G・K・チェスタトン「奇商クラブ」


 「詩人と狂人たち」の雰囲気と、極めて近しい。珍事冒険斡旋業、当意即妙の問答創案、引き止め屋、樹木家屋斡旋人、踊り語の創始者、自発的犯罪法廷判事。商売になっていない連中も含まれている気もするが、まぁいい。[;^J^] 「チャッド教授の奇行」(踊り語)の奇想(ナンセンス)が真骨頂か。他に、短編と中編、各一編。「背信の塔」−なんという美しい物語だろう! どうして、こんなややこしい方法で宝石を盗みださねばならぬのか?という疑問は、ほとんど無意味である。トランシルバニア地方の風景の中、異様な塔とその守護団。塔上から銃に込められて発射される宝石と、犠牲者の体内から宝石をえぐりだす男。夢の色彩で描かれた、一幅の絵である。「驕りの樹」−神話的な怪樹とそれにまつわる奇怪な事件。全ては、迷信を終らせるために合理主義者が打った狂言だったが、実はその樹木は、本当に死(熱病)をもたらしていたのであった、という逆転。筋、背景、会話、いずれも万全の傑作。

*創元推理文庫


MASK 倉田わたるのミクロコスモスへの扉
Last Updated: Jul 15 1995 
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