三つ目がとおる:文福登場

 カラスのグロに露払いをさせて、文福が登場する。鬱陶しい長髪の、一見して不良学生崩れの、大金持ちで機械いじりが好きな男である。一ヶ月前、写楽がバンソウコウを剥がされた時、文福に接触して、とある設計図を渡していた。その出来上がりを持ってきたのである。わけあってバンソウコウを剥がされていた三つ目の写楽は、文福にも和登サンにも、それがなんであるかを教えず、またバンソウコウを貼られてしまう前に、実験だけでもすませるという。

 実験をやめさせようと(「キミのやる実験は人を殺すわ」)追いかけてくる和登サンを、標本室に誘いこんだ写楽。和登サンを実験台にするつもりなのだ!

 それは蜘蛛のような形状の機械だった。これは人間の首筋に張り付いて、強い電波でIQを下等哺乳類並みに下げてしまう。これを世界中の学校にばらまいて、先生たちの知能指数を下げて使い物にならなくしてしまい、全世界の学校を潰してしまおう、という訳だ。その前に、うまく機能するかどうか、和登サンで実験をする! 例の、

「アブドル・ダムラル・オムニス・ノムニス・ベル・エス・ホリマク!」

という呪文で、この蜘蛛は動きだし、和登サンの代わりに、運悪く標本室を見回りに来た教師に張り付いて、その知能指数をどんどん下げ、獣にしてしまう。そこに現われたのが、“こんなこともあろうかと”蜘蛛を100匹ばかり量産して持参した、文福。騒ぎの一部始終を見ていた彼は、手を組もうと写楽に持ちかけるが、和登サンが先端に吸盤とバンソウコウを取り付けた矢を、写楽の額に命中させて、全てはチャラに。先生は人間に戻り、写楽は大量の“蜘蛛の玩具”をごみ箱に捨てさせられ、そしてひとり置き去りにされた文福は、あの呪文を何度となえても蜘蛛を動かすことは出来ず、隣でグロが馬鹿笑いをするばかり..

 例によって例のごとき、ワンパターンの物語だが、私は、この文福という小悪党が、なかなか気に入っている。理由を訊かれても困るが..


(文中、引用は、少年マガジン 75年1月19・26日号より)


MASK 倉田わたるのミクロコスモスへの扉
Last Updated: Aug 12 1996 
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