歩きながら新聞を読んでいる男。
「全国にあたまのおかしなのが二十八万人もいて、収容施設は十五万人分、のこりは野ばなしか…」
彼は、キツネが女に化けるのを目撃するが、
「おれのあたまはたしかだな。なにしろきつねのばけるのをちゃんと観察してんだからな」
このあたりから、少々おかしいことに気付く..この男は、女を飲み屋に連れ込むが、言うことを聞かないからと、銃で追い回した上、バラバラに刻んで埋めてしまう。そして錯乱して笑っているところを警官に捕えられるのだ。
警官たちは、精神異常者が眷族を一匹、殺しました、と、お稲荷さまに報告するが、お稲荷さまは、人間の女に化けていたのなら、それは露出狂のキツネだと、答える。
「全国で精神異常のきつねは三十八万びきもいて、それにたいし収容イナリが十五万びき分、あとは野ばなしのありさまで…」
きれ味の良いオチであるが、“野ばなしの気違い”の邂逅をテーマとしたこの作品が、このままの形で単行本に収録される可能性は、まずない。(下記、奇想天外文庫版(1977)には、“気違い”を“変質者”と書き換えて収録されている。)
(文中、引用は、サンデー毎日 1965年3月7日号より)
Last Updated: Apr 3 1997
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