第三の目の怪(原題 赤い案内書)幼稚園で無邪気に遊ぶ、額にバンソウコウを貼った少年。彼の名は写楽。実は中学二年生である。彼の行動も授業中の態度も、どう見ても幼稚園児並みであり、従って、クラスでは格好のイジメの対象となっていた。
その筆頭が、ハンサム・秀才・名門の子弟で金持ち、と、三拍子揃った番長、鬼胴三郎である。彼と彼の子分たちによるイジメはエスカレートし、ついに写楽の額のバンソウコウを剥がしてしまう。その下から現れたのは、第三の目! いや、巨大なイボかホクロに決まっている..
その日から、写楽と鬼胴一派の力関係が変わった。階段で写楽に通せんぼした連中は、写楽の“三つ目”に睨まれて、階段から転げ落ちる。屋上で落書をしていた写楽に因縁をつけた男子生徒は、やはり“三つ目”に睨まれて屋上から落下し、大怪我をする。鬼胴の子分たちは怖じ気づいて手を出せなくなり、鬼胴の面目は丸つぶれになる。
話を聞いた、語り手のボク=和登千代子は、屋上へ行く。そこに写楽が描いている落書は、彼によると、脳みそをトコロテンにする機械の設計図なのである。無論、和登サンは信じないが..
数日後、写楽は設計図を元に、夏休みに入ったひとけのない校庭に、ガラクタを材料として巨大な「脳みそトコロテン装置」を作り始めた。彼は、知恵をつけすぎた人間が地球を滅亡させる前に、人間の脳みそをトコロテンにして、文明とおさらばしてしまった方がいいのだ、と言う。子どもっぽい考え方だが、確かに筋の通った、理想主義的な発想である。これが、あの頼りない幼児的な写楽と、同一人物なのだろうか?
ある日の夕方、ついに「脳みそトコロテン装置」は完成し..そこに鬼胴一派がやって来た。写楽に嫌がらせをするためである。装置を壊そうとした鬼胴たちに、これを起動して不可解な光線を照射する写楽。鬼胴たちの目からは光が失われ、白痴のようになって去って行った。彼らの脳みそはトコロテンになったのだ。この装置は、本物だったのだ! 腰を抜かす和登サンと、試運転に成功して、次は世界だ!と、ホクホク顔で帰ってゆく写楽。
しかし何故かそれから数日間、写楽は姿を見せず、その間に用務員が、あの装置を片づけてしまった。(外見は、ただのガラクタであるから。)そして二学期。写楽はまた、額にバンソウコウを貼られて、父に伴われて登校してきた。もはやあの装置のことは何も憶えておらず、再び無邪気な幼児に戻っていた。
写楽を連れてきた父=犬持博士は、科学者たちと屋上に残された設計図を調べ、それが古代マヤ文明の壁画と同じ種類のものだということを、確認する。謎の古代文明。今の人類文明よりも遥かに高い水準に到達し、その知能も全く違っていたかも知れないのに、何故か滅び去ってしまった、数多の古代文明。写楽は三つ目がむき出しになると、色々変わったことをするのだが、その時、古代人類の知能が突然変異のように現れているのだとすると..危険だ!
犬持は校長に、写楽を他の子と同じように育てることを依頼し、写楽は幼稚園児たちに誘われて、遊びにかけ出してゆく。そして、ボク=和登千代子は、いつか再び、写楽が“三つ目”になることを、密かに期待している。三つ目の写楽に、ひどく心惹かれるからである..
