三つ目がとおる 3

*モア編 第1章 妖怪鳥

 今日は、猪鹿中の臨海合宿遠泳大会の日。(幼児モードの)写楽はズルをしたのがばれて、砂浜に埋められる。その背後から近づく巨大な影−−怪鳥だ! それは、風船が脹らむような奇妙な音をたてると、次の瞬間、ロケットのように飛び去って行った。

 「金狼会」(学校を締めている、スポーツ軍国主義の生徒自治会)の先輩たちが、埋められている写楽に、ヤキを入れに来る。彼らはそこに、恐竜のような巨大な足跡を見つけるが、写楽の証言(“怪鳥がロケットのように飛んでいった!”)は頭から問題にせず、逆に、嘘つきとして、さんざんなリンチにかけ、さらに首にロープをつけて舟につなぎ、遠泳を全うさせるべく、海に放りこむ。

 ロープが切れて漂流する写楽の前に、再びあの巨鳥が現われ、彼をくわえると、尻を大きく脹らませロケットのごとくガスを噴射して海上を飛び、小さな島(というか岩)に着地する。そして写楽を岩の頂上の巣の中に押し込むと、彼を置き去りにして飛び去ってしまった。

 そこには巨大な卵があった。ほどなくして雛が生まれると、写楽が母親としてインプリンティングされる(これは、お約束である)。ボートで捜索に来た先輩たちは、写楽を見つけ、陸地に連れ戻す。ここでもうひとシゴキあるところだが、もはや先輩連もシゴキ疲れの局面である。

 不思議な幼鳥を連れて、臨海学校から帰ってきた写楽は、和登サンの実家(寺である)に遊びに行く。彼女も最初は彼の話を全く信用していなかったが、本で調べて、写楽の出会った鳥は、既に絶滅した“モア”ではないかと、推測する。

“ニュージーランドに400年前ぐらいまでいた、6〜7メートルもある、羽の退化した巨大鳥。
 モアがほろびたのは現地人たちがさかんにつかまえて肉をたべたからだといわれている”

 しかし本にも、おしりからガスを吹き出して飛ぶなどとは書かれていないのだが..この幼鳥こそが、唯一の証拠だ。これを大事に育ててモアの成鳥になれば..世界が驚く!

 その時、背後に迫る、黒装束で顔に刺青を入れた殺し屋の影! 彼の狙いは写楽でも和登サンでもなく、鳥であった。果敢に抵抗する写楽を蹴散らして、彼はモアの幼鳥が逃げ込んだ巣に何発か撃ち込んで、去っていく。

 ホテルからメキシコの“将軍”へ、「モアの親鳥と、最後の雛を殺した」と報告する殺し屋。彼の名はケツアルという。“将軍”は、彼の報告から、その場に写楽がいたことを知ると、危険人物の写楽も殺せ、と、命令する。

 死にかけているモアを救うべく、和登サンは、泣きわめいている写楽のバンソウコウを剥がす。(写楽のバンソウコウを“無理なく”剥がすためには、ラーメンの油(あるいは食用油)が必要なのだ。)三つ目に戻った写楽は、ただちに秘薬を調合し、モアの治療にとりかかる。(客観的には、モアの料理を作っているようにしか見えないが。)

 モアの親鳥は、何故、写楽に雛を押し付けたのか? 恐らく、もうじき自分が死ぬことを、予感したのだろう。モアの親鳥は、もう死んでいるのではないだろうか..?

 既に夜になっている。和登サンの実家の寺の境内の森の中を、出口まで降りていくふたり..

「坂をおりたら、ひとまずキミにバンソウコウをはるわよ」
「おとうさんの手前、しかたねえやな」

 おとうさんとは、写楽の養父の犬持医師のことである。つまり、三つ目の写楽は、自分の知力と能力が、非常時以外は封じられていることを、承認していることになる。

 その時、写楽を赤外線スコープで狙って襲う、殺し屋・ケツアル! 写楽の第三の目は闇を透視してケツアルの車を発見し、ケツアルはケツアルで、写楽が三つ目小僧であることに仰天する。写楽とケツアルの、森の中での闘い。写楽は念力で木の枝を折り、石降り現象で攻めたてるが、ケツアルの弾は写楽の額を捉え、写楽は血まみれになって倒れる。ケツアルは(迂闊にも)とどめをささずに去り、間一髪、オーラで弾をそらして、致命傷は免れていた写楽は、息を吹き返す(が、すぐに気絶する)。

 犬持医院で手当てを受け、バンソウコウを貼られる写楽。犬持医師は、バンソウコウを剥がした和登サンに、小言。殺し屋の話も、どこぞのチンピラをからかって酷い目にあったんだろう、と、取り合わない。彼は、写楽の危険な能力を案じ、ただただ写楽が平凡に幸せに育ってくれることを願う、常識人なのだ。それに対して、彼の盟友、須武田博士のスタンスは違う。古代史研究家の彼は、写楽の能力と前世の記憶を、むしろ積極的に活用し、人類と学問のために役立てようという意見の持ち主である。彼は、殺し屋の“ケツアル”という名は、メキシコのインディオのある部族の言葉・ナワトル語であると、喝破する。

 モアは、犬持医院の庭で飼われることになった。一ヶ月の間に急成長したモアには、何故か、小銭やビールの蓋を飲んでは、糞と一緒に出して巣の中にため込む習性があった..

