少年を拾った。緑のベンツを見なかったか？と、彼。ミッドナイトは、見ていない。とにかく八王子へ。
少年は、ミッドナイトに問う。もしも弟が悪い仲間に入ったらどうする？ ミッドナイトは答える。自分がどうなっても弟を救う、と。
高速上で、緑のベンツに追い付いた。少年は、ベンツに乗っている連中と、顔見知りらしい。タケシと呼ばれた、その少年は、ミッドナイトにここまでの料金を払うと、ベンツに同乗して先に走り去っていった。そして後から追う形になったミッドナイトは、ベンツが転落事故を起こした現場に出くわす。全員即死。
さすがにショックを受けたミッドナイト。彼がベンツに乗り換えさせなければ、ひとりは助かったのに．． しかしニュースを聞いて、彼はどこかおかしいことに気がつく。身元確認も困難なほどの黒焦げ死体が、４体。ベンツには最初から４人乗っていたのだ。タケシを同乗させたから、５人。ひとり消えた。何故だ？
彼は、事故現場に５人めが現われると踏んで、張り込む。３日目、ひとりの少年が事故現場にやって来て、涙を流していたところを、つかまえる。見覚えがある。確かにベンツに乗っていた少年だ。どういうカラクリで車から降りた？ 言えない！ ふたりだけの話にしてやるから。
少年は、ポツポツと話し始める。ベンツは盗難車。彼ら４人は強盗に行く途中だったのだ。それも、自分たちがかつて働いていた農場、少年院から引き取られて養われていた農場を切り回しているおばあさんを、襲う計画だったのだ。
何故、この少年は車から降りられたのか？ ミッドナイトの車から乗り込んで来た（今は堅気に戻っている、彼らの昔の仲間である）タケシ少年が、断じて強盗には行かせないぞと、“弟”を車から突き落し、ハンドルを奪って、残り３人を道連れにしてダイブしたのだ。命を捨てて、弟を悪事から救ったのだった。
微かな緊張をはらんだ序盤から、突然のカタストロフ（事故）、そして、謎。それを解明する過程で浮び上がって来た、卑劣な犯罪計画と、自己犠牲。
間然するところのない、見事なミステリーだ。傑作である。
倉田わたるのミクロコスモスへの扉
Last Updated: Aug 17 1996
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