高木彬光「能面殺人事件」


 思わず落涙するほどの傑作。探偵/記述者が3人いるのだが、その全てにトリックが仕掛けられている。巻頭いきなり第1の記述者=作者=迷探偵によって「A作品」のネタばらしがされていて目をむいたのだが、これが実は伏線で、第2の記述者によるメタ・A作品(記述者=探偵=犯人)トリックを、(密かに)堂々と予告している。第1の記述者は、ほうほうの体で逃げ出した格好であるが、実は犯人(第2の記述者=親友)を探り当てていた。しっかりええかっこをしておる。[;^J^] この多重枠構造がメインの趣向なので、密室構成トリックのしょうもなさや、殺害方法(空気を注射した)の今ひとつのつまらなさは、問題ではない。これだけでは、探偵小説を読んでいればいるほど引っ掛かるパズル小説に過ぎないが、それから一線を画しているのが「財宝の隠し場所」! 原子番号による暗号から、鉛の管に封じられたラジウムの塊が発見されるのだが、これは明らかに「I作品」を想起させる。(「I作品」では「伝説の奇蹟の石」だったが。)「I作品」自体、遥けき「ゴシックロマンの世紀」へのノスタルジーとオマージュにつつまれた作品なのである。この雄大な借景! 第3の記述者のロマンスと犯罪の告白とが、全編をロマンティックに美しく閉じる。「A作品」の他、「G作品」「僧正」「カナリア」がネタばらしされている。特に「G作品」は、目次も含めて度々言及されており、これもまたミスディレクション(“ラスト近くまで生き残った、最も弱々しくはかない人物が真犯人であると、暗示しているのだろうか?”)となっている。

*角川文庫


MASK 倉田わたるのミクロコスモスへの扉
Last Updated: Jul 15 1995 
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