ぼくの孫悟空 7

*第7巻 第1章 かげろう大王

 さて次に現われたるは、陰霧山の南山大王。カラスたちを従えた、ケムリを吐く魔物である。大王の吐き出す黒いガスは幻影を生み出し、また風船となって、三蔵と沙悟浄をさらっていってしまう。悟空は八戒を扇風機に化けさせて、ケムリを吹き飛ばし、大王の吐き出すケムリを全部吸い込むと、逆に大王の腹に吹き込み戻し、空の彼方まで飛ばしてしまう。

 さほど印象的なエピソードではない。強いて言えば、水玉模様の大王に、悟空がガスを吹き込んで風船のように膨らませるシーンが、数年後の鉄腕アトムの「宇宙ヒョウの巻」の中の一シーンを、想起させるところがある。

*第7巻 第2章 ヒヤリ仙人の不良生徒

 雪山の中、八戒のクシャミで雪崩が起こり、三蔵が生き埋めになってしまう。探しあぐねた悟空たちは、このあたりの山の神=ヒヤリ仙人の手を借りに行くが、その間に雪の下から現われた魔物が、三蔵を掘り出して連れ去ってしまう。

 ヒヤリ仙人は、魔物の学校で術を教えていた。ヒヤリ仙人を雪崩の現場に連れてきた悟空たちは、三蔵が魔物にさらわれたこと、その魔物はヒヤリ仙人がこの地に埋めて封じた不良生徒、手強い術を持つ火輪童子であることを知る。足跡を追跡した悟空は童子に追い付き、戦う。童子の武器は火の輪であり、悟空を締め付け悩ませるが、変身合戦で悟空にかなうものではない。懲らしめられた童子はチビのムササビの本体を現わし、改心する。

 ..と、いつもならここで、めでたしめでたしで終るところであるが、本章にはちょっとしたエピローグがつく。悟空に心酔したムササビは一行を追ってきて、悟空の押し掛け弟子となる。家来を持った悟空はいい気分で大威張り。そこに魔物に化けたお釈迦様が現われ、悟空を一撃で叩きのめし、ムササビは仙人の元に帰る。恥じ入って首うなだれる御空。

 どちらかと言えば平凡な冒険譚が、この取ってつけたようなエピローグで、ぐっと引き締まった。

*第7巻 第3章 五霊元聖

 花畑ではしゃぐ一行。ところが(一行の目の届かぬ)遠方に、一匹の蜥蜴のごとき化け物が現われる直前、突然花が枯れ、化け物が人間に姿を変えて歩き去ったのち、花が生気を取り戻すのであった。この化け物の出現シーンの妖気は、なかなかのものである。

 一行はとことん寂びれた汚い村に着き、この不思議な出来事の訳を聞く。古老によると、五象渓の五霊元聖という醜い化け物が、美しいものを妬むあまり、このあたりの一切のものを、みな醜くしてしまったのである。鳥も、蝶も、娘も、花も、そしてこの桃花村と呼ばれた美しい村も。

「ウーム、ではさっき花がかれたのは…」
「花までがばけものがくると、わざとかれたふりをするようになったのでごんす」

 これは結構恐い。つまり、化け物に枯らされたのではなかったのである。

 悟空たちは化け物を退治するために、美しいものに化ける。即ち悟空は美しい娘に、八戒は美しいブタに、沙悟浄は美しい南洋人に。そして人間に化けてやって来た化け物を遠くに連れ去るが、これが贋物。その間に三蔵の元に現われた化け物は、三蔵を蟇蛙のごとく醜くしようとするが、どういうわけか魔力が効かない。五象渓に三蔵を連れ去り、眷族(どうやら蟇蛙の一族らしい)と計って、三蔵を地獄火で焼いて醜くしようとするが、やはり火の方で三蔵を避けてしまい、焼くことが出来ない。思い余って殺そうとしたところに、魔物より醜い姿に化けた悟空たちが現われ、(自分より醜いものの出現に)喜び油断した魔物を退治する。といっても殺したわけではなく、馬(もともとは東海竜王の娘)の起こした龍巻で、天空まで吹き上げたのである。そこで心を入れ替えるであろうと。(つまり作者は、この魔物たちに対して同情的なのである。)

 さて、三蔵に魔力が効かなかった理由であるが、

「おまえたちのおかげだよ。おまえたちがわしのことをほんとに心配してくれた。その美しい心がわしのからだにつうじて、さすがのばけものもみにくくできなかったのじゃ。ありがとよ………ほんとに……」

 ..全然納得いかんが([;^J^] こんなことで助かる位なら、これまでにも..)、五霊元聖の出現シーンの迫力と、彼のパーソナリティに免じて、許す。[;^J^]

*第7巻 第4章 平妖殿の七ふしぎ

 一行は、凍り付いた滝の中で、一人の和尚がありがたいお経を唱えているところに通りかかった。和尚の名はタマゴ和尚、唱えていたのは般若心経。是非とも伝授してくれと頼む三蔵に、タマゴ和尚は、もとは自分の家であった平妖殿へ行って、そこの七ふしぎをなくしてみろ、と、条件を出す。平妖殿に向かう一行。

 第一のふしぎは「暗夢怪」。三蔵は暗闇を抜けたところで顔(首)のない裁判官たちに殺人罪で告発され、絞首台に。悟空に救われて、第二のふしぎ「蛸頭花」の園へ向かう。花園の中に文字どおり蛸の頭の花があり、それに食いつかれた三蔵は、女性になってしまう。そこに現われたる第四のふしぎ「呑具鐘」。鐘の化身の大入道は悟空を鐘に閉じこめ、三蔵を伍一族の元にさらってゆく。

 脱出出来ない悟空に代わって救出に向かった八戒は、第三のふしぎ「混沌菩薩」に掴まって足留めを食らうが、千手観音のごとき菩薩の手を絡ませてあしらい、第六のふしぎ「震天五輪塔」へ。ここが伍一族の本拠地であって、五百年もの間、白骨庵(第五のふしぎ)の白一族とにらみあっているのである。白一族の味方についた陰風婆(第七のふしぎ)が、三蔵を男に戻す方法を知っていることを知った八戒は、三蔵を元気づけてから、蝶に化けて脱出する。

「なんとか聞きだしてきます」
「たのむわよ」

 既になかなか色っぽいのである。[;^J^]

 白骨庵に乗り込んだ八戒は、実験動物として人工衛星に乗せられてしまう。その頃ようやく、沙悟浄の手助けで鐘から脱出できた悟空は、人工衛星を壊して八戒を救出し、逆に陰風婆をこらしめて三蔵を元に戻す薬を奪う。震天五輪塔で大暴れして伍一族(狐の眷族)を退治して、三蔵を救い出した悟空たちは、呑具鐘の正体がタマゴ和尚であったことを知る。実はこれら全ての魔物たちは和尚の家来であり、和尚が法術で三蔵たちを試していたのであった。良く戦った褒美に、タマゴ和尚は三蔵に、般若心経をさずける。和尚の正体は弥勒であった。

 勢い込んで般若心経を紐解く一行。しかしそれは白紙であった。三蔵には読めるような気がし、悟空にも少しはわかる。しかし八戒と沙悟浄には、チンプンカンプンなのであった。

 囚われの三蔵(女性)の色気 [;^J^] が、印象的である。またこれは多分私の思い過ごしだが、「暗夢怪」の判事たちのシーンは、どこか「オルフェ」(ジャン・コクトー)を想わせる。


*手塚治虫漫画全集 18

(文中、引用は本書より)


MASK 倉田わたるのミクロコスモスへの扉
Last Updated: Jun 5 1996 
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