「三つ目がとおる」の、記念すべき第一エピソード。この連作短編集(長編7本を含む)の基調となる要素が、ここにほとんど全て提示されている。バンソウコウを貼っている、幼児的な写楽。バンソウコウを剥がした、悪魔的な三つ目の写楽。幼児・写楽への迫害。三つ目の写楽の発明はガラクタを素材とし、人間(とその文明)に対して悪魔的・壊滅的な効力を発揮する。三つ目の写楽の「(現生)人類は滅びよ!」という思想。写楽に惹かれる和登サン。写楽をこわごわ見守る大人たち。そして、いまだ語られていない重要な通奏低音が、「写楽の孤独」である。
魔法産院来来軒で働く写楽保介。もちろん幼児性を発揮して失敗続きである。和登サンが訪ねてくるが、彼は出前に行ったまま(例によって)迷子になるか遊ぶかして行方不明。写楽を探しに行く和登サンを、若いコックが口説こうとするが、手ひどくフラれる。
公園で写楽を見つけた和登サンは、嫌がる彼を、無理矢理科学博物館に引きずって行く。そこに展示されている古代文明の武器(奇妙な形状の鋒(ホコ)のようなもの)に、三つ目の人間の姿と、解読不能の文字が刻まれているからだ。和登サンは、これを読ませるために写楽のバンソウコウを剥がそうとするが、写楽は、剥がしたら怒られる!と、逃げる。
夜になり、来来軒のコックは、帰ってきた写楽を締め上げる。(和登サンにフラれた腹いせである。)その勢いで、写楽のバンソウコウを剥がしてしまい、そして写楽は、和登サンから渡された写真に写されている、ホコの古代文字の解読を始める。
「アブトル・ダムラル・オムニス・ノムニス・ベル・エス・ホリマク
われとともにきたり われとともに滅ぶべし」(実にこれこそが、「三つ目がとおる」全編にわたってライトモチーフのごとく、写楽が超能力を発する度に唱えられる呪文なのであった。)写楽が繰り替えす呪文に呼応して、博物館に展示されていたホコは振動し、ガラスを破り、警備員を熔かして、吸い寄せられるように地面を這いずり始める。
その頃、和登サンは、犬持医師から写楽の秘密を聞いていた。写楽は犬持の実子ではないこと。生まれてすぐには、あの三つ目は無く、5〜6歳の頃に突然出現したこと。X線で調べると、あの三つ目は脳組織の一部であること。彼はミュータントというよりも、むしろ“先祖がえり”であると推定されること。そこへ急報が! 来来軒のコックが変死し(彼もホコに熔かされたのだ)、三つ目となった写楽がホコを持って逃げたという!
駆けつける犬持たちと和登サン。夜の街中で何か異様な機械(ガラクタ)を作っていた写楽は、地下道へ逃げ込み、そこで犬持たちと対峙する。このホコは、どうやったら敵を一瞬にして殺すことができるかが書かれている、ガイドブック。古代人が全滅戦争で使った物だったのだ。犬持は、言わば“気合い”で、写楽の三つ目にバンソウコウを貼り、事件を収拾する。
第一エピソードに引き続いて、いくつかの基本パターンが追加提示される。無辜の人命が容易に失われること。写楽のトレードマークとも言うべき“ホコ”の登場。同じくトレードマークとなる呪文。しかし特に重要なのは、写楽が(言わば無抵抗のまま)犬持にバンソウコウを貼られてしまったことである。犬持の養子である写楽は、犬持に危害を加えることが出来ないのだ。三つ目・写楽は、古代人の先祖がえりとして、現生人類とその文明を、紙のように軽んじ、多くの人命が失われてもなんとも思わないのだが、自分を育ててくれた恩人に対しては、“人情”が働いてしまうのだ。ここに、写楽の性格の、ある“矛盾”が現れており、それがこの作品に幅を与え、潤いをもたらしている。
そしてこの、写楽の矛盾した性格に(次第に)惹かれて行くのが、和登サンなのである。
酒船石奇談大病院の未熟児センター。コンピューターで集中制御・完全哺育されており、看護婦がほとんどいなくても、何十人もの未熟児を、無事に育て上げることが出来るのである。
ある夜、婦長が何者かに惨殺され、院長の元には、三つ目・写楽が現れた。この病院の中に、何かがいる。ぼくはそれと対決して、滅ぼす。そう告げて部屋を出て行くと、入れ替わりに(写楽を追って)入って来たのが和登サン。バンソウコウを貼り直さなければならないのだ。(偶然、バンソウコウを剥がされたとたん、何故かこの病院に飛び込んでしまったのである。)写楽を探しに出かけるふたり。
しかし彼らが宿直室で発見したのは、別の看護婦たちの死体であり、そしてふたりは病院内に閉じ込められてしまった。電話線も全て切られた。窓から脱出しようとすると、赤ん坊に襲われた。集中哺育室に駆けつけると、赤ん坊がひとりもいない! その瞬間、停電に! そして暗闇の中で彼らを襲う、小さい者たちの一群!
