犯人は人物設定からかなり自明であったが、動機は終盤の説明まで不明。その意味ではフェアなパズルとは言えない(動機が判らないので、“彼”を犯人と指摘しようがない)が、犯人当てだけが探偵小説ではあるまい。(一家の中心的な姉妹二人が、共に犯人でなく、かつ生き残る、というのは、それなりに意外。)動機に結び付く過去の事件が、(同じパターンで)ふたつあった、というのが面白い工夫。いわば過去からの脅迫/復讐者がふたりいた訳だが、これが終盤にならないと出揃わないので、錯綜した効果をあげ得ていない憾みが残る。横溝正史ならば、この地縁血縁でオドロオドロしく盛り上げるところだが、作者の資質故か、スマートな触感に仕上がっている。
日本探偵小説全集5 創元推理文庫Last Updated: Jul 15 1995
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