第2巻 第2章 女王コンガレオが救い出した雌ライオンの名は、ライヤ。彼女はナイル河のずっと川下で、リョーナという雌ライオンに仕えていたという。その村は、代々白いライオンを守り神としていた。ライヤは第120代の守り神であるリョーナからパンジャへの、言伝を携えてきていたのであった。
白いライオンの伝説。四千年の昔、ナイルのほとりで栄えていたエジプト人。その王国は腐敗しつつあった。王国の衰亡を見るに忍びなかった、とある大学者が、白いライオン・アンドロクレスに秘薬を施し、神獣とする。白いライオンが神として祀られているあいだ、そのライオンは国民たちに、質素を教え体を鍛えさせたので、王国は再び栄えたが、ナイルの上流から帰ってきた将軍が神獣を疎んじ、ナイルの上流のピグミーの国に追放してしまった。神獣を失った王国は再び豪奢に耽って傾き、やがて侵略されて滅びた。そして数千年後のこんにちでも、ナイルの上流のジャングルの奥深く、白いライオンを守り神とする部落があるのだと言う。
この伝説でいささか気になるのは、学者がアンドロクレスに何をしたのかが、不明確なことである。このライオンは最初から白かったのであるし、何らかの超能力(神通力)を授けた形跡もないのだ。まぁ瑕疵には違いない。
第2巻 第3章 ドンガ河のほとりにてケン一たちが遭難し、その後居留しているドンガ河の上空で、ヘリコプターがばらまいたビラが、ハゲタカから、ケン一とレオの元へ届けられる。それによると、プラス教授とマイナス博士は救出されて、アデンに帰還したのである。ケン一(既にすっかりたくましく成長している)は、なんとかしてメッセージをヒゲオヤジの元へ届けたいものだと悩む。レオが戻ってきて以来、男を下げっぱなしの片目のブブは、レオに喧嘩を売るが、かなわない。
レオはケン一と心を通わせるためにも、人間の言葉を習いはじめる。学校を作って動物たちを集め、彼らにも習わせようとするが、ココとトミー以外は、帰ってしまう。(当たり前である。[;^J^])
再びジャングラ族の襲撃。驚いたことにジャングラ族の女王はメリーであるが、彼女はケン一に会ってもハム・エッグの墓を見ても、彼らなど知らない、と、しらを切り、ここは自分たちの土地であるから出ていけ、と、高圧的に出る。
彼らを追い返したケン一は、寂しさを隠せないが、レオが片言の人間語をしゃべったことに、おおいに慰められる。
レオがごく短期間で(片言とはいえ独学で)人間の言葉をしゃべれるようになるあたりが、さすがにリアリティがないが、“漫画的リアリティ”をゆるがすほどではない。この章で本質的なのは、ジャングラ族の女王となったメリーの心情である。性格的に、家来なしで生きていけない彼女は、女王であり続けるために、父親すらも否定しなければならなかったのである。
第2巻 第4章 コンガの涙ドンガ河の上流で、ジャングラ族の女王コンガ(実はメリー)は、ケン一を追い出す(退治する)算段をしている。彼らに飼われている雌ライオン・ジルバが、レオを誘い出すために派遣される。罠にかかって捉えられたレオ。檻の中で眠るレオは、夢の中で「人間に飼われた者がどんなにずるくひきょうになるか、おまえはきょうわかったじゃろう。わしが、人間といっしょに家畜も憎んでいたわけはそこじゃ」という、パンジャの言葉を聞く。
レオは脱走する。その時、追撃するジャングラ族の眼前にあらわれたのが、伝説の「夢の山」である! 動揺するジャングラ族。
「おおっ奇怪な! まぼろしのように白い山のかげがっ!」
「十年前にもこんなことがあった。あのときは白い花が天にも地にも咲いて、みんな死んだ」そして雪が降り(白い花)、ジャングラ族の混乱に乗じてレオは逃走する。その途上、彼はマンモスと出会う。
