この作品の構成を記す梗概を先に読んで、これは際物かと思ったが、そんなことはなかった。12人の経歴を述べる第1部が、まず面白い。第2部の犯罪は、サキの「スレドニ・ヴァシュター」を巧妙に引用して、悪夢的なムードを盛り上げている。第3部は、法廷シーンと、それに続く陪審シーン。後者に出てくるメーターは、全くあらずもがなである。先駆的な試みだったのならば尊敬するが、二番煎じなら軽蔑する。2回やる値打ちがあるとは思えないからである。被告は無罪となるが、実は(どちらかと言えば)有罪であり、しかもそのことを被告自身が認識していなかった。後味が悪いと言えば悪いが、この程度の「危険の看過」が死刑に相当するかと言うと..プロバビリティの殺人という認識があれば、死刑だろうが、この被告は無知蒙昧なのである..
早川ポケットミステリLast Updated: Jul 15 1995
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