G・K・チェスタトン『ブラウン神父シリーズ』


*「ブラウン神父の童心」

 アイデアの宝庫である。最初は泥棒として登場したフランボウが「見えない男」以降、探偵となる。スケール雄大な「折れた剣」が特選。トリックは既知であったが。同じく既知の(有名な)トリックの「見えない男」の他、「イズレイル・ガウの誉れ」「サラディン公の罪」も素晴らしい。他に「青い十字架」「秘密の庭」「奇妙な足音」「飛ぶ星」「狂った形」「神の鉄槌」「アポロの眼」「三つの兇器」が佳作。


*「ブラウン神父の知恵」

 「器械のあやまち」が最もまとまっている。「通路の人影」の評価が高いらしいのは解せない。鏡像の件は犯罪を構成していないからである。「ヒルシュ博士の決闘」は、一人二役はいいとして、何故こんな手の込んだことをするのか判らない。その他、「シーザーの頭」「紫の鬘」「ペンドラゴン一族の滅亡」「銅鑼の神」「クレイ大佐のサラダ」「ジョン・ブルノワの珍犯罪」「ブラウン神父のお伽噺」が佳作。


*「ブラウン神父の不信」

 「ギデオン・ワイズの亡霊」と「ダーナウェイ家の呪い」が特選。後者の絵画趣味、没落の旧家という舞台は、好みである。また、作者の照れ隠しか、「おそろしく陳腐であほらしい話ですよ。(中略)秘密の通路が一つくらい出てくるのも、やむをえんことでしょう」と、ほとんどメタな台詞が出てくる。「ブラウン神父の復活」の動機は意表をつく。「天の矢」「ムーン・クレサントの奇跡」(これは乱歩が何かに引用したような気が…)も結構。「犬のお告げ」も悪くない。「金の十字架の呪い」は、よく判らない。他に「翼ある剣」を収録。


*「ブラウン神父の秘密」

 「顎ひげの二つある男」が特に良い。「大法律家の鏡」「俳優とアリバイ」「ヴォードリーの失踪」「世の中で一番重い罪」が佳作。「飛び魚の歌」のラストのギャグ(?)は例によって秀逸。「マーン城の喪主」も優れている。特に、「(前略)あなたがたが人を許すのは、許すほどのことが何もないからなのだ」(p266)に始まるラスト1頁の心情(理念)吐露は、ブラウン神父ものの真骨頂と言える。


*「ブラウン神父の醜聞」

 「古書の呪い」「とけない問題」の両編が、偽装犯罪を見事に描く。その他、「手早いやつ」「共産主義者の犯罪」「ピンの意味」が佳作。ブラウン神父の方法論は、人間観察に始まり人間観察に終わる。


*創元推理文庫


MASK 倉田わたるのミクロコスモスへの扉
Last Updated: Jul 15 1995 
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