高校受験を控えたケン少年。彼の余命は、あと1年。不治の多発性動脈炎であり、本人も、そのことは知っているのだ。承知の上で、皆と同じ様に、普通の青春を精一杯生きたい、と願っているのだ。
次第に症状は重くなり、受験の頃にはベッドから離れられなくなるが、特例を認められて医務室で試験を受け、見事に合格する。そして始まる高校生活。彼は教室に据え付けられたベッドの上で授業を受け、そして死ぬ。
“壁”が、受験の“壁”、進路を阻む障害物としての“壁”を表していることはもちろんであるが、ここではそれにとどまらず、人生は、無限に続く“壁”への挑戦の連続なのである、という比喩が語られている。そして少年には、ただひとつの“壁”しか、残されていなかったのだ。
このエピソードでは、ブラック・ジャックは、例外的な登場の仕方をする。即ち、少年の回想シーン(と、死んだあとのエピローグ)の中でのみ、現われるのである。彼は少年と会話をするだけであり、治療はしない。不治の病だからだ。しかし、いっそ早く死んでしまいたいと言う少年に、医者なんてものは、一万もある病気のうち、せいぜい千くらいしか治せない。医者なんてなくとも、人間は生きられるのだ、と、ブラック・ジャックは諭す。その言葉に勇気を得た少年は、前向きに病気と戦ったのである。
単行本に収録されないのは、多発性動脈炎を不治の病としてしまったからであろうか?(軽い症状のものなら治るという。)しかし、その位のことであれば、台詞の変更で対応出来ると思うのだが。
Last Updated: Aug 11 1996
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