全編に鐘の音の鳴り響く、不思議な魅力が満ち溢れた好佳篇。英文学をたいして読んでいる訳でもないが、鐘鳴術をこれほど書き込んでいる作品には初めてお目にかかった(と言うか、この文化自体を、ほとんど知らなかった)。これが単なる背景にとどまらず、事件の根幹(というか、殺人の実行)に直接関与していることは言うまでもないが、そういう役回りだけではあざと過ぎる訳で、単なる背景としても、たっぷりと活躍している。このバランスがいい。事件は、最終的には、殺人犯の脱獄囚を互いに連絡せずに「3人」が独立して痛めつけた、即ち、ひとりめが捕縛して監禁し、さんにんめが、死体となった彼を埋めた、では、彼を殺した「ふたりめ」は誰だ?というポイントに絞られていくのであるが、終盤、それが煮詰まってしまう。で、それを脇においといて、洪水の場となる。この災害シーンが読みごたえがあるのであるが、これを、人々の素晴らしい協力で切り抜けたあと、(もしかすると忘れていたかもしれない)「ふたりめ」の正体に思い至る、という結末が、最高に素晴らしい。
創元社Last Updated: Jul 15 1995
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