ブラック・ジャック:血がとまらない

 上京してきて上野で出会い、恋に落ちた若い二人。しかしその少女は、血友病にかかっていたのだ。ブラック・ジャックにすがる少年。しかしいくらブラック・ジャックでも、遺伝病はなおせない。ならば嘘の手術をして、彼女に「治った」と思い込ませてやってくれ、と、少年は頼み込む。血友病は遺伝するが、女性には症状は現われない、だから彼女自身は安全だろうと、ブラック・ジャック。

 少年の血液を検査したブラック・ジャックは、驚く。彼を帰らせたあと、少年の実家の母親に電話する。そして少年が悪性貧血で、もういくらも持たないことを、少年自身が知っていることを聞いたのだった。少年は今、恋をしている、と、ブラックジャックは母親に告げる。

 翌日、偽りの手術を少女に施し、嘘で安心させるブラック・ジャック。その手術中に、少年は待合室で倒れる。後日、退院した少女に、少年からの別れの手紙を渡したブラック・ジャックは、彼が死んだことを知らせるのだった。

 実に欠陥の多い物語である。なによりもこの「嘘」が、彼女の一生、通用すると思い込む理由が判らない。遺伝病は手術ではなおせない、ということを、彼女はいつかは知るはずなのだ。大体、彼女がいつか別の誰かと結婚して、男の子を作ったとしたら、その子には血友病が発症する可能性があるのだ。その時になってはじめて、彼女は自分が騙されたことを知ることになる。少年(とブラック・ジャック)は、彼女の幸せのことしか考えておらず、彼女の子供の運命には無頓着であり、さらに言えば、(自分には発病しなかった)この難病が子供には顕われてしまったとすると、彼女自身も不幸になるではないか。もうひとつ、この少年の血液の検査をする理由が、はっきりしない。「血液型が同じなら輸血に使えるからな」とブラック・ジャックは言うが、最初から本当の手術をするつもりはない(従って、わざわざ輸血をする理由もない)のである。

 これらの重大な欠陥にも関らず、私はこの物語が、非常に好きである。自分はもうすぐ死ぬのだが、(そのことを知らない)恋人の病気を、たとえ偽りによってでも「治して」、彼女の生涯を明るいものにしようとする、少年の全く無私無欲の愛が、感動的だからだ。


*「ブラック・ジャック 3」(少年チャンピオンコミックス)


MASK 倉田わたるのミクロコスモスへの扉
Last Updated: May 3 1996 
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