ジャングルに帰ってきたレオは、彼の不在中にブブが暴れてライヤを奪い去ったことを知る。レオの追跡。二匹の発見。ブブとの決闘。残った片目を潰されて失明したブブは逃げてゆくが、レオも傷を負う。動けないレオに迫り来る、戦闘アリの大群! レオを引きずって走る体力のないライヤは、アリに食われないようにレオを地面に埋めて、逃げ去る。アリの大群が去ったのちに、地面の底から息を吹きかえしたレオは、姿を消したライヤを(事情を知らずに)怨む。
舞台はかわって、アルジェの町のスラム街カスパ。ハム・エッグから巻き上げた宝石が、(ダイヤモンドの美しさとウラニウムの偉力をかねそなえた)古今にまれな月光石であることを知ったランプは、有頂天である。それに食らいつく、一癖ある男、アダム。そしてその場に現われたヒゲオヤジ! 3年3ヶ月、ランプを探し続けたヒゲオヤジは、彼を締めあげて、ドンガ河の上流でケン一たちと生き別れになったことを吐かせる。そしてヒゲオヤジはドンガ河上流へ。
実に内容豊富な章である。終章に向けての壮大な伏線である「夢の山」ももちろんであるが、それよりも印象的なのは、「人間に飼われた者がどんなにずるくひきょうになるか…」という、パンジャの言葉である。家畜に堕した動物たちに対する、明快な拒絶。ここにジャングル大帝の厳しさがある。また、レオは決して家畜だった訳ではない(人間たちの友人格であった)が、半ば飼われていたことも事実であって、パンジャの言葉は、彼を野性へ引き戻すベクトルとなって、物語全体のダイナミズムを作り出している。
第2巻 第5章 戦闘砂漠をさ迷うレオは、ピグミーの村に迷い込む。そこでは白い雌ライオンが神として祀られていた。リョーナである。先祖代々の白い毛皮を見て驚くレオ。パンジャはリョーナの叔父であり、かつてこの村から逃げ出したのだった。リョーナはレオに、ここで神座についてくれと頼む。
儀式が始まる。引き出されてきた生贄は、なんとヒゲオヤジ。レオは彼を噛み殺したふりをして、逃がす。レオや、脱出の途中で出会ったライヤが、人間語を話すことに面食らうヒゲオヤジは、今度はジャングラ族に捕まってしまう。
コンガ(メリー)はヒゲオヤジに、自分が女王となったいきさつ(万年筆と毛皮を使って、科学的手品−火花の発生−をしてみせ、魔法使いとして認められた)を語り、自分にひれふさないケン一から土地を取り上げるために、ヒゲオヤジを人質として、脅迫状を川下に流す。それを拾った、すっかりターザン化 [;^J^] しているケン一は、ヒゲオヤジの救出に向かう。
雌ライオン・ジルバの、卑怯な密告と、密告を基礎におく暴政をしくコンガ。ヒゲオヤジは心を痛めるが、月光の下で、かつてメリーが好きだった「埴生の宿」を笛で奏し、メリーが泣いていることを知る。女王然としているメリーも、裏を返せば、ひとりぼっちの寂しがりやなのである。
第2巻 第6章 幼いものたちピグミーの村をつきとめたライヤは、王冠を戴くレオと再開する。ブブとの戦いの時に、なぜ自分を見捨てて逃げ去ったのだと、ライヤを責めるレオ(逆恨みである)。ライヤは弁解せず、ただ、ジャングルに帰って、みんなを守ってくれと頼む。ライヤと(かつての上司)リョーナとの対決。レオをここで神の座に引き止めようとするリョーナと、ジャングルに呼び戻そうとしるライヤの、女の戦い。喧嘩を仲裁したレオは、ジャングルに帰るとリョーナに告げ、彼女は諦める。
ヒゲオヤジを救出すべくジャングラ族の部落に潜入したケン一は捕らえられ、ジャングラ族及びその配下の動物たち(肉食獣も草食獣も)と、レオの率いる動物たちとの大戦争が始まる。コンガに率いられ、ジャングルに火を放つジャングラ族。形勢不利なレオたちは、ジャングルを捨てて河の中の浅瀬に避難する。雨。その時、かつてレオが出会ったマンモス(オフクロサンと呼ばれる)が現われ、人間たちが好物のゾウグサを燃やしているのに怒って暴れまわる。この騒ぎに乗じて反撃する、レオ軍。
