相互に全く関連の無い被害者たちが、20年前のとある裁判の陪審員たちであった、と言うのは、後半早々モアランドソンの名前が出てきたところで見当がついた。(開始早々6頁目に伏線があった。)流石にクラシックと言うか、甘い点はある。一人三役の変装が巧妙すぎ、また、モアランドソンの擬装の死のトリックが、医学的にばれないと思えない、など。6人を殺した手口も、格別のトリックは使われていない。しかしこの作品は、犯行の動機が切実で、犯人を憎むことが出来ない。友情故に友人を安楽死させた医者を殺人犯として断罪した、偏狭な道徳感を持った陪審員たちに対する復讐、というテーマは、現代でも立派に通用する。カードによる警告のサスペンスも、捨てがたい。
早川ポケットミステリLast Updated: Jul 15 1995
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