単に完璧なだけではない。三重苦の登場人物を登場させ、彼女に、昆虫の触角のごとき指の動きで会話させる等の、分厚い肉付けが素晴らしい。最も印象的なのは、序盤で2回繰り返される、ハッター家の女性がふたり乃至三人の男を従えて、向うからこちらに歩いてくる情景。この繰り返しが、悪夢のような雰囲気を醸し出している。
怪奇絵画物。問題の絵画の怪奇性が、あまりにも「らしすぎる」ため、ある種チープな印象を与えるが、それが逆に効果的。加えて、まさに「魔術的」密室殺人の妙!
怪奇自動人形物。[;^J^] とにかく怖い! これを読んで怖がれない人は、人生を損している。近代的なすっきりとした舞台と、悪魔崇拝のおどろおどろしさの、絶妙なブレンド。
一見、互いに無関係な4つの断章と、一見、そのいずれとも無関係な、シンプルで唐突で不条理な一撃。実に素晴らしい構成だと思う。
やはりこの作品の「謎」と「詩情」は、美しい。限定された舞台で次第に人数が減っていき、容疑者が絞られてくる、という、これ以上は無いと言えるほど陳腐な展開を、もうひと押ししてみせた着想の勝利。
今の目から見ると、あまりに愚直で、工夫のなさに驚いてしまう様なアリバイ工作だが、読み終えた後の感動の大きさには、さらに驚く。プロローグの組み込み方がうまい。そして、エピローグの豊かな余情..
非常に巧妙な犯人隠しのパズルと、豊かなロマンティシズムの両面を完備している傑作。このふたつの要素が「融合している」とまでは言えず「並立している」に留まっているのが惜しい、と、これは贅沢な注文。探偵小説マニアが登場する作品は、常にスポイラーの危険を孕んでいるのだが、本書はその悪質な [;^J^] 例のひとつ。「僧正殺人事件」「グリーン家殺人事件」「アクロイド殺害事件」「カナリア殺人事件」を読んでいない人は、先にそれらを読んでおくこと。
とにかく、話者を次々と変えて語られていく、物語それ自体が面白い。最初の芝刈り男の話など、絶品である。伏線の張り方も、フェアで完璧。上品なユーモアと絶妙の語り口。これほどの傑作が(確か)絶版のままと言うのは、どういうことか。
一見無意味な連続殺人の動機が、多重にカモフラージュされている、その技巧上のしつこさと、非常にシンプルで古風な冒険譚との、取り合わせの妙。意外に?すっきりとした読後感があり、もっと猟奇してくれたら良かったのに..と、無い物ねだりをしてしまう。[;^J^]
まさに、いぶし銀のごとき名作である。全編に鳴り響く鐘の音が、(そこは推理小説だから)犯罪(殺人)にがっちり組み込まれているのはもちろんだが、そんなこととは無関係な、魅力的な田園地方の風景/風俗にも、しっとりと溶け込んでいるのがいい。目下絶版中だが、2〜3年中に、創元推理文庫から新訳が出る予定である。
奇蹟のように美しい..これほどまでに精妙で幻想的な殺人風景が、あっただろうか..この小品を読んだ夜に、夢を観た..それはまさに、宝石であった..
戦慄の傑作である! SFでもファンタジーでも無い、タネも仕掛けもある人間界の物語なのだが、結末近く、確かに、彼岸が、妖魔の/妖精の世界が、一瞬現出する! その瞬間の恐怖と衝撃と、この世ならぬ感動は比類が無い!
EQMM誌日本版創刊号の巻頭を飾った作品だが、もしかして、ミステリファンにとっては、SFファンにとっての「太陽系最後の日」(クラーク。SFM創刊号に掲載された)に相当する作品なのだろうか?
“斧を持つ貴婦人”の正体を喝破する、ルパンの論断の迫力!(私の書写中枢にダメージを与えた [;^J^])忘れ得ぬ作品である。
公知公用のパクられ作品(最近の例では「パタリロ!」等)であるが、オリジナル版の、大トリックにまさるとも劣らぬ重要な要素である、暗鬱で広大な幻想までパクり得ている作品が、どれだけあるのだろうか?
超A級の大ネタ。「木の葉を隠さば森の中。もしも森がなかりせば..」これは、推理小説史上、最悪の悪夢のひとつではないか?