 快調な滑り出しである。正直なところ、尻からガスを噴射して空を飛ぶ、というのは、あまりにも漫画的に荒唐無稽で、釈然としない。いや、荒唐無稽なこと自体が、悪いはずはないのだが(これは漫画なのだから!)、ちょっとファンタスティックな思い付きとは言いがたいところに、引っ掛かるのである。それはそれとして、漫画で何よりも大切な“キャラクター”は、しっかりと“立って”いる。

*モア編 第2章 モアのふるさと

 洋上で、とあるタンカーが、例のニューネッシーの死骸とそっくりな、腐乱死体を引き上げた。(この大騒ぎは、もう20年以上も前のことであったか..正体は鮫..だったかな?)これはニューネッシーとは異なり、嘴があり、また脚の形状からも、明らかに巨大な鳥の死骸であった。そして腐敗した臓物の中からは、メキシコの小銭が発見されたのである..

 夜。犬持医師の別荘に、須武田博士が、親戚の須武田行佐(ぎょうざ)青年を伴ってやってきた。行佐青年は動物学者である。この別荘から、さらに深い谷を越えた山奥に、大きな檻。そこに、巨鳥に成長したモアがいた。行佐青年は、モアの調査に来たのだ。

 試しにメキシコの貨幣を与えてみると、これを飲んでしまう。これで、海で発見された巨鳥の死骸と、同じ種類の鳥と推測出来る。あるいはあれは、写楽の話に出て来た、モアの親鳥ではあるまいか?

 夏休みを利用して、ここでモアに付ききりで世話をしている写楽。モアも写楽に、なついている。モアの親鳥が死んだことを写楽に告げ、モアを調べさせてくれ、メキシコに連れて行こう、と口説く行佐を、けんもほろろに追い返す写楽。モアが連れていかれたら、もう帰ってこない、と、思い込んでいるからである。その夜、モアは尻(正確には、尾の付け根の袋のようなもの)にガスをためて、ロケットのように飛ぶことを覚える。このままでは、人目に付く、一刻も早くメキシコに運ぶべきだ、と、主張する行佐。

 彼はモアの餌に睡眠薬を投入して眠らせる。その脚には、写楽が自分を縛り付けていた。連れていかれることを予感していたからだ。(このシーンは、泣かせる。)それはそれとして、行佐はモアをコンテナに運び込む。一方的な行佐のやり方に、むくれる犬持。

 メキシコへ向かう飛行機。犬持医師、須武田博士、行佐、むくれている写楽。貨物室には、モア。彼ら一行を尾行する、不審な二人組。行佐はその二人組と、意味ありげに視線を交わす。

 メキシコ空港での検疫は、行佐の賄賂でパスするも、荷作りされたままのモアが暴れだし、慌てて車に押し込んで、行佐の研究所へ運びだす。彼らを尾行するのは、例の二人組..

*モア編 第3章 メキシコシティを行く

 行佐の研究所に到着し、モアはガラスの中の頑丈な檻に閉じ込められてしまう。約束が違う!と怒りわめく写楽は、隙をついて、モアともども、大空へ脱出する。追跡する行佐の車には、例の二人組が乗り込み、行佐は彼らに、銃の用意をさせる。

*モア編 第4章 和登さんだ!!

 森の中に着地した、モアと写楽。写楽は早くもホームシックにかかっている。和登サンに会いたいなぁ..その時目の前に、和登サンが! いや、和登サンのわけがなく、彼女にそっくりな少女なのだ。モアを見て仰天した少女は、村の中へ逃げ込み、彼女を追って来た写楽は、ペペという飲んだくれに捕えられる。少女はペペの娘だったのだ。彼女の名は、セリーナ。

 写楽が森の中に隠して来たモアの居所を、吐かせようと痛めつける、ペペ。あの鳥の居所を通報すれば、ケツアルから大金を貰えるからである。ペペの連絡でケツアルが来た。写楽も殺されると知ったセリーナは、彼を逃がし、写楽はモアと共に空へ! ペペとケツアルはセスナで追う!

