M・ルブラン「虎の牙」


 23年前に読んでいるのだが、全く内容を覚えていなかったので、再読。推理小説としては、前半の、被害者=犯人というか、姦婦と間男を破滅させるために、彼らに殺された風を装って自殺する男の話が興趣あるが、後半というか、全編の黒幕の正体が、唐突に現れた不具者、という点が、古い。犯人当て狙いで読んでいると、はぐらかされる。「虎の牙」の伏線もなんだかなぁ。うやむやになった伏線は、他にもいくつかある。しかし、ひたすら面白い犯罪冒険小説ではある。ルパンというキャラクター、その荒唐無稽な能力と英雄的な冒険譚と、全編を覆うロマンティシズムを認められるか否かで、評価が分かれる。認められないという立場は完全に理解できるが、それでは寂しいと思う。

*創元推理文庫


MASK 倉田わたるのミクロコスモスへの扉
Last Updated: Jul 15 1995 
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