M・P・シール「プリンス・ザレスキーの事件簿」


 プリンス・ザレスキー物の、粘着度の高い文体と、うっとうしいペダントリイは、後の黒死館やファイロ・ヴァンスに通ずる系譜か。廃墟の中の狭いが天井の高い豪華な空間で、美術品や骨董品に囲まれて大麻を燻らせる、というのは、オタクの夢かも知れない。[;^J^]「オーヴンの一族」−自殺らしいということは早くから判るが、その動機−一族の男は中年の終り頃に発狂するので、その息子が殺さなければならない−というのは、耽美的に美しい。「S・S」−医学の発達が、人類を疲弊させつつある(死ぬべき不良因子が生き延びている)、という指摘。プリンス・ザレスキー物では、他に「エドマンズベリー僧院の宝石」「プリンス・ザレスキー再び」を収録。カミングズ・キング・モンク物を三篇。「モンク、女たちを騒がす」−軽妙なユーモア。「モンク、『精神の偉大さ』を定義す」−痛快な哲学問答。ダンテやミルトンに対する攻撃については、弁護したい点も多々あるが。(『失楽園』には、天動説か地動説かの逡巡(日和見)が見られるのだ。)「モンク、木霊を呼び醒す」−演繹的に犯罪を予見する。他に「推理の一問題」。

*創元推理文庫


MASK 倉田わたるのミクロコスモスへの扉
Last Updated: Jul 15 1995 
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