頂上の10メートル四方程度の平坦地には、三つ目の図形が描かれていた。ふたりは、明日、この場所で試練を受けるのである。

 グリーブは、10年ほど前に白人によって発見された遺跡である。1万年以上古代のインディアンの遺跡。調査団は、何度も頂上でキャンプをしたのであるが、そのたびに、テントも人間も消滅してしまう。行方不明になった調査団のひとりが、人間の原形をとどめぬまでにグチャグチャに潰れた姿で発見されたこともあった。インディアンの死霊の、白人への復讐なのだろうか..?

 その夜、インディアンたちのキャンプに、ヘリコプターが飛来する。CIAのポーク・ストロガノフである。白人でインディアン嫌いでタカ派のポークは、写楽を武力で奪っていこうとするが、インディアンたちの数には勝てず、いったん引き揚げる。

*グリーブの秘密編 第5章 満月の奇蹟

 実験の朝が来た。頂上に描かれた図形は三つ目。そして写楽も三つ目。写楽のバンソウコウが剥がされ、写楽と和登サンは、頂上に置き去りにされる。24時間、降りることは許されない。下界からはインディアンたちの銃が(金網デスマッチよろしく)狙っている。

 白昼。風が止まり、やがて、砂が、小石が、踊り始める! そして吐き気が.. この怪現象が、いったん収まったとき、写楽は謎を解いてみせた。

 この“グリーブ”は、インディアンではなく、三つ目族が作ったものなのだ。ここでは重力異常が起こっているのだ。今夜は満月。大潮になる。そのとき、何が起こるか..

 夜。大潮の時刻の数時間前に、写楽は、グリーブの内部への入り口を開けることに成功する。ふたりがその中に見出したものは..恐るべきテクノロジーの機械群。それらはまだ動いている! 時限装置としての万年時計も、引力制御装置も! 別室には、マヤの遺跡の有名な宇宙船飛行士の絵。あるいはグリーブは、ロケットや円盤の発射装置だったのか..?

 その時、引力制御装置が唸り始めた! グリーブ内部にも影響が! 重力異常に振り回されるふたり! 写楽は装置を破壊し、ふたりは地下の避難所に待避する! 外界では、グリーブが暴走していた! 周囲一帯に重力異常が波及し、巨岩が吹き上げられ降り注ぎ、逃げ惑うインディアンたちは、全滅する!

 パニックが収まってから、避難所から出てきたふたり。グリーブは、内部の機械群ともども、完全に分解・消滅していた。瀕死のブラックホーン。彼は、グリーブの中にある“武器”を、インディアンの対白人戦争の切り札とするつもりだったのだ。彼はまた、グリーブの正体が重力制御装置である、と、正しく推測していた。

 そこへ、CIAのヘリコプターが帰ってきた。ポーク・ストロガノフはブラックホーンを射殺し、写楽と和登サンを、ワシントンへ(甘言を使いつつ)拉致する。CIAは、写楽がグリーブの謎を解くのを、待っていたのだ。重力制御装置という、ソ連にも中国にも無い武器を使って、ふたたび世界一の強国に戻るのだ!

 何故かおとなしくCIA本部に連行された写楽は、国防予算全部もらえれば、グリーブと同じ仕掛けを作ってもいい、と、CIA長官にもちかける。

 ホワイトハウスの許可が降りた! 写楽の指示に従って、まず、ワシントン州のゴミクズ全てをCIA本部に。そしてゴミの山から発する腐敗ガスの臭気の中、部品を選び出し、それをもとに設計図を書き、そして制作..CIA本部に収まりきれない、ガラクタにしか見えない巨大な機械を作り上げた。

 完成の日。国務長官を呼んで、500億ドルかかった“兵器”の、起動式典が行われた。それは..大西洋の水を、トンネルも掘らずに、凄まじい勢いで汲み上げ続ける装置だった。停止装置はついていない。大西洋の水がなくなるまで、止まらないのだ..


 「三つ目がとおる」としての水準は保っていると思えるが、細かく読むと、微妙に筋が通っていない。インディアンたちが、何故、写楽に実験をさせるのか、その趣旨が、はっきりしないのである。そもそも、この実験の成功を願っているのか失敗を願っているのかも、不明である。望ましい結果のヴィジョンが、見えないのである。

 それはそれとして、終盤の、インディアンが全滅して、写楽対CIAという局面になってからの、本筋とは全く関係の無いオマケの趣向は、それなりに愉快である。


*手塚治虫漫画全集 108

(文中、引用は本書より)


MASK 倉田わたるのミクロコスモスへの扉
Last Updated: May 26 1998 
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