オイル卿の遺産と第2の計画ここで舞台は地球に戻る。第1号ロケットがディモン星から帰還して以来、ディモン星はほとんど顧みられていなかったのであるが、デコーン博士が重大な発見をした。それはディモン星の表面のある部分が、時間によってキラリと光る現象、すなわちデコーン現象であり、これは、水か、それに類するものの存在を示していた。ヒドロ博士の陣営は、それが石油であることを突き止める。ロックが(当然)死んでいると思い込んでいるヒドロ博士にとって、これは大チャンスである。
これを聞きつけた東南西北(彼は自分を日本人とは言わずに、東洋人と言う、白人に対するコンプレックスとそれの裏返しの傲慢さの持ち主である)は、オイル卿にこの話を持ち込んだ。オイル卿は、世界連邦建設会議でヒドロ博士を出し抜いてこれを発表して、採掘権を確保し、錯乱したヒドロ博士は銃を乱射して、取り押さえられる。
鳥人・文化の階段を上る数ヶ月後、オイル卿のロケットは完成した。東南西北と、召使のヒゲオヤジ(ディモン嵐で息子と生き別れになり、オイル卿に拾われて働いていた)に留守を託して、ロケットに乗り込むオイル卿。しかし点火直後にロケットは大爆発し、オイル卿は死んだ。
野心家・東南西北は、オイル卿の遺産が、彼とヒゲオヤジに残されたことを知り、改めてディモン星へ遠征し、開発しようと、ヒゲオヤジに持ちかける。驚き呆れるヒゲオヤジ。東南西北は、オイル卿のロケットには欠陥があったが、ロックの第1号ロケットならば大丈夫だ、と、力説する。(胡乱な野心家ではあるが、東南西北の、この前向きの不屈のチャレンジ精神を、私は高く評価したい。)その時、東南西北を襲う暴漢。ヒゲオヤジは暴漢を投げ飛ばし、その技から、かつて東南西北を投げ飛ばした大助こそ、ヒゲオヤジの生き別れの息子であることが明らかになる。大助はディモン星に置き去りにされて来たのだ。ヒゲオヤジの親心に付け込んで、遠征隊の派遣を承諾させる東南西北。
第二次探検隊はなぜ去ったかロックと大助の指導のもと、鳥人たちは急速に文明の階段を駆けあがり、文明の利器(と兵器)を身に付けてゆく。チコは地球へ留学したいと言い、ロックたちも地球に帰りたいものだと、感慨にふける。その時、上空に地球からのロケットが!
地球への道東南西北、ヒゲオヤジ、デコーン博士ら、第二次探検隊である。彼らは石油海を発見した。そしてウラニウムかトリウムの大鉱脈も! そこに襲いかかる鳥人たちの群れ! 彼らはチコの城を攻撃して退却する途中であり(これが第1巻最終章のことを指しているとすると、日時の辻褄が合いそうもないが、瑕疵に過ぎない)、人間たちに驚いて襲いかかったのも無理からぬことであるが、無論、人間たちの方はそんな事情は知らずに、ひたすら「鳥の怪物」たちを撃ち殺し、なんとか撃退したものの、東南西北は大怪我をする。すぐに地球に引き返して手当しなければならない。彼らは生き残った鳥人たちを捕虜にして、飛び立つ。合流するためにすぐ近くまで急行してきていたロックと大助は、間に合わず発見されず、またしても置き去りにされたのである。
鳥人狩ロケット内で危篤状態となった東南西北に、最後の手段として鳥人の血が輸血され、彼は一命をとりとめた。(その代わりに、血を抜かれた鳥人は死んでしまった。)回復した東南西北は、鳥人シンジケートの設立を宣言する! ディモン星から狩り集めた鳥人を、奴隷労働用に、そして食肉用家畜として、全世界に売り出すのだ!
その一方、ディモン星で鳥人文明は、一気に地球人類に追い付くほどの、急激な進歩を遂げていた。ある夜、鳥人の予言者が、ディモン星も地球も血の海に染まる、恐ろしい大戦争が起こるであろうと、予言する。その時、地球からやってきた大船団が、ディモン星の上空に!