その頃、川上のジャングラ族の村は、再び現われた「夢の山」の幻と、舞い散る白い花(雪)で、パニック状態に陥っていた。寒さを知らず、このままでは風邪をひいて全滅してしまうであろうジャングラ族を助けてやるから、と、ケン一とヒゲオヤジは縄をほどかせ、火を起こすこと、(ヒゲオヤジの服を参考にして)服を縫うことなどを、手早く指示する。
さんざんな目にあって雪の中から帰って来た、コンガ以下の遠征軍。彼女が驚いたことには、ヒゲオヤジもケン一も解放されており、彼らも留守を守っていたジャングラ族も、服(背広上下。[;^J^] ケン一にいたっては、ネクタイまで締めている。[;^J^])を身に付けている。ケン一たちに救われたジャングラ族も動物たちも、もはや彼女には従わない。力で押さえつけることに敗れ、打ちひしがれるコンガ(メリー)。ケン一は彼女を慰める。ジャングルは動物たちのものだ、僕等は国に帰ろう、そうだ、僕の国、日本へ行こう。君には静かな生活が必要なんだ…。
マンモス(オフクロサン)はレオに、自分は「夢の山」という寒いところに住んでいるが、時々雪のために食べ物がなくなるのだ、雪は恐ろしいものであり、人間もけものもみんな死んでしまうから、お前は近づくな、と告げて、夢の山に去って行く。
そしてその翌日、レオとライヤは結婚式をあげた。
ここまでが、前半の(いわば)ジャングラ族編である。といっても、月光石、夢の山、マンモスと、大規模な伏線がいくつも張られており、後半とは無論不可分である。
第2巻 第7章 ふるさとをすててアフリカの朝。この日、レオとライヤに双子が生まれた。レオは大空に向かって声高らかに、自分が父親になったことを亡き両親に告げる。このシーンが、第2巻の白眉。実に嬉しそうな幸福そうなレオ。独身である私には、残念ながら頭でしか、その喜びは理解できないのだが。
第2巻 第8章 ダンディ・アダムという男男の子の名はルネ、女の子の名はルッキオ。二匹は学校で人間語を習う。(人間と堂々とつきあって行けるだけの力を持つためには、人間語を習わなくては、というレオの信念は、「ジャングル大帝」をつらぬく、ひとつのオブセッションである。)暴れん坊の小象、ビゾーを懲らしめたルネの前に、ビゾーの父親、パグーラが現われる。子供の喧嘩に親が出てきた格好であるが、彼は、小さなルネの勇敢さに感心して去っていく。
人間の世界に憧れるルネは、人間は決してやさしくも素晴らしくもないというライヤの諫めに耳をかさず、川を下って家出してしまう。レオとライヤは必死になってルネを探すが、もはや見つけることはできない。
レオの時もそうだったが、この物語では、「子別れ」のタイミングが非常に早い。親子関係を暖めるいとまもなく、離れ離れになってしまうのである。
アフリカから日本に向かって船出をする、ケン一、メリー、ヒゲオヤジ。彼らは月光石をめぐる各国のスパイの暗闘に巻き込まれ、ケン一とメリーは船倉に閉じ込められ、ヒゲオヤジは殺人犯の濡れ衣をきせられてぶち込まれる。彼を救出したのは、第1巻第2章でケン一たちのクラスメートとして登場した、博識なメガネ少年の出世した姿、地質学者のアルベルト・コッホである。今はA国の月光石調査隊で働いている彼は、ヒゲオヤジがドンガ河上流で目撃した「夢の山」こそ、月光石の産地だと、ヒゲオヤジに案内を求める。
一方、月光石を手に入れた二重スパイのダンディ・アダムは、人間語をしゃべるライオン、ルネも手に入れる。人間の国で勉強したいという無邪気なルネはだまされて、サーカスで見世物にされるべく、鎖に結ばれてしまう。そして船はニューヨークへ。
(文中、引用は本書より)
Last Updated: Apr 27 1996
Copyright (C) 1996 倉田わたる Mail [KurataWataru@gmail.com] Home [http://www.kurata-wataru.com/]