そこに写楽が現れ、彼の一喝で照明が戻る。そこにいたのは、何十人もの赤ん坊たちであった。彼らが看護婦たちを殺したのだ。赤ん坊の代表・ルミ子が挨拶する。生まれたばかりの未熟児なのに!
コンピューターである。哺育機を集中制御しているコンピューターが、赤ん坊たちを乗っ取ってしまったのだ。この病院内の大人たちを全員殺し、建物を掌握したら、ここを基点として全世界の子どもを操ってみせる..
そうはさせじと、写楽は例の呪文を唱え始める。あのホコを呼び寄せ、地下の制御室のコンピューターを破壊するためである。しかし、それに気が付いたルミ子は、写楽の額の目をバンソウコウでふさいでしまう。
幼児に戻った写楽は、ここまでの経緯を忘れて逃げ回り、和登サンは彼を追いかける。追いつ追われつするふたりが地下室に駆け込んだ時、そこでは(恐らく、独力でコンピューターを止めようとした)院長が、半殺しにされていた。そこに、壁を突き破って飛び込んで来たホコ! さきほどの呪文に、反応していたのだ。和登サンは素早く写楽のバンソウコウを剥がし、写楽はホコでコンピューターを破壊する! かくして、赤ん坊たちは元に戻り、事件は終わった。
愛くるしい赤ん坊たちが襲ってくる、というイメージは、悪くないし、コンピューターによる意識(と肉体)の乗っ取りというネタが古色蒼然としている点も、執筆年(1974年)を勘案しなければなるまい。とはいえ..例えコンピューターの制御下に入ったとしても、新生児が、大人の首を怪力で締め上げたり、ハイジャンプしたりすることは、出来ないと思うのだが..[;^J^]
寿命院邸の地下牢飛鳥地方への修学旅行である。石舞台。二面石。猿石。亀石。例によって級友たちにからかわれ、そそのかされた写楽は、無茶苦茶ないたずらを(重要文化財に)しでかし、腹を立てた住職にバンソウコウを剥がされてしまう。三つ目になった写楽は、その夜、宿舎を抜け出し、酒船石を密かに調べる。
翌朝、写楽は二面石を念力で割り、その内部に梵字で書かれた文書を読み、再び石を閉じる。そして酒船石へ。写楽は、彼を探しに来た和登サンに、酒船石の真の用法を教える。それは、魔薬の調合台! 人間をロボット化する薬を調合する道具だったのである。写楽は、二面石の内側に書かれていた処方に従って、17種類の材料を酒船石で混ぜ合わせる。薬が出来たら、旅館でテストだ。
「クラスのやつら、さんざんぼくをからかいやがった、そのおかえしさ」まさに(のちに自称するところの)「悪魔のプリンス」である。
「きみに最初にのませてもいいんだが、やめとこう。
きみにはいろいろと、せわンなってるからね。
それにボクはきみを愛してる」そして薬は完成する。和登サンは、旅館に帰る写楽のスキを突いて、バンソウコウを貼る。薬の瓶を落として壊してしまった写楽は、もう何も憶えていない..