鳥人会社地球からきたロケットの船団は(これほどの船団を作れる設備と資材はなかったはずである。これも作者のケアレスミス)、ロックと大助を発見する。彼らは「鳥人移植会社」の作業部隊なのだ。ヒゲオヤジが存命で、会社の幹部を勤めていることを知った大助は、狂喜する。作業部隊は自分たちの意図を隠したまま、英雄ロックと大助、そしてチコを、まずロケットで地球に送り出し、彼らが去ってから、麻酔弾で鳥人狩りを始める。
ロケットの中で真相を知ったロックは、ディモン星へ引き返そうとするが、ヒゲオヤジ会いたさに聞く耳もたぬ大助に、のばされてしまう。
鳥人の反乱舞台は地球、鳥人会社に移る。幹部のヒゲオヤジは、世界各地からの鳥人の注文をさばくのに、てんてこ舞いである。(この章の最初の大ゴマで、ヒゲオヤジを“?”マーク型に囲んでいる電話コードの“ライン”は、実にデザイン的に美しい。)彼はこの稼業が嫌でたまらないのだが、(大助を再び探すために)ディモン星に行くチャンスを作るためには、この会社に勤めていなくてはならない。社長の東南西北に呼ばれた彼は、大助がディモン星から帰ってくるという知らせを受けて、空港へ飛んでゆく。(ヒゲオヤジを喜ばそうと、この吉報を伝える東南西北は、このシーンでは明らかに気のいい善人である。作者はこの悪役を、決して単調な筆致では描いていない。)
空港に着いたロック、大助、チコ。彼らのあとから着いたロケットに乗せられていた鳥人たち(留学生)が奴隷に売られていくのを目撃して、大助とチコも真相に気付く。仲間のあとを追って、ロックたちとはぐれるチコ。父の勤めている会社の所業に、怒り嘆く大助。そしてヒゲオヤジとの涙の再会。(このシーンは、遠景のシルエットで処理されている。前例も多々あるのではあろうが、それにしても、例えばモーツァルトやベートーヴェンの交響曲や弦楽四重奏曲が、のちの世の和声法や対位法の教科書の基礎となったように、手塚治虫の(初期の)諸作品の技法が、後進の漫画家たちに、教科書的に取り入れられていったことが、わかる。)
奴隷取引をやめさせようと、東南西北と対決するロック。東南西北はこの商売の産み出す莫大な利益で、やがては地球を我らの手に出来るのだ、と、ロックを説得する。(東南西北は、ロックが反対するとは、夢にも思っていなかったのである。そして彼は、ロックを共同経営者として迎え入れる準備を、ちゃんとしていた。商売の内容の是非はさておき、彼はビジネスマンとしては、徹底的に「誠実」なのだ。)奴隷商売を頑なに拒否するロックは、切り札を出す。父から譲られた、ディモン星の権利書である。話し合いは決裂し、椅子を蹴って鳥人会社を飛び出すロック。彼は大助と落ち合い、大助から鳥人取引市場の酷い有り様を聞く。チコは無事に逃げ延びたらしい。
その夜、東南西北の刺客が、ロックを襲う! 彼は権利書を奪われるが、命からがら逃げ延びた。チコに救われた彼は、チコから、鳥人による復讐戦争の計画を聞かされる。地球人にかなう訳が無いと、必死にとめるロックの言葉に、チコは耳を貸さない。ディモン星で鳥人狩りを繰り返している地球人のロケットを奪い、それで地球で苦しんでいる鳥人を救ってディモン星に引き上げる。当然、地球人のロケットが追跡してくるので、それをことごとく奪うか破壊するかしてから、今度は地球を徹底的に攻撃する。これがチコのプランである。なおも引き止めるロックに、鳥人にはすごい武器があるのだ、と告げるチコ。あの恐ろしい奇病のことである。あれを地球にばらまくつもりなのだ。ロックはディモン星に行くのだから、病気にはかからない、おとうさん(ロックのこと)はディモン人なのだから、と、説得を試みるチコ。ロックは、チコを敵に回したくはないが、ぼくは地球人だ、地球を守る!と、チコの手を振りほどいて、鳥人たちの元を逃れ去る。
大団円数ヶ月後、ディモン星から帰還したロケットが、事故を起こして不時着した。乗組員たちは、全身が膨れあがり、ほとんどアメーバのような姿に変わり果てていた。ディモン星の、恐怖の奇病である。ついに鳥人たちが、反攻に転じたのである。パニックに陥った暴徒たちが、奴隷市場の鳥人たちを殺す。無意味な損害に怒る東南西北。そして彼の前に立ちはだかる、(片付けたはずの)ロック。ロックは東南西北に、これまでのいきさつは水に流そう、今や地球の危機なのだ、手を組もうと持ちかける。東南西北への要求は、鳥人の解放と、東南西北所有のロケットを全て、地球防衛軍にまわすことである。言下に拒否する東南西北とロックの闘い。勝ったロックは、東南西北を武装解除して、「死の谷」の山小屋に幽閉する。そこに備え付けられたテレビで、世界を襲った非常事態の全貌がわかる。
