ぼくの孫悟空 6

*第6巻 第1章 九つ頭のしし魔神

 ここで作者が登場する。いきなり逆さ火焙りにされている三蔵が作者を呼ぶと、手塚治虫が現われて妖怪を消しゴムで消してしまい、楽な旅じゃないか、悟空や八戒が助けてくれるんだから、なんなら俺が三蔵と代わってやるよ、と軽口を叩く−−ここまでが、作者の初夢。正月早々変な夢を見たもんだと頭をひねる手塚治虫を訪れたのが、三蔵法師。作者は夢の中の約束通り、三蔵の袈裟を着せられて、天竺への旅に発たせられてしまう。

 さて一行が辿りついた村はノネズミに荒らされて食糧がなく、村人たちは八戒を食わせろと迫る。時間稼ぎに八戒を与え、彼が調理される前に代わりの食糧を探す、悟空と沙悟浄。土地の神に問い質したところ、この災厄の原因は金鼻夫人で、天の神の燭台を持っており、このために土地の神も手も足もでないのである。村人たちに食われそうになった八戒は、間一髪、ノネズミの化身の盗賊たちにさらわれるが、悟空たちに救出される。

 一方、古寺で待機していた三蔵=手塚治虫は、悟空たちに化けた金鼻夫人の手先に騙されて、金鼻夫人の本拠地、陥空山に誘拐され、逆さ火焙りにされる。(本章の冒頭のシーンである。手塚治虫の軽口どおり、三蔵と入れ代わったわけだ。)婿になるか食われるか、と迫る、金鼻夫人。そこにやって来たのが、九つの獅子の頭を持つ「九つ頭のしし魔神」である。金鼻夫人が三蔵との縁組みを焦っていたのは、しし魔神に婿入りを迫られていたからであった。婿になるとの三蔵の約束を取り付けた金鼻夫人は、しし魔神を追い返す。

 しし魔神の手下に化けて潜入した悟空たち。悟空は燭台の威力に手も足も出ずに退却するが、八戒と沙悟浄は倉庫の中で燭台を破壊することに成功する。切り札を失った金鼻夫人は、巨大なノネズミの正体を現わし、三蔵を人質に取る。一方、金鼻夫人にあしらわれたしし魔神は、夫人が燭台を失ったという情報を得て、意趣返しにやってくる。

 その頃、悟空は天界で、燭台の持ち主を探していた。本来の持ち主は理天王で、その息子の那叱大使が悟空と共に下界に下り、金鼻夫人を懲らしめる。三蔵=手塚治虫は救出されるが、一息つく間もなく、しし魔神にさらわれ、(本物の)三蔵の助けを呼び求める。ここで本物がコマをめくって現われて、天竺には楽に行けるものではないのだ、と、作者を諭して、入れ代わる。手塚治虫はここで目を覚まし、張り切って漫画を書きつづけるのである。

 三蔵がさらわれたことを知った悟空たちは、ジェット戦闘機に化けた悟空に乗って、しし魔神の本拠地へ向かう。そこは無数の大砲に守られた要塞であり、よっぱらいだまの集中砲撃を浴びて、八戒と沙悟浄は脱落。悟空は要塞への潜入に成功するも、9つに分身したしし魔王相手には、分が悪い。馬が金鼻夫人に化けて入り込み、9つの頭を仲違いさせて、そのすきに三蔵を救出しようとするが、これも見破られる。そこで八戒は異様な形態の人工衛星に、沙悟浄はそれを操る仙人に化けて、これに興味を示した、しし魔王の手下たちを騙してアフリカの地に連れ去り(「それからアフリカにはししが多くなったということです」)、悟空は髪の毛の術で無数の分身を作って、しし魔王の9つの分身と戦う。金箍児(きんこじ。金輪)を締める呪文をしし魔王に知られてピンチに陥るが、間一髪、アフリカから帰還した八戒と沙悟浄が、しし魔王にとどめを刺す。