推理小説史上最悪の悪夢、その2である。これは怖い。[;_;] こういう悲劇(悲喜劇?)は、個人から国家に至る、ありとあらゆるレベルで、密かに、あるいは公然と繰り返されているのではないか、と思わせる普遍性がある。(これもしばしばパクられている。)
この上なく馬鹿ばかしいトリックだが、そのあまりにも忘れがたい馬鹿ばかしさ故に、不滅の生命を持つであろう。[^O^] ナンセンスが詩情にまで昇華している逸品である。
耽美の極致。[^J^] 安楽椅子探偵の設定もそうだが、この、呪われた一族の男が死なねばならぬ理由が、麗しい..[;^J^] まさに、伝奇/猟奇の世界。
死体を**に葬る(**に捧げる)という幻想が、美しい。冷静に考えれば、いずれは**してしまうのだが、それは、この短編が終った「あと」の理屈であって、この作品には関係無いのだ。(ネタバレを避けて伏せ字にした結果、意味不明になってしまいました。[;^J^])
トランプ手品のノベライズ版(大嘘 [;^J^])。「単なる密室殺人」という、これ以上はないほど閉鎖的(まさに「閉鎖」的 [^J^])な芸事だが、これほど見事に披露されれば、文句のつけようもない。決して高度なトリックではなく、「もう少し頑張れば、僕にも解けたのに」と、(恐らく)多数の読者に悔しい思いをさせる、その、ほどほどの難しさがいい。(読者に「こらあかんわ」と(謎解きについては)投げさせて、なおかつ、最後まで読ませてしまうタイプの筆頭は、小栗虫太郎かな?[^O^])
ついでだから、ワースト3も [^J^]。マイナー作家の作品や、現在入手困難な作品をあげつらうのは、弱いものいじめみたいで面白くないので、メジャー作家の入手しやすい作品に限定しますね。
わたしゃかなり真剣に怒ったもんね。["-_-]凸
あまりの馬鹿ばかしさと工夫の無さに呆然。
こんなの復刊している暇があったら..>ポケミス
以上、自分の嗜好が、怪奇/幻想/浪漫/奇想、に、著しく偏向していることを、再認識いたしました。[;^J^] やはり、カーとチェスタトン。とにかく、勉強になりました。
P.S.
さて、この20ヶ月、類別リスト以外のミステリを読まなかった訳ではありません。中でも衝撃的だったのが、「火刑法廷」(カー)です。
In article <CAx7xp.Dxu@ntttsd.ntt.jp> 久留@NTT さん: :いわゆる黄金時代の巨匠では、J・D・カー(カーター・ディクスン)が :最高です。『曲った蝶番』(創元推理文庫)や『プレーグ・コートの殺人』 :(ハヤカワミステリ文庫)もいいけれど、最高傑作はやはり : 『火刑法廷』(ハヤカワミステリ文庫) :ですね。一度しか使えない大技(反則技?)が使われています。
カーには、この読破計画の中で出会い、惚れました。その最高傑作と言うのですから、ベストコンディションで臨まなければなりません。読書環境にも気を配りました。1ヶ月以上も積んでおいて、嵐の夜を待ちました。(台風シーズンを外してしまったので、この段階で手間取りました。)そして、電気を切り、燭台に灯をともして、雨戸に叩き付ける雨と風の轟音の中、ゆらめく蝋燭の炎のもとで、血の様に濃い赤ワインを舐めつつ読んだのです。一冊の本に、ここまで贅沢に手間暇かけたのは初めてです。[^J^]
17世紀の毒殺魔と現代の毒殺事件をオーバーラップさせつつ、怪奇ムードを煽り、存在しないはずの扉から去ってゆく幽霊婦人と、死体安置所からの死体消失という、例によって例のごときモチーフを合理的に解明して見せる、というカーの黄金パターンを、たっぷりと堪能し、ああ面白かった [^J^] と、エピローグの頁をめくりました..そして、この最後の5頁で、ほとんど悲鳴に近い叫び声をあげてしまいました。
「火刑法廷」は、『続・幻影城』では、「追記」として「一読して、非常に面白かったことをお知らせしておきたい云々」と触れられているのみであり、ネタバラシはされていないので、今回のベストテンでは対象外なのですが、もしも候補に含まれていたら「Y」を蹴落として、楽勝でトップ当選でした。
Last Updated: Jul 14 1995
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