東南西北はテレビで、奇病と暴動の広がりを知る。この病気に倒れていくのは、そのほとんどが鳥人排撃抹殺運動の指導者たちであり、政府でも問題にされはじめた。(作者は、少し勘違いしている。本来、この奇病が「鳥人排撃抹殺運動」の原因だったはずだ。ここは「鳥人の奴隷化/家畜化を推進し、それで利益を上げていた人々」を、この病魔が襲っていく、と、すべきところ。)デコーン博士はテレビで、鳥人に油断するな、鳥人を殺すな!と、警告する。
ロックと東南西北が隠れ潜む山小屋に、奇病をばらまいている鳥人の工作隊がやってくる。発見され、隠れ場所から引きずり出されて、火刑台に縛り付けられる二人。恨み重なる東南西北と、最初にディモン星にやってきて、鳥人たちの災厄の原因をもたらしたロックである。鳥人たちは、鳥人の代弁者と人間側代表との交渉会議の様子を、テレビでロックたちに見せる。交渉が決裂したら、火焙りである。鳥人の代弁者は、鳥人の解放と、ヨーロッパ大陸及びアフリカ大陸の、無条件引き渡しを要求する。人間側はそれを蹴る。あわや火焙り! そこに間一髪現われた、鳥人の王、チコ。彼はふたりを火刑台から降ろさせる。ロックとふたりになったチコは、
「おとうさん… お願いします。ぼくとディモンへ行ってください」
「地球をすててか……………」
「地球にはいまにおそろしい戦いが起こります。おとうさんは避難すべきです」
「いやだ、ぼくは地球を愛する! ディモンを愛する以上にだ!」
「おとうさん……ぼくがこんなに心配してるのにわからないの?」
「チコ、おまえは鳥人ぼくは地球人だ。あくまでぼくは地球をまもるぞっ」
(チコは部下に向かって)
「人間を地下の穴ぐらへほうりこめ。けっして逃がさないように」
そのころディモンを出発した鳥人の地球攻撃隊の第一陣が、地球に急接近しつつあった。鳥人に監禁されていたロックと東南西北は、脱出に成功し、チコを人質にして「死の谷」深く逃げ込む。そして「死の谷」に集結してくる、何千、何万という鳥人の群れ! 二人に投降を勧告する鳥人。チコを射殺しようとする東南西北と、それを阻むロックとの争いになり、隠れ場所から身を晒した二人は、鳥人たちの一斉射撃を浴びる。東南西北は即死。ロックはチコに、東南西北亡き今、鳥人を奴隷にしようとする人間はいない、戦争はやめてくれ、と言い残して、息を引き取る。
一ヶ月後、復興した都会の中、ロック記念館でロックを忍ぶ、ヒゲオヤジと大助。ロックが死んだあと、チコは地球攻撃をやめて、ロックの亡骸と共にディモンへと帰っていったのであった。ロックはディモンと地球の掛橋となって、ふたつの種族の戦争の遠因ともなったが、身を呈して戦争を終わらせ、ディモンの土となったのだった..
それぞれ地球とディモン星を背負って戦う、ふたりの少年(義理の父子)の、感動的な物語である。二重星となった地球とディモンを舞台として繰り広げられる、堂々たる破天荒なストーリー。ロックは意外にも、あっけなく死んでしまうが、これが僅か2ページの「大団円」の章の、豊かな余情を引き出している。
これはのちに、ふたつの偉大な傑作の原型となった。「0マン」と「鳥人大系」である。
アンパイヤ・スカイビルの840階に住む、ビル掃除の、通称摩天楼小僧。彼と親友の二十日鼠が巻き込まれた、とある犯罪物語。XX国の秘密兵器の元となるペリューム鉱が、手違いでこのビルの土台に埋めこまれてしまったのだ。これを奪いに来るスパイたちとの、石の争奪戦。作者の「少年クラブ」デビュー作。アナクロな超高層ビルの、夜の雰囲気が心地好い。
超自然現象を科学で解明する、というパターンのひとつ。火山島を舞台に映画撮影隊が立ち向かう「七つの不思議」は..「太陽が二度出ること」「人の姿が見えないのに声のすること」「小鳥がもし死ぬとすれば、人間も死ぬということ」「午前三時の噴火を見た者は、一生、島をはなれられないこと」「火口の底に花畑」「大入道」「歌う石」。死の硫化水素ガスを吐き出す火口の底にこびりついている宝石をめぐる、冒険譚。オチはなんちゅうか。[;^J^](1ページ、9コマも引っ張るか? このネタで。[;^J^])
(文中、引用は本書より)
Last Updated: May 12 1996
Copyright (C) 1996 倉田わたる Mail [KurataWataru@gmail.com] Home [http://www.kurata-wataru.com/]