人間を人間とも思わぬ写楽の、悪魔的な魅力が、ストレートに描かれている作品。
三角錐コネクション鹿児島の薩摩に、寿命院家という古い家柄の屋敷がある。家系は途絶え、もう百年間も空き家なのだが、その屋敷に残されていた巻き物に描かれている代々の当主は、みな三つ目なのである。これは写楽と何か関係があるのかも知れない。
今回の調査は、犬持の依頼である。敢えて写楽のバンソウコウを剥がして、彼に調べさせる。無論、危険だ。現場でサッと剥がし、調べが終わったらサッと貼る。そのためには(そういう器用なことが出来る、唯一の人間である)和登サンが同行しなければならない。写楽と和登サンに、来来軒のおやじ(ヒゲオヤジ)を加えた3人は、飛行機で鹿児島へ向かう。
立派な屋敷である。寿命院家は、代々薩摩藩の重臣だったが、何故か突然職を辞し、片田舎に引っ込んでしまったのだ。そしてその最後の代の当主の遺言に従って、百年間、屋敷が封じられていたのである。なぜ隠棲したのか? あるいは病気か?
その夜、和登サンは写楽を連れて、屋敷を探検する。不気味な壁画..それは三つ目の鬼である..やはり三つ目人と関係があるのか..? そして地下室へ..
そこには地下牢が。牢の中には額の中央に孔が穿たれた囚人のミイラが! そして壁には何かの文章が! 写楽の出番だ! 和登サンは、バンソウコウを剥がす!
写楽は解読を始める..
「われ当主二十三代、寿命院忠次なり
余 ここに専制主のために獄に朽ちなんとし
のちの世代に志ある者のため、これを残すものなり ……
アブトル・ダムラル・オムニス・ノムニス・ベル・エス・ホリマク
われとともにきたり われとともに滅ぶべし」不吉だ!
写楽は和登サンの制止を振り切って、さらに深い井戸の底に降りて行く。和登サンがヒゲオヤジと共に、写楽を追って井戸の底に降りてみると..そこには、寿命院家の宝物倉があった!
先に来ていた写楽は、そこにあった古文書の内容を、ふたりに説明する。それによると、寿命院家は代々三つ目であり、三百年前、忠次は、時の領主にここにある家宝を献上するよう迫られて、これを地の底に隠したのだ。
ジェット機の模型。爆弾。用途も判らぬ高度な機械群..そんな古い時代に、どうしてこんなものがあったのか? 犬持らに連絡して大学で調べてもらうべきだ、と、和登サンは進言するが、写楽は、これは三つ目一族の遺産だから、一族以外の誰にも触らせないのだ!と、例の呪文を唱えて、護衛人形を起動する!
剣や槍を突き出しながら迫り来る武者人形! 写楽の目を鏡で眩ませてバンソウコウを貼ると、武者人形は倒れ、火を吹く! 3人は命からがら地上へ脱出し、寿命院家の宝物は、その地下室と屋敷ごと炎上し、失われる..
