20年以上昔に、悔しい思いをした作品である。真犯人が指摘される5頁程前で真相に気が付いたのだが、「まさかそんな」と半信半疑で読み進めた直後に、真相が明らかにされたのであった。疑った以上、僕の負けである。しかし、この点を除くと、驚くほど記憶に残らない作品でもある。テープレコーダートリックを併用しているが、これは感心しない。平凡なトリックだと言うのではなく、他の作家の代表作には、このトリックだけで長編を持たせているものがある、ということ。つまり、この時代にあっては、それなりの大トリックだったのであり、これで、本命の大トリックであるところの記述トリックを補強しているが故に、後者のインパクトが弱まってしまっている。記述トリックだけで押し通して欲しかった。(行き着く先は、筒井康隆の「***」ということになるかも知れないが。)
早川ミステリ文庫Last Updated: Jul 15 1995
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