J・D・カー「絞首台の謎」


 エジプト絡みの怪奇ムードの他は、特に取り上げる点も無い作品。犯人が密室?に運びこんだ品が、いずれも壊れにくい物品で、一ヶ所に集中していたという点から、天井から落とされたことを見破る箇所は少し面白いが、本質とは関係無し。印象的なのは、髪の毛をもずっしりと湿らせるロンドンの霧の、度重なる描写で、特に、それが室内で渦を巻いているシーンには感じ入った。アルジス・バドリスの端倪すべからざるSF短編「闇と夜明けのあいだ」にも、そういう描写があって感嘆したものだが、イギリス人には珍しくもない光景であったか。屋内の暗さも印象的。魔夜峰央がこれにインスパイアされているのは確実である。探偵の名はバンコランであるし、無実の罪で死んだ男の名はキーンだ。

*創元推理文庫


MASK 倉田わたるのミクロコスモスへの扉
Last Updated: Jul 15 1995 
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