*モア編 第5章 逃避行

 モアとセスナの空中戦! ライフルを持つセスナの方が一方的に有利なはずだが、モアはジャングルの中に降りては地面を走り、意外なところから飛び上がって来るなど、起動性ではセスナに優るのだ。スコールの雲の中、セスナは撃墜され(というか、ライフルの乱射で自爆したようなものだが)、ケツアルはジャングルの中へ脱出、写楽とモアはペペを救出する。

 息を吹き返したペペは、写楽の優しさに感激して、写楽とモアを隠れ場所へ案内する。(モアの足跡を追跡してくる、ケツアル。)隠れ場所とは、ペペしか知らぬ遺跡であった。メキシコの奥地には、このような未知の古代遺跡が、まだ一千箇所以上もあるのだという。

 ピラミッドの頂上の穴から、内部に降りた一行。ペペは、古代の壁画に、モアそっくりの鳥が描かれているのを写楽に見せ、この鳥が滅びた理由を語りだす。

 この鳥は、トルテカ人という古代民族に飼われていたのである。何故、金や銀などを飲み込む性質があるのか? そのようにしつけられたからだ。トルテカ人は、この鳥を金の輸送に使っていたのである。金を飲み込ませて飛ばせ、行き先で無理に金を吐き出させるか、殺して取り出した。トルテカ人の都が滅びる時、彼らは、ありったけの財宝を鳥に飲み込ませて、どこかへ運んだのだ。そして鳥は、一匹残らず殺され、その鳥の子孫だけが、財宝のありかをかぎ出す能力があるのだ。(では、何故モアの命を狙うのか? モアに財宝のありかを探らせるべきではないのか? この時点では、まだ謎は解明されていない。)

 そこに、尾行してきたケツアルが現われた。ケツアルと写楽の、これが何度目になるのかそろそろ数えきれない、対決である。

 ケツアルはペペを撃ち、写楽とモアがいるピラミッドの中に、燃える枝を放り込んで煙責めにする。モアのガスでペペを階段の下まで吹き飛ばす写楽。モアはお尻がつかえて、穴から出られない。銃が壊れて使えないペペは、ナイフで写楽を追い詰めるが、はずみで石の間に挟まって、身動き出来なくなってしまう。

 瀕死のペペは、ひとりぼっちになるセリーナをよろしく頼む、と、写楽に言い残して、死ぬ。そしてピラミッドの内部の火でいぶされたモアは、下半身に大火傷を負いながら、半死半生で脱出する。

*モア編 第6章 月夜にとぶ影

 モアは動けない。なすすべのない写楽は、「ラーメンの油を探す」。つまり、バンソウコウを貼った写楽は、三つ目の時の能力や知力や記憶を、完全に忘れている訳ではないことになる。彼は、モアを救うためには、自分のバンソウコウを剥がさなければならないことを、知っているのだ。

 写楽は、石に挟まれて身動きできないケツアルを責め立てて、油の作り方を聞き出す。しげみの中のナバの木の実を潰せばいいのである。

 油を作った写楽は、自らバンソウコウを剥がして知力を取り戻すと、原始プリスペラタボルーナ人が薬を作った方法で、植物を天日に干してエキスを絞り出して、モアの火傷に塗る。十二時間で皮膚が出来て来るはずだ。あとは気長に待つだけである。

 その間に、ケツアルも、ようやく石の間から脱出することに成功し、銃の修理を開始する。

 夜。ピラミッドにかかる満月。ケツアルが銃を持ってピラミッドの階段を上がって来たことを察したモアは、間一髪、写楽をくわえて脱出する!

 村で満月を見つめているセリーナ。写楽のことが、何故か気になって仕方がないのだ。無事に逃げたかしら..

 そこに颯爽とあらわれたるが、悪魔のプリンス・三つ目の写楽! 黒いチャロにソンブレロ(スーパーマーケットでかっぱらってきた)。気取って葉巻に火を着けるが、涙を流してむせる。父が死んだとセリーナに告げ、泣き崩れる彼女に、よろしく頼まれたぜ、一緒にきな、可愛がってやるから。セリーナは怒る(当たり前である)。

「ガハハハハ、おれも悪魔のプリンスといわれた男だ。おれの悪名は死んでなお歴史に残るだろう。おまえがおれの女なら、おまえの名も残る…… おまえのタメにいってるんだ」

とかなんとかケムに巻いて、写楽はセリーナを強引にモアに乗せ、飛翔する。財宝を探しに行くために!

 執念深いケツアルが、いい。そして物語のベクトルは、財宝争奪戦へと向かう。秘境での宝探しこそ、少年冒険浪漫の王道である。


*手塚治虫漫画全集 103

(文中、引用は本書より)


MASK 倉田わたるのミクロコスモスへの扉
Last Updated: Aug 13 1996 
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