S・S・ヴァン・ダイン「ケンネル殺人事件」


 メイントリック(致命傷を負ってから、自力で密室に入った)は知っていたのだが、同じく既知だった「カナリヤ」同様、問題なく楽しめた。このあたりが、この作者の(前期6作の)真価かも知れない。もっとも、前述した「メイントリック」は、真相の一部でしかなかったから、と言うのも確かである。自殺を装って密室を構成したのは、彼が既に死んでいることを知らない、第二の殺人者であり、つまり、時間差攻撃で二人がかりで殺したのである。第二の殺人者による閂トリック自体は、恐ろしく平易なもので、ミスディレクションかとすら思われたのだが、そうではなかったので、却って効果的であった。既に事態はややこしくなっているので、閂トリックが平易なのは正解。また、第一の殺人者は、第一の被害者にとどめを刺そうとして、誤って第二の殺人者を殺す。つまり、一人を二回殺そうとして二人殺してしまう。実にシンメトリカルで美しい。(それだけに、恋敵への殺人未遂が冗長であり、惜しい。)スコッチテリヤの役回りも、実に自然である。「殺されていることに気がつかなかったのか..」は、きょうびはケンシロウの台詞だよなぁ [^J^]と言いたいところであったが、「北斗の拳」自体、既に古典であって、きょうびの若者は知らなかったりするのであった。[;^J^]

*創元推理文庫


MASK 倉田わたるのミクロコスモスへの扉
Last Updated: Jul 15 1995 
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