横溝正史「八つ墓村」


 壮麗な傑作である。本格物としての興味ももちろんだが、それ以上に、大浪漫である点が嬉しい。まずは二段構えの不吉な縁起。動機不明の無意味な連続殺人。その動機は狂人の論理による、対立二項の一方の消去ではないかという気味悪さ。それが実は所謂筋書き実行型(数多の傑作(と駄作?)を産んだ、不気味なパターン)ではないか、という逆転。さらにそれが実はそれを隠れ蓑とした、ある家系の皆殺し計画であった、という再逆転。(カモフラージュのためのダミー殺人。)その(戯れの)筋書きを書いた人物の、自分の筋書きが実行されているという恐怖感、及び、その筋書きに取り込まれて殺されてしまう無惨さ。「****」を想起させずにはおかない、地底の逃避行と宝探し。以上全ての要素が、有機的に絡み合っている。犯行はほとんど誰にでも実行のチャンスがあったこと、及び、ノックスの十則に抵触する通路(といっても、犯行に利用された訳ではない)が早々に現われることも含めて、トリック云々よりも、動機の探求に焦点を絞った点が、成功の要因だろう。(ノックスの十則を読み直してみたら、秘密の通路は、ひとつまでなら許可、であった。[;^J^] 訳文は「一つ以上使ってはならない」、と、意味不明であるが。)

*角川文庫


MASK 倉田わたるのミクロコスモスへの扉
Last Updated: Jul 15 1995 
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