J・コニントン「当りくじ殺人事件」


 グループ購入した籤(馬券)が大当たりした、その分け前を巡ってグループの構成員がひとりひとり片付けられてゆき、生き残り組の取り分が跳ね上がっていく..という、変形「遺産『争』続」パターン全体が、ミスディレクション。これを隠れ蓑とした第三の殺人が、本命。動機は、伯父の事業の相続で、心情的側面も有り。この犯行の直前に、犯人を袖にした女に復讐するために、犯人が他の人間を冤罪に陥れようとする、そのためにややこしい工作をしており、ここが一番無理がある。あまりにも作為的な欺瞞であり、この嘘がいずれ露見しないとは到底考えられないからである。これに先立つ犯行に際しての、自己のアリバイ工作も、偽手紙による時刻ずらしであり、なんとも危うい。第一の犯行におけるアリバイ工作は、フィルム入れ替えによるものであり、これまた実に苦しいものであるが、これは意外に興趣がある。大自然を舞台にした「太陽光線の偽造」トリック、という、スケールの大きさ故か。いずれにせよ、第一級の傑作ではないが、戦前に抄訳が出たのみ、というのは惜しい。

*Hodder and Stoughton, London


MASK 倉田わたるのミクロコスモスへの扉
Last Updated: Jul 15 1995 
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