 (ギャグ)漫画の定型のひとつである、作者の作品世界への介入(登場)が、ここで初めて扱われている。この折角の趣向が存分に生かされているとは言えないし、それは前半で終わってしまうこと、さらに金鼻夫人のエピソードとしし魔王のエピソードに分裂していることなど、悪く言えば支離滅裂なのであるが、むしろ“内容豊か”に感じられる。多分、作者は先のことをあまり考えずに書いているのだろうと思うが、良い意味で破天荒である。後半に出て来るジェット機、要塞、人工衛星の、不思議にアナクロなメカ感覚や、八戒、沙悟浄もしっかりと活躍している点など、見所も多い。

*第6巻 第2章 泥蓮洞のかたきうち

 三蔵法師一行は、森の中で、実に情けないというか可愛いというかひょうきんな、二匹の化け物に襲われる。いや実は悟空が先手を取って襲ったのだが。[;^J^] 正体を現わして見れば、まだ子供である。親が泥蓮洞の大王に殺された、その敵討ちのために、毎日術を練習していたのであった。意気に感じた悟空は、彼らに術を教えるために、七日間、三蔵たちと別行動を取ることにする。

 悟空と別れた一行は、さっそく泥蓮洞の大王に騙されて捉えられ、調理されてしまう。化け物の仲間を饗宴に招待する大王。その使者をとらえた悟空は、かたきに近づくチャンスだと、二人に大王の化け物仲間の姿に化けさせ、泥蓮洞に乗り込む。二人の正体は、いったんは大王に見抜かれるが、悟空の芝居(わざと彼らに殺されたふりをした)で切り抜け、酔いつぶれた大王を、悟空の力を借りずに見事に二人だけで討ち取る。

 後味は良いのだが、三蔵たちは、いい面の皮である。[;^J^]

*第6巻 第3章 泥棒十二人組

 十二人組の盗賊がちょっかいを出してくるが、もちろん、悟空になんなくぶちのめされる。なおも痛めつけようとする悟空を制止する三蔵。相手は化け物ではなく人間なのだから、みだりに怪我をさせたり殺したりしてはいけない、改心させてよい人にならせるのが道であると。(正論である。)

 盗賊どもは(三蔵についていくと、金目のものにありつけそうなので)頭を剃り、改心した振りをして、同行を申し出る。悟空は彼らの欺瞞を見破るが、三蔵は悟空の進言を聞き入れない。(にわか坊主の)盗賊を引き連れた三蔵一行は、黄金の大仏をまつっている寺に泊まる。盗賊たちの奸計を見抜いた悟空は、大仏をコールタールまみれにして彼らの裏をかくが、三蔵は罰当たりな行為を怒り、悟空は聞く耳もたぬ三蔵に愛想をつかして、八戒と沙悟浄を引き連れて出奔してしまう。

 大王として古巣に戻った悟空は、しかし心虚しく、結局、三蔵が心配で舞い戻って来る。八戒、沙悟浄も同様である。その時既に三蔵は、黄金の大仏を分解して盗み去った盗賊たちの罪をかぶって、生き埋めにされていた。逃げる盗賊たちから大仏のパーツを奪いかえす、悟空たち。しかし彼らに懲らしめの一撃を食らわす悟空は、観音からの「あのままでは彼らは改心しませんよ」という声を聞いて、盗賊たちの傷の手当をしてやるのである。

 寺に戻った悟空たちは、大車輪で大仏を復元し、三蔵を救出する。悟空に会わせる顔がないと恥じ入る三蔵に、悟空は、是非とも天竺までお供をさせて下さいと頭を下げ、師弟は和解する。

 三蔵法師の人間的な弱さと情けなさ、及びその裏返しの、人間ならではの魅力が、のびのびと描かれているエピソードである。


*手塚治虫漫画全集 17

(文中、引用は本書より)


MASK 倉田わたるのミクロコスモスへの扉
Last Updated: Jun 3 1996 
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