ぼくの孫悟空 3

*第3巻 第1章 バケモノにも友情あり

 金角大王と銀角大王の話である。名を呼ばれ返事をすると、それに吸いこまれる瓢箪に、閉じ込められた悟空。ハムシに化けて脱出し、計略を用いて、金角と銀角を逆に瓢箪に吸い込む。ここでは金角と銀角の友情に焦点が合わされており、それ故、二人は許される。

*第3巻 第2章 馬とブタは冷凍肉にもってこい

 寒波に襲われる一行。無論、妖怪のしわざである。三蔵の袈裟を着ていることから三蔵と間違われた沙悟浄は、氷の妖怪に氷づけにされる。サンタクロースに化けて救出に向かった八戒は、例によって失敗し、悟空は大日如来を連れてきて、氷を溶かす。

*第3巻 第3章 バケネコと鬼は日本の名物

 もっとも破天荒で、豊かな漫画的幻想に満ち溢れたエピソードである。ちょっと詳しく粗筋を紹介しよう。

 とある町で、三蔵は間違えて「渡辺三蔵」の堺行きの船に、ひとり乗ってしまい、悟空たちとはぐれる。早速追跡する一行だが、彼らは、船に乗っている徳の高い豊年和尚に睨まれると、術がきかなくなる。

 日本上陸。まずしい姉弟の敵討ちの助太刀をした一行は、家老?に認められて城に向かう。殿様が妖怪に悩まされているので、助けて欲しいと。実は一足先に三蔵が、同じ城に招かれて、殿からじきじきに依頼を受けていたが、様子がおかしい。影を見ると正体は物の怪である。物の怪の罠にかかって追い回される悟空たち。三蔵に憑いたのは化け猫らしい。酒入りの油で化け猫を騙して捕えたが、八戒と沙悟浄の油断につけこまれ、逃げられる。

 一方、城では、言葉の行き違いから、殿の御前で悟空と猿飛佐助が術比べをすることになる。(猿同士である。)相性の悪い豊年和尚が、悟空には邪魔である。そうこうしているうちに、化け猫が三蔵をさらう。追跡する悟空は、とある島に辿りついたが、そこにいたのは桃太郎。そう、ここは鬼ヶ島。

「桃太郎くん、ぼくもきみに手伝って鬼タイジをしてやるよ」
「うれしいな。これで犬とサルがそろった」

 犬というのは、桃太郎の家来(飼犬)のボケのことである。悟空も犬は苦手なのであった。馬はキジに化けて、一角鬼の同行を偵察に。

 化け猫にさらわれてきた三蔵は、化け猫の婿になるか、一角鬼のエサになるかの瀬戸際である。攻め込む桃太郎軍。一角鬼は、毛の抜ける灰(核兵器の死の灰の比喩か?)で、悟空らを撃退。悟空らは観音の使いから毛生え薬を買う。一方、一角鬼たちは、戦勝の酒盛りである。

「鬼が桃太郎に勝ったのははじめてだ。さあどんどんのめ。ワハハ」

 再度攻め入る桃太郎軍。化け猫と悟空は変身合戦を繰り広げ、ついに化け猫と一角鬼を退治する。無事に中国へ出港する一行。(この間ずっと、八戒と沙悟浄は、カモメに化けて隠れていたのであった。)

 一切の脈絡なしに、猿飛佐助や桃太郎が出て来るところが、まことに痛快である。このあたりの呼吸は、西遊記本来の属性でもある豪快な変身合戦と共に、古い漫画の伝統を、のびのびと継承していると言える。

*第3巻 第4章 坊主ができるのは坊主めくり

 坊主に化けた八戒と沙悟浄は、ノラ坊主狩りに引っ掛かる。この国では坊主は奴隷なのである。日照りに襲われた時、国じゅうの坊主に雨乞いさせても効果がなかったのに、よその国からやってきた、羊力仙人、虎力仙人、鹿力仙人の3仙人が、すぐに雨を降らせたので、すっかり王の信用を失なったのであった。

 3人の鼻をあかすために、三蔵に雨乞い合戦?を挑ませる悟空。実は3仙人は、雲の上の雷たちとグルで、八百長で雨を降らせていたのであった。雷を脅迫して言うことを聞かせる悟空。(同類である。[;^J^])三蔵の祈祷に応えて台風を呼び、景気良く雨を降らせる雷のジャズバンドのシーンは、最高に素晴らしい! ページをめくると無茶苦茶な豪雨のシーンとなるのだが、この場面転換の呼吸が実に見事。このワクワクするようなリズム感こそ、漫画の命である!

 顔を潰された3仙人は、三蔵に術比べを挑む。悟空の助けで切り抜ける三蔵。実は3仙人は、羊、虎、鹿の化身なのであった。羊と虎は術比べで落命し、鹿は捕えられる。彼らは王の若い頃の狩りで、さんざん苛められたので、復讐に来たのであった。改心する王。

*第3巻 第5章 ティーンエイジャーに敵はなし

 子供型爆弾で吹き飛ばされ、さらわれた三蔵。火雲洞に追っていった悟空たちを出迎えたのは、牛魔王の子、爆弾と火の使い手、紅孩児である。八戒以下3人(馬も含む)は熱でまいってしまうが、悟空は逃げる。そこにやってきた、牛魔王。彼は悟空の怖さを知らない息子を諫めるが、悟空に負けたという弱みがあるので、なまいき盛りの紅孩児に対して、説得力を持たない。実はこの牛魔王は悟空が化けたもの。紅孩児に見抜かれて爆弾で痛めつけられる。八戒たちは逃げ出すが、観音にばけた紅孩児に騙され、連れ戻される。そこに本物の観音がやってきて、悟空を助け、紅孩児をこらしめる。


*手塚治虫漫画全集 14

(文中、引用は本書より)


MASK 倉田わたるのミクロコスモスへの扉
Last Updated: May 12 1996 
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