P・ワイルド「検屍裁判 − インクェスト」


 これはいい! 次々と話者が替わって語られる、その物語自体が面白い。推理小説である必要が無い位だ。検屍官リー・スローカムと陪審員たちが調査/喚問をしていく訳だが、おいおいこんな奴等に任せていいのかよ [;^J^]と突っ込みたくなる、そのいい加減さ(ひとりだけまじめなイングリス氏の設定がいい)が、実は擬装。ほとんど悪徳役人かと思われた検屍官が、実は犯人を罠にはめるために愚かな振りをしていた。二段構えのドンデン返しで明らかになった犯人の正体は、既に死んでいたこともあって、検屍官が握り潰す。伏線が上手にフェアに張り巡らされており、間然する所がない。ハーレクイン・ロマンスを思わせる三流小説をヒットさせている女流作家とその関係者、という人物設定も巧みであり、全編に漂うユーモラスな雰囲気の基調をなしている。

*世界推理小説全集27 東京創元社


MASK 倉田わたるのミクロコスモスへの扉
Last Updated: Jul 15 1995 
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