鉄腕アトム:アトム誕生

 ロボット誕生からアトム誕生前夜にいたる背景説明は、旧作からの引用で、作者のナレーションをはさんで、アトム誕生の(あまりにも有名な)経緯が、再び語りなおされる。すなわち、飛雄の事故死、アトムの製作、束の間の平和、サーカスへの売り飛ばし、そしてお茶の水博士によるサーカスからの救出。

 作者は、アトムが誕生した時代(昭和26年)から大きく時代が変わった今、なおも「アトム」を支えたコンセプトは有効であるのか、自己に問い直しているようだ。

 そういう目で読み直してみると、アトム誕生の経緯というのは、科学技術の濫用以外のなにものでもない。当然予想されてしかるべき結果(アトムは成長しない)を考えずに、ビッグ・プロジェクトを起こし(しかも公私混同)、結果が意に染まぬからと、それを放り出し、拾った人間は、ことの本質を考察することもなく、娯楽に供する。アトムがサーカスから救出され、7つの力を発揮して人間のために働けるようになる、という「アトム誕生」のエンディング(すなわち「鉄腕アトム」全編のプロローグ)は、従って、人類の未来のために、科学技術の誤用を正す過程の、メタファーに他ならないのではないか。

 「鉄腕アトム」のコンセプトは、今なお、いや、今だからこそ、有効なのである。


*「鉄腕アトム 1」(サンコミックス)


MASK 倉田わたるのミクロコスモスへの扉
Last Updated: Aug 14 1996 
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