ブラック・ジャック:ふたりの修二

 酷い親もあったものである。地下街の火事で息子(修二)が焼死したのだが、性別の区別もつかぬほどに損傷していたのを幸い、死者は娘であった、と発表し、娘(久美)に「息子になれ」と命じるのである。自分の会社の後継者は「息子」と決まっていたからであって、息子が死んでしまえば、会社を副社長派に乗っ取られてしまうからである。もちろん、すぐにばれてしまうであろう。そのため父親は、娘を転校させ、これまでの友人たち全てと縁を切らせ、駄目押しにブラック・ジャックに性転換手術を依頼する。

 一ヶ月後、性転換をした久美は、修二の名で転校する。番長グループに目を付けられた彼(彼女)を救出に来たのは、本物の修二。彼は死んではいなかった。死体は人違いだったのだ。なぜ名乗りでなかったのか? 彼が地下街火事の犯人だった(火のついたタバコをごみ箱に投げ棄てた)からだ。彼は生きていたことを父親には打ち明けていたのだが、家名を重んじる父親からは、身内から犯罪者を出す訳にはいかないとして、勘当されてしまっていたのだ。

 副社長は、今の修二は実は娘が性転換したものだという情報を掴む。このネタをばらせば、会社は彼のものだ。彼(彼女)を誘拐して、別の医者にセックス・チェックを依頼するが、本物の修二がすり替わり、ことなきを得る。副社長たちは、最後の手段として、彼が地下街火事の犯人であるという裏付けを取り、このネタで社長を恐喝しようとする。寝たふりをしてこの陰謀を全て聞いていた修二は、ならばお前たちも誘拐・暴行・脅迫で有罪だ、と脅す。もみあいとなり、逃げる修二をひき殺そうと車で追う副社長たちは、修二もろとも踏み切りに飛び込んで電車にぶつかり、死んでしまう。

 全ては終った。ブラック・ジャックは久美にかけた催眠術を解く。性転換手術はせずに、男になったという暗示をかけていただけだったのだ。修二のぶんも幸せになれといって彼女を送り出すブラック・ジャック。(しかし、あの父親(社長)の家からは、とっとと出た方が、幸せになれると思うぞ。)「性転換」という大ネタを「催眠術」でスマートに処理した作例。


*「ブラック・ジャック 1」(少年チャンピオンコミックス)


MASK 倉田わたるのミクロコスモスへの扉
Last Updated: May 3 1996 
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