シチュエーション本位というか、前置き無しで飛び切りの設定(と死体)を呈示し、パズルを解いていくという型の典型的な作例。何者かが空き家に家具を運びこんだ翌日に、警察に招待状。翌朝には死体と10個の未使用のティーカップ。同じパターンが2年後にも繰り返され、今回は警察が密室を完封したにも関らず、やはり死体と10個のティーカップ。そして3回目に..2回目の犯行は、1回目のシチュエーションだけを、別の犯人が別の目的で模倣したもの。例によって(架空の)秘密結社が語られるが、これは一種迷信深い冒険的な被害者をおびき出す餌でもあった。密室内から犯人が消えた−即ち犯人はそこにいたはずだと判断された(「三つの棺」と良く似た設定)のは、二発の銃創が焦げていたからであるが、頭部の方は、前日に別の原因で焦がしており、そこを窓の外から狙い撃ち。背中の方は、銃を投げ込みぶつかったところで暴発。気になるのは、これでは髪の焦げた臭いが残らないのではないかということ。それを除けば、格別の霊感は感じられないが、無理のない正攻法のトリックだと思える。無論、この作品の「謎」は、霊感に満ちている。
創元推理文庫Last Updated: Jul 15 1995
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