このエピソードで初めて、古代超文明の遺産が、その片鱗を現す。また、謎の古代文明が、マヤなどに限らず、地球上の各地に存在していたことが、暗示される。但し、古代文明の遺産の造型は、護衛人形を除けば、大して面白くもファンタスティックでも無い。
ナゾの浮遊物怪しい3人組が中学校にやって来た頃、校舎の中では、例によって写楽が、授業中に無茶苦茶をしでかしていた。ほとんど匙を投げかている校長。いっそバンソウコウを剥がしてみたら?(その方が遥かに成績がいいのだから)と犬持に進言するのだが、犬持は、それは人類にとって危険極まりないことである、なんとか普通の子どもとして卒業させてやって欲しい、と、頼む。
帰宅途上の和登サンに、しつこく付きまとう、3人組のひとり。彼女は振り切って帰ろうとするのだが、古代史研究家を自称する彼は、マヤ、エジプト、イラク、中国、アフガニスタンなど、世界各地にあるピラミッドが、なぜ似たような形をしているのか?という研究内容を語り聞かせて和登サンの気をひき、研究の手助けに写楽を連れてくることを約束させる。
その夜、和登サンは嫌がる写楽を連れ出すと、バンソウコウを剥がし、3人組は用は済んだとばかりに、和登サンを麻酔で眠らせる。彼らの正体は、インド出身のピラミッドコネクション。いずれも額に聖なる三つ目の紋を入れていた。
この世から失われた神秘の力を復活させる行者を名乗る彼らは、シルクロードのバクトウラの遺跡から出てきた古代文字を、写楽に解読させる。その内容は..ピラミッドは、超古代人類が発明した、宇宙の精気を集める装置……置き方の法則さえ解ければ、誰でも宇宙の大いなる力を手に入れることができる、というものだった。
三つのピラミッド型を、ある三角形の頂点におくと、その中心に宇宙のエネルギーが吸い寄せられるのだ。
「おっそろしいちからかい?」
「宇宙にみなぎっているエネルギーだよ。星もうごかすし、爆発させることもできるだろうね」3人組は、写楽に地図上の一点を示し、そこを中心にするためのピラミッドの置き方を解かせると、気絶した和登サンを置き去りにして、実験にとりかかる。まずオリンピック公園。次に講談社の前。何を破壊するのか聞く写楽に、それはおまえのことを知りすぎている犬持博士の家だ!と、バンソウコウを貼ってしまうと、最後に練馬のガスタンクの前に、小型のピラミッドを置く。
しかし何事も起こらない。その頃、和登サンから、写楽がさらわれたという電話連絡を受けて飛び出した、犬持博士の車とすれ違った彼らは、ターゲットである犬持邸の前でバンソウコウを剥がして、写楽に詰め寄る。
「呪文を忘れてるよ……」。写楽は彼らを突き飛ばして駆け出すと同時に、叫ぶ!
「アブトル・ダムラル・オムニス・ノムニス・ベル・エス・ホリマク」その時、宇宙のエネルギーが矢の様に降下し、3人組と犬持邸を消滅させた! 爆発にあおられて気を失った写楽に、戻ってきた犬持と和登サンは手早くバンソウコウを貼り、いったい何事がおこったのか、と、驚き呆れる。バンソウコウを剥がして聞き出せば、事情は判るだろうが..やめておこう..
それにしても、この呪文は万能である。あらゆる古代文明が、この呪文をキーとしていた訳がなかろうに..とも思うが、同時に、あらゆるエピソードでこの呪文が繰り返されることの、まさに呪術的な効果も、認めなければなるまい。地図上でターゲットを示された写楽が、そこが犬持邸だと気が付かないのは、弁護のしようのない(作者の)見落とし。宇宙エネルギーのイメージは、明らかに「火の鳥」を想起させる。
ビバゴン現わる!凄まじい悪臭が、町を襲った。満潮で、何かが海から川に流れ込んできたのだ。そのぶよぶよとした大きな物体は、皮みたいな皮膚をして呼吸している……生き物だ!と連絡してきた調査班は、ガスマスクをしていたにも関わらず、悪臭にやられて全滅−−人事不省に陥ってしまった。
町中で、ただひとりだけ悪臭を感じず、マスクも必要とせず、深呼吸も食事も出来る人間がいる−−写楽である。彼を調査に差し向けるが、何しろバンソウコウを貼っているので、遊んでしまってほとんど役に立たない。が、なんとか切り取ってきた、その“生き物”の“皮膚”は、分析の結果、生物の皮膚とはほど遠く、どこか人工的なのである。いっそ爆破するか? いや、万一毒物だったら、被害が町じゅうに!
写楽の出番である。バンソウコウを剥がされた彼は、和登サンに(悪臭を防ぐために)月面探索用の宇宙服を着せて伴い、物体を調べ、肛門のような“入口”を発見して、そこから入って行く。
中に詰まっている、グチャグチャドロドロとしたものは、しかし内蔵ではなく、どうみてもただのヘドロ。これがガスを発して、物体の皮を内側から持ち上げ、呼吸をしているように見えたのである。
そのヘドロの中心には、三つ目の石像が沈んでいた。この物体(袋)は、三つ目の先祖が作ったものだったのである。石像の中から取り出した石版によると、これは三つ目人の作ったゴミ袋。現代の人類同様、ゴミ(廃棄物)問題を解決できなかった三つ目人たちは、強力な人工皮の袋を作って、海にどんどん捨てていったのである。この様な袋が、まだまだ無数に深海に沈んでいるのだ。長い年月の間に、少しずつ腐敗ガスがたまって浮き上がってきたのだ。
これを爆破したりすると、付近の住民は、全員中毒である。..という悪さを早速実行に移そうとする写楽に、和登サンはバンソウコウ。革袋は、重しをつけて沖に沈められた。
「三つ目がとおる」では、現生人類(文明)の愚かさ VS.古代文明の叡智というパターンが印象に残りやすいが、実は古代文明もなんらかの原因で破滅してしまったわけであり、むしろ“滅びに至る愚かしさ”という意味では、現代文明の先を行っているのである。この小品は、古代人の愚行を描いた作例。(それは無論、現代のゴミ問題の風刺に通ずるのだが。)
蛇足だが、吾妻ひでおにリメイクさせてみたい作品である。[;^J^]
雪男出現す! 身の丈3メートルで毛むくじゃら! 猟師の目撃談の信憑性は高く、スキー客にはスキー禁止令が出る。
スキーに来ていた写楽と和登サン。雪男の存在を信ずる和登サンは、そんなものを馬鹿にする不良グループと口論になり、強引に賭けをさせられる。今回目撃された怪物が雪男でなかったら、彼らとキスをしなければならないのだ。
名誉と人権を賭けて調査を始める和登サン。目撃した猟師によると、この秋に同じ場所で猟犬が怪物に殴り殺され、首をもがれていた。その場に残されていた足跡は熊に似ていたことから、怪物の正体は熊かと思っていたが、今日見た怪物は、決して熊ではない。何か得体の知れないものである..
翌朝、和登サンは、三つ目になってちょっとした小道具を作った写楽と共に、現場へ向かう。雪は次第にすごい降りになり、先が全然見えなくなって来た。そして目撃された地点についた時..
いた! 明らかに熊ではない、しかし人間でもない、異様な姿の巨人である! それは吹雪の中に立ったまま、じっとこちらを見据えている。写楽の武器が火を吹く! 熱風ドライヤーである。雪の化け物ならば、これで溶けてしまえ!
それは見る見る溶けて小さくなり..草や苔に覆われた、ただの岩が残った。これが雪男の正体だったのである。岩のくぼみで雪が吹きだまって顔のようなものが出来、草が風になびいて、毛のように見える。吹雪の中で遠くからみると、完全に生き物に見えるのだ。一面の銀世界の中で、心理的恐怖感から大きさを見誤り、3メートルもの怪物に見えたのである。
しかし、猟犬の首を叩き落とした怪物は? それにあの足跡は?
岩の下に隙間があった。そこには..熊の親子が冬眠をしていた。猟犬を殺し、足跡を残したのは、この熊だったのである。
謎は解けた。雪男はいなかったのだ。しかしこれで和登サンは、不良グループにキスをさせる羽目になってしまったが..写楽の作ったダミーの和登サンを不良にあてがい、人形の首を彼の顔に食いつかせて切り抜けた。あの雪男の正体は..熊の親子が春になって目覚めるまで、誰にも言うまい..
このシリーズは、SF的推理ドラマになるはずだった。(シャーロック・ホームズとワトスンが主役であるし。)写楽がこれといった悪事 [;^J^] も働かずに、和登サンと共に超常現象の謎を解く、この佳作は、その、当初の構想を想わせる。
(文中、引用は本書より)
Last Updated: Mar 23 1997
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