F・アイルズ「殺意」


 倒叙形式の古典。誰が誰を殺すかはあらかじめ判っていたので、殺人者たる主人公が、(裏切られるに決まっている)情事にふける前半は退屈で、「さっさと女房を殺さんかい!["^J^]」と怒りながら読んでいたのだが、殺してから以降の後半のサスペンスはさすがである。前半、夢想にふける主人公のメンタリティのリアリティは、身震いするほどだが、次第にそれが誇大妄想に憑かれ、自身の行為の記憶すら欺いてゆく、心理の推移の描写がみものである。裁判の結果、証拠不十分で無罪を勝ち取った直後、ラスト2頁で、(かつては)殺してやりたいと思っていた男の、自分とは全く無関係の病死の毒殺犯として逮捕され、冤罪で処刑されてしまう。しかし、この女房の殺し方は酷い。モルヒネを必要とするほどの頭痛を引き起こす薬を毎日与え、事実上モルヒネ依存症とした上で、モルヒネの大量注射で殺すのである。モルヒネの件はともかく、逆頭痛薬の件は、(しばしば偏頭痛に悩まされるわが身を顧みるほどに)許せんっ!!

*創元推理文庫


MASK 倉田わたるのミクロコスモスへの扉
Last Updated: Jul